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朝比奈真紅の戦い

終わりが近づいてきました。

無事に真紅の意識が戻るでしょうか?

 明鏡止水の術は今もって効力を発している。


 九尾の狐の首領には真紅の姿がはっきりと映し出されている。そして、そこに真紅の魂が宿っているのだ。


 あれから数日を経て狐は様々なことをしたが、呪いの如くに真紅の姿を消すことが出来なかった。それでついに動きを止めどうしたら良いのかを考え出した。


『おぬし、わしに何をした? 取り憑くのとは違うよな?』


 しかし、それに答える真紅ではない。


 だから、狐は最大の譲歩をして見せる。


『此度は痛み分けと言うことにしないか? 条件次第では、わしはここを引き払い他国に行っても良い。どうだ? 悪い条件ではなかろう。何しろわしは九尾の狐の首領なのだからな。ぬしにとったらかなりな手柄だろう!』


 そこで真紅は、

『まだ法典しか発動させていないというのにこの騒ぎ、九尾の狐と言っても大したことはないんだな』


『なんだと!? これはなんと言う術なんだ?』


『明鏡止水。聞いたことはなかろう?』


『いや、一度どこかで聞いた覚えがある。これが明鏡止水、これが……、それも法典だけだというのか? では術典が発動したらどうなるんだ? 教えるだけで良いのだが』


『法典で一つになり、術典で共々鏡の中に入り、経典で……』


 そこではっと気が付いた。


 で、その焦りを狐が気付き、

『ほほう、経典で、どうするのじゃ。よもや術を解除するとかいうんじゃないだろうな』


『だとしたらどうだと言うんだ? 経典がなくとも何とか出来るわい!』


 と、真紅自ら墓穴を掘ってしまった。


『ほほう』と、再びニタニタと笑い声を上げ、『だったら交渉しようではないか?』


『交渉とな? 私が狐如きとか?』


『そう尖るな。もともとうぬも命がけの真剣ではなかったのだろう? なぜなら、おのが命を賭けた真剣勝負なら、これほど大事なものを忘れたりはしない。そうだろ?』


 真紅は、自分自身の甘さにを指摘された気がした、が、また、これも運命かとも思い、

『では、そちの条件を言ってみよ』


『そうこなくっちゃ。わしも退屈だったのよ。うぬにも分かるだろう。頂点にまで登り詰めたるものの孤独と同じに、見極めしものにとったらこの世は退屈なのだよ』


『フフ、それは太平の世だからそう言うのだろう。一度世が乱れれば、それこそうぬらの天下ではないか。その時を待ち焦がれるって寸法か?』


『それもありかも知れぬ、が、それは我らが役目ではあるまい』


『何故じゃ?』


『此度の元凶と同じく、乱世の世を産むのは人の仕業と相場が決まっている。我らは徴用されるだけよ』


『しかし、暴れるのは好きじゃろう?』


『それは、な! 退屈なのが一番堪えるのよ! だから、うぬの手助けをしても良いのだぞ。これは好待遇だろう?』


『手助け? 下僕と言う隷属の間違いだろう?』


 そこで論議しても好転しないと狐は判断し、

『良かろう。それで手打ちじゃ!』


『ふむふむ、まだ、私の力を侮っているようね』


『というと? まだ、これ以上に出来る事があると?』


 真紅はそれに答えず、

『では、我が家に向かってくれ。場所は分かるな?』


『おぉよ、では!』


 こうして九尾の狐の首領は瞬く間に朝比奈家にたどり着いた。


 その気配で察知した祖母は、その狐を丁寧に出迎えた。


「これは狐殿、ようおこしになった」


「お邪魔いたす。真紅様の使いできたのだが?」


「子細は二人で決めたのだな?」

 と、祖母の目が爛爛と光っている。


 九尾の狐の首領といえどもそのおぞましき光る目には背筋すら冷たくなった。


「そうです。真紅様が納得したことです」


「ふむ、それなら良かろう。では、中に入れ!」


 狐は家の中に入る前から、前後左右にぬしたちが詰め寄せられいたく圧迫されていた。


「あの、お婆様、わしは逆らったりいたしませぬから、このぬしたちをどこぞに待機させてはくれませんか?」


「いうて言うことを聞くとおもうてか? 聞かぬ聞かぬ。無駄なことはよしたがよい」


 そう言われるとどうにもならなくなった狐は黙って付いていくと、お婆の自室にたどり着いたが、そこで香の呪縛にさすがの狐もがんじがらめになってしまった。


「これは、どうしたことですか?」


 狐がそう言って不安を解消しようとした。が、身動きが出来ぬ。


「安心せい、無事に真紅が戻ればぬしに手は出さぬ!」


 そう言って祖母は経典を持ってきてはそれを狐に手渡し、

「それを真紅に見せろ。あぁ、難しいことを考えんでも良い。それを見るだけで真紅に伝わるのだ」


 そう言われて狐は経典を紐解き目を通せば、術が解けた。


「おぉ!!」


 と、大喜びの狐が小躍りした。


 それと同時だっただろう。


「お婆様、お婆様!!!!」


 と、大きな声で真紅が叫びだした。


 大慌てで祖母が行ってみると、そこには布団から起き上がった真紅がいて、

「私って何日、お風呂に入っていないの?」

 と、体の匂いが気になっているようだ。


「何日って、今日で六日になるぞ!」


「その間、何も食べずに、何も……?」

 と、かなり驚いている。


 その真紅に祖母が無表情で、

「おむつなら何度も取り替えたぞ」


「わぁぁぁ!!」

 と言っては真紅は顔を伏せて大泣きし始めた。


 その真紅に慰めの言葉はかけずに、

「これもそれも全てはおのが未熟が産んだことじゃ。これに懲りてお婆の言うことには従うことだ!」

 と言い切ってから、家の者に、

「はやく湯をわかしてやれ。お漏らし娘が湯に浸かるそうじゃ」


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