めでたしめでたし?
結界が回復した話です。
安西、京極、三条城、清水、嵐山の各格ににある宝玉を一堂に集めた。すると死んでいたはずの玉が呼応するかのように共鳴しだした。
そこで封印の札を剥がすべく、祖母が己が血で梵字を認めていく、と、薄皮が剥がれるように札がめくれ上がる。
「もう少しだの! 今度は真紅、お前がやるのだ」
「えぇ? 私が? 嫌だと言ったら?」
「当分飯抜きじゃな。元々はぬしの役目であろうに!」
「はいはい、分かりましたよ」
と、言いながらも真紅は小声で、
『鬼婆』
と、付け加えることを忘れなかった。
「何か言ったか、真紅や?」
と、祖母の鋭い視線を受け流すように、彼女は小刀で自分の左指に切れ目を入れ、そこから滴った血糊を右人差し指で受け止め、祖母から手渡された宝珠に梵字を書き込む。
すると今度こそ札は剥がれ落ち、本来の宝珠の輝きが解き放たれた。
五つの宝珠の全てが輝き出すと、
「これで結界が蘇る。そこでじゃ、おろち退治したいと思うのじゃが、囮は、真紅、ぬしがやるのじゃ。良いな!」
しかし、それには九十九が大反対してきた。
「お待ちくだされ! お婆様、真紅殿は先ほどまでとこに伏せっていた身なれば、此度の重役を成し遂げるのは不可能。さすればその大役をこの私目に仰せつけくだされ」
そう言って深々と頭を下げる。
それに便乗してなのか三条夕奈が、
「私もお役に立ち当ございます。どうか私目にも!」
と、九十九の右に座り直し、こちらも頭を下げる。
それを傍観していた天宮遙までもが、
「先の大役を果たした褒美として、此度の大役をも仰せ付けくださいませ」
と言った彼女は、軽めにお辞儀をする。
祖母が楽しそうに迷うふりをしていると、
「ちょっと待ってください」
と九十九の母者が物言いをつけた。
「宝珠の封印を解いた功績は認めますよ」
と、分けが分からない言い分をしだした。
それで祖母がなんなのかと問い糾せば、
「封印を解いた功績は認めましょう。しかし、それはお婆様の力があればこそ出来た話。だから、出来た、出来なかったの中間で決着させましょう」
何のことか分からない真紅が、
「それってどう言うことでしょうか?」
と、眉をほんの少し動かして聞き直した。
「ですから中間ですよ。解けた時の約束事と、解けなかった時の約束事の中間です。だから、始めからなかったことになりますね」
「そんな!!!」
と絶句している真紅は、祖母の顔に助けを求めた。
すると祖母は思わないことを言い出した。
「九十九殿の母者、九十九殿は我が朝比奈家の婿養子。言うなれば朝比奈家の跡取り息子でございます。そう気楽に声をかけられるのも迷惑千万、以後慎みあれ!」
それには開いた口が塞がらないとばかりに目を白黒させているとことに、九条当主が、
「それなのですが、どうでしょう。婿、嫁などと、今は区切りをつけずに、両家が万々歳となる良計を考えませぬか?」
と、少しは前向きになった所に、遙がしゃしゃり出て、
「それならいっその事、九条九十九殿は私と婚姻を結び、成した子の一人目は天宮家、二人目は九条家と交互にいたせば良いではないか」
と言った後、気が付いたように、
「朝比奈殿には適度な陰陽師など探してあげましょう。それでよろしいでしょう」
と、話は着いたと言わんばかりの終わり方をした。
が、夕奈が、
「馬鹿を言っちゃお釈迦様も笑い出すっての! 条家のことは条家で解決しますっての。部外者は首を突っ込んでくるなっての!」
そのあまりの口の利き方でさすがに三条当主も気が気ではなく、
「天宮様、どうかお気を悪くしないでください。この子もまだ子供でして」
と、平謝りの恰好だ。
それには遙も、
「三条殿、良いのですよ。ただし、私が部外者だと言った言葉を訂正してもらえればですがね。どうしますか? 訂正しますか?」
夕奈は、「訂正なんて」と言いかけたが、当主がその口を押さえつけ、
「訂正しますとも、訂正させてください。では、私どもはこれにて」
と言いつつ宝珠を木箱に入れて夕奈を引き摺って出て行った。
「これで静かになりましたね。では、九条殿の存念をお聞きしましょうか」
遙にこう迫られた九条当主は、
「ですから、九条家は朝比奈家と婚礼を交わし、生まれてきた子をそれぞれの跡継ぎにするという考えでいるのですが」
「それでは私の願いが立ちゆきませぬ!」
そこに祖母が大きな咳払いをし、
「天宮遙殿、あまり聞き分けがないと先日のような目に遭いまするぞ!」
と、脅しとも取れる口調で言い放った後、
「九条殿、それでこちらにも依存はござらぬ、が、生まれた子が、おなごなら朝比奈家に、男の子であれば九条家でよろしゅうござろうな?」
「それは願ってもない!」




