佳代子の危機
自動車教習所に来ている、運転技術も学科も順調だ、白い手袋の御世話にならなくても、免許取得は出来そうだ、教習所の帰り道、工場街を通りながら、佳代子が襲われたのは此処だったな、なんてこと事を思い出しながら歩いていた、可愛いくて小悪魔的な、佳代子の顔を思い浮かべながら、会う切っ掛けを作ってくれたのだから、あの時の犯人たちには、ちょっぴり感謝かもしれないな、いや駄目だ、何もなかったから思ったが、俺が助けなければ佳代子の人生は、どう変わっていたか分からない、矢張り彼奴らは許せない、なんだか複雑な思いだ、もし今度会ったとしたら、どうしてやろう、だけどもう会うはずはないか、会っても残念だが、あの時は夢中で顔を覚えていないんだった、一人苦笑していると
「おい、小僧、ちょっと待て」
突然声がかかった、十代後半、高校生か大学生か、見るからに不良な男たちが五人出て来た
「何か用」
「ああ、お前生意気なんだってな」
それとなく右手に白い手袋を嵌める
「いや、どちらかと言うと控えめかな」
「小僧が俺たちをなめているようだな、ちょっと痛い目を見てもらうぜ、お前に恨みはないが、頼まれたんでな」
そう言って一人が胸ぐらを取りに来た、その手を払う、ボキッと音がした
「いってえ、あー、骨が折れた、いたいよー」
「てめえ、やりゃあがったな」
一斉にかかって来た、こういう事に慣れていないようだ、さっとよけただけで、自分たちでぶつかりあっている、それを見て
「俺はこっちだよ、仲間同士で何やってるの」
「小僧、もう許せねえ」
掴みかかって来た男の腕を取って、一本背負いで道路に叩き付ける
「ゲワッ」
訳の分からないうめき声がしたと思ったら、動かなくなった
「はい、後三人、いらっしゃい」
逆上もピークのようだ
「小僧、ふざけやがって」
とびかかって来たのを、躱し様に足を払う、道路にもんどりうって動かなくなった
「はい、後二人」
残った二人は、余りの出来事に躊躇している
「どうするの、帰っちゃうよ」
歩き出すと、後ろから掴みかかって来た、それを屈んでかわす、覆いかぶさって来たところを、立ち上がる丁度のタイミングで腹部に頭突き、男が吹っ飛んで道路に落ちた、残る一人はおろおろと立ち尽くしている、携帯で110番に電話しながら、その場を立ち去る、直ぐにパトカーのサイレンが聞こえた、速足で建物の裏側に回ると、やはりいた
「加藤、未だ懲りないようだな、警察に行こうぜ」
加藤の手引っ張って歩き出す
「止せ、止めろ、なんで俺が」
「今の連中をけし掛けたのは、おまえだろう」
言いながら引っ張って歩く、踏ん張っても引きずって歩く
「悪かった、勘弁してくれ」
「勘弁できないよ、自分じゃ何にもできないくせに、親父に頼む、チンピラに頼む、放って置けば今度は誰に頼むかな」
「もう、何もしない、警察だけは」
「いや、警察に行って、味わって来いよ、お前は世の中甘く見過ぎだ」
「助けてくれ、本当にもう何もしないから」
その時、再び鳴り出したパトカーのサイレンが遠ざかっていった
「ああっ、パトカー行っちゃったし、だが次はないからな、今回はしょうがない見逃してやるが」
「絶対、本当に懲りたから、絶対やらないから」
「よし、じゃあ、行って良いぞ」
そう言うと、加藤はすごすごと去って行った、最初から警察になんて、行く気はなかった、調書だ何だと時間はかかるし、骨折した奴がいるので、過剰防衛とか言われたら、俺が悪者になってしまう
「全く、根性はないくせに、人頼みで何とかしようとする、飛んでもない奴だ」
その時スマホが鳴った、親父からだ、親父が俺に電話なんて珍しい事だ
「慎也、城西高校は佳代子ちゃんの、通っている学校だったよな」
「そうだよ、なんで」
「城西高校で生徒たちを人質に、テロリストが立て籠もった、事件が起きているらしい、ニュースで言ってるぞ」
「ええー、なんで」
「詳しくは分からないが、街は大騒ぎだ」
工場街のせいか、この辺は普段通りだ、何も騒ぎは感じない
「なんでだよ、選りによって、佳代子の行ってる高校で」
ここから走って行けば十分か、急いで佳代子の高校にむかう、途中やはり高校に向かう人たちが大勢いた、到着すると校門からは、省察の警戒線のテープが張られ、知被けなくなっていた、先に見える校舎の周りは警官の数が凄い、父兄たちも来ているだろうが、やじ馬も相当数いる、犯人の人数は、目的は、要求は何だったか、全く分からない、情報を仕入れなければ、と思ったが、自分で調べる方が早い、高校から少し離れたところで、物陰に入り白い手袋を両手に嵌める、これは俺流に解釈しているのだが、手袋を嵌めると体が、異次元に移動してしまう、その為現世にはいなくなるので見えなくなる、障害も突き抜けていける、事実そうなのだ、では異次元から俺のやる事が、この現世に作用するのは何故だろう、それが分からない、都合よすぎるが作用するから、良しとする深く考えない、俺の勝手な解釈だが、いくら調べての分からないからしょうがない、人に聞くこともできないし、自分流に自分をを納得させるしかないのだ
警察も人も無視して、校舎内に入る、静かだ、一階には誰もいない、二階、居た、見張りだろう階段の踊り場に、三十代くらいの二人の男がいる、マスクをしているが真剣な面持ちで見張っている、こういう事に慣れているようには見えない、通過して二階の廊下を進む、校舎の中ほどの教室に、三十人程の生徒が机を端に寄せた、床に座らせられている、監視が三人、ほとんどの生徒は逃げられたようだが、この教室の生徒は逃げ遅れたようだ、理由は分からないが、ほかの場所で逃げ遅れた、生徒たちをここに集めたのかもしれない、佳代子を探す、居た、割と普通の顔をしている佳代子を見て、無事かどうかも、確認しないで、人質になっていると、思い込んでいた事に気が付く、結局こうして人質の中にいたわけだが、男子と女子半々くらいが、男女分けられる事無く、ごちゃごちゃに座らせられている、皆怯えた顔をして下を向いているが、佳代子だけは怯えが見えない、あいつ、俺が当然来るから、心配ないと思っているのだろう、その自信はどこから来るのか、確信しているのが信じられない、しかし、いかに見えなくても、三人の見張りを同時にやっつける事は、不可能だろう、一人ずつだと残ったやつが、人質に何をするか分からない、どうしよう、あっ、女の子が一人声を上げて泣き出した
「うるさい、静かにしろ」
女の子は慌てて口を両手で抑えだが、声を殺して泣いている、見張りは三人とも銃を持っている、迂闊な事は出来ない、どうしよう、せめて三人が纏まれば、なんとかなるが、離れて監視している、泣き出した女の子につられて、何人かの女子がしくしく言い出した、その時、外からスピーカーで警察の説得が始まった、放送を聞いて三人が集まり、何か相談を始めた、しめた、この時を逃がしてはならない、手早く三人の延髄を、手刀で打ち気絶させると、急いで階段に戻り二人を始末する、他に仲間はいないようだ、教室に戻ると男子生徒達が、三人を抑え込んでいる、拳銃は取り上げて、離れた場所の机の上に、三丁並べて置いてある、生徒の一人が窓を開け、外に向けて叫んでいる、直ぐに警官隊が突入して来た、これにて一件落着、警官が犯人たちを逮捕したのを確認すると、急いで家に帰る、誰もいない自分の部屋で、手袋を取ると、ほっと一息入れて、自転車で佳代子の高校に戻る、佳代子は当然のように、俺を探していた、自転車で傍に乗り付け
「佳代子、大丈夫だった、家でニュースを見てビックリした、慌てて飛んで来たら、もう解決していたんだ、良かったな、無事で」
そう声を掛けると
「又惚けてる」
そう言って睨んで来た
「なに、どうした」
「今日も、あんたがやったんでしょう」
「何を」
「あいつら、突然倒れちゃったんだよ、またあんたがやったに決まってる」
「何の事、俺は今家から来たところだよ、俺が何をしたって言うんだ」
「絶対そう、そうに決まってる」
「何だか知らないが、今の話、本当か、犯人が突然倒れるなんて、警察が捕まえたんじゃないのかよ、嘘みたいな話じゃないか」
「絶対に、あんたなのに」
「だから、俺が何をしたって言うんだ、馬鹿言ってないで帰るぞ、送るから」
そんなやり取りをしていると
「佳代子、良かった、無事だったか」
佳代子のお父さんが、駆け寄って来た、はぁはぁと息を切らしている
「竜崎君、来てくれていたのか、すまんな」
「いいえ、ニュースを見て、驚いて」
「私も驚いたよ、一寸遠くにいたものだから、タクシーできたんだが、タクシーがあんなに遅く感じたのは、初めてだよ」
そう言って言葉を切ると、周りを見回し
「しかし、よく早期解決したもんだね、日本の警察は凄い」
そう言うお父さんに
「さあ、どうかしら、警察が凄いのかな、犯人をやっつけたのは、警察じゃなかったよ」
佳代子がそう言ったので
「えっ、警察が救助してくれたのではないの」
「うん、犯人たちが誰も何もしないのに、急に倒れちゃって、だから男子が大勢で取り押さえたんだ」
「ええー、そんな事、この間の、ファミレスと同じ事が」
「そう、そうなの、お父さん私、あの時もあそこに居たの、目の前で両方とも見た、両方とも、そっくり同じようだった、これって偶然かなぁ」
「それは偶然だろう、他に何か考えられる、何かがあるのか」
そうお父さんが言うと
「まあ、一寸思い当たる事はあるんだけど、確証がないの」
「ええー、それは凄いじゃないか、それって、確証無くても良いから、お父さんに教えてくれ」
なんとまずい事を、佳代子の奴、どうすればいい、そう思っていると
「うん、でも、私の勝手な想像だから、人に言える事じゃない、現実味がない話だから、笑われちゃう、そんなの嫌だから、言わない、本当の事は、そのうち警察が明らかにしてくれるでしょう」
佳代子がそう言った、ほっと胸をなでおろす
「そうだな、何れにしろ、日本の警察は優秀だからな、そのうち分かるだろう、まあ、いずれにしても無事でよかった、帰ろう」
おじさんがそう言うのを待って
「じゃあ、俺はこれで」
長居は無用だ、疑惑の目で俺を見る佳代子と、お父さんに声を掛け、自転車にまたがると、家に向かってペダルに力を入れた
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