事件後
国際会議の会場から帰ると、ぐったりしてしまった、白い手袋を長い事嵌めると、体力を持って行かれる事を忘れていた、しかし、あの能力は、俺のエネルギーが使われて、作動しているという事なのか、だが体力を消耗するのだからそうなのだろう、良くわからない、翌日、一日中寝ている事でようやく回復したが、やはり体力は地道に、毎日続けなければ、本物の持久力はつかないと、よくわかった、俺はまだまだ、楽な道を選ぶ性格からぬけ切れていない、反省しなければ
分からない事はまだあった、俺だけ周到に準備した警察が、あの三人の犯人を見逃すなんて信じられない、どうにも合点がいかないので、松沢さんに問い合わせた
「我々も、あり得ない事だと思って、調べたのです、事前に細工をしてあって、あの日、天井裏の電線がショートしたんです、会議は始まってしまうし、営繕管理課が慌てて、工事の人間を入れてしまったらしいのですが、それが犯人たちだったわけです」
「そんな、単純な事だったのか」
国の面目がかかった、一大イベントがそんな単純な手に引っかかるなんて、でも世のなかそんなものかもしれない、蟻の一穴という事があるのだ、何れにしろ無事に終わってよかった、その事についてはほっとしている、だが俺には、すっきりしない事がまだあった、俺自身の問題だが異次元弾の事だ、あの時咄嗟に使ってしまったが、何故か頭の中に方法が浮かんだのだ、今まで思った事も、使った事もなかった事がだ、あの後、真夜中の公園で、異次元弾と言うものを試して見て驚いた、思った場所に確実に穴が開く、俺があそこに、と場所を思い浮かべると、鉄でも石でも何にでもだ、目視できる範囲は遠くても近くても同じだ、見えない所は試す事も、確認する事も出来ないのでわからない、一瞬だが水にさえ綺麗に穴が開くのだ、恐ろしい武器というか力だった、余程心して使わなければ、恐ろしい結果を招きかねない、当分佳代子にも内緒にしておこう、そう思った
だが物事、そう上手くはいかないものだ、その力を黙って隠そうにも、犯人たちの遺体という証拠が残っていた、警察の鑑識や科捜研で調べても、どんな武器を使って開けた穴なのか、同じ内径で額から後頭部へ貫通しているのだ、銃弾ではこうはならない、説明が付く物がないのだ、あらゆる可能性を調べても、解明できなかったようだ、レーザー光線なら可能性はあるが、大きな装置が必要だ、それに離れた場所を、正確に射貫くことは不可能だ、結局分かるはずがないのだが、究明は続くだろう、しかし公にはならなかったが、問題になったらしい、使用された物のが、解明は無理だろう、そんな武器はこの世に存在しないのだから、だが三人だけは誰がやったか分かっているが、惚けてくれているようだ、余り深くは追及しないよう、それとなく塚田さんに匂わせておいた、何れにしろ罪に問われる事はないだろう
俺のマンションのリビング兼応接室、佳代子と俺のほかに、例の三氏が勢ぞろいしている
「本当に、ありがとうございました、国に代わってお礼を申し上げます」
そう言った後、塚田は皮肉っぽく
「謎を幾つも残してくださって、揉み消しには苦労しましたが、そんな事には代えられない、大問題を無事終わらせていただきました、感謝しています」
俺は惚けて
「そうですか、何か問題があったんですか、ご苦労様です」
「いえ、こちらの責任で、解決させて頂ました」
「それは良かったです」
それを聞いていた佳代子が
「ねえ、何だか、キツネとタヌキの化かし合いしてない」
そう言った
「はははっ、旨い事を言う、それに近いかも」
白下が笑いをこらえながら言う
俺も我慢できなくなって、腹を抱えて笑い出してしまった、三人もつられて大笑いしている、佳代子だけキョトンとした顔でそれを見ていた
「しかし、本当に助かりました、大統領と側近がやられたら、今頃私たちはここには完全にいない、竜崎様様です」
「犯人を倒した武器の調査何て、どうでもいい事ですよ」
「シー・アイ・エーが異常な興味を示しているようですが、大丈夫ですよね」
「証拠も何もないのですから、見つかる事はないでしょう、ねっ、竜崎さん」
「えっ、何でおれに聞くんですか」
「いやいや、念のため、ご意見を聞きたくて」
「分かりませんよ、そう言う事は貴方たちが専門でしょう」
「そうですね、それと、来ていたスーツに撃たれた跡があるのに、体に傷がない人が三人もいたんですよ、あの人たちが負傷していても、大問題だったのですが、本人たちは撃たれた記憶がないそうです、スーツの傷についても心当たりがないとか、数分ですが記憶が飛んでしまっていたようです、次元を戻した間の記憶は、異次元に行ってしまっているので、有るはずがない
「そんな奇妙な事も起こっていたんですか、知らなかった、良かったですね、問題が大きくならなくて」
「ええっ、本当にお陰様で助かりました」
塚田はそう言ったが三人は俺をジト目でみている
「その目つきは、何を意味するか解りませんが、事後報告ありがとうございました、こんな若造に、偉い人が三人もその都度お出でいただき、誠に痛み入ります」
そう言うと、白下が
「ああっ、皮肉言ってる、竜崎さんも世間ずれしてきましたね」
「ええっ、擦れ過ぎた大人の出入りが激しいものですから、汚れてしまいました」
がっくりしたゼスチャーをする
「あー、そう言う事を言うんですか、冗談ですよね」
「本音です」
みんなで爆笑してしまった
「報酬は振り込んでおきました、ありがとうございました」
三人は帰って行った
「なあ、佳代子、旅行に行きたいと思わない」
「うん、良いね、行きたい」
「又、如月達を誘って行くか」
「うん、賛成、由利子さんに会いたい」
信州の旅の続きをする事になった、中央高速を走っている
「うわー、あれって諏訪湖ね、さざ波が白く光ってる、きれい」
女性陣は相変わらず楽しそうだ
「何時かは悪かったな、途中で放り出してしまって」
「いや、由利子と結構楽しく、あちこち寄って帰ったから」
「どのコースで帰ったんだ」
「慎也が言っていたコースを、俺達だけで帰ったんだ、天気が良かったから、高原のドライブコースは最高だった」
「そうか、良かった、つまらない思いをさせたかと思っていたが、良かったよ」
「うん、お前らの方が何か大変そうだったから、俺達だけ楽しんで悪い気がしていたよ」
「そんな事はないさ、お前が楽しくてよかった」
「うん、おまけに、また誘ってくれてありがとう、本当はちょっと物足りなかったんだ」
「そうか、俺たちもだ、今回は思いっきり楽しもうぜ」
「おお、そうしよう」
中央道から長野道に入る、しばらく走り
「わ~北アルプス、良いわねー、気持ちいい」
「どうする、松本で降りるか、それとも長野まで行っちゃうか」
「松本はこの間降りたから、長野までいっちゃおう」
「そうするか」
佳代子た知の意見も聞いて、長野で高速を降りる、まずは定番の善光寺に向かう、裏側の駐車場に車を置くと、境内に向かう、門前からは逆コースになるが最初に本堂に向かう事になる、本堂の裏側に出たところで
「前見て歩け、この婆あ」
「すみません」
「どうしてくれるんだ、食えねえじゃねえか」
「すみません、弁償します」
老夫婦が、三人の男に囲まれ謝っている、それを見て佳代子が傍に寄って行く
「どうしたの」
声を掛けた
「うるさい、ガキは引っ込んでろ」
「ガキとは何よ、いい大人が年寄りを虐めているから、注意しようと来たのよ、あんたたち恥ずかしくないの、大の男が三人もでお年寄りに、何を言っているのよ、みっともない」
「黙って聞いてりゃあ、言いたいことを」
「じゃあ、どうしたのよ、言ってみなさいよ」
「うるせえ、もいい」
三人はそう言うと、その場から歩き去った
「ありがとうございました、ぶつかって、ソフトクリームを落としたから、どうしてくれるんだといわれまして、お嬢ちゃんのお陰で助かりました」
「いいえ、気を付けて帰ってくださいね」
老夫婦は手を取り合って帰って行った
由利子が
「佳代子さん凄いわね、あんな怖そうな男たちに、よく言えたね」
「だって、おじいちゃんおばあちゃんが困っていたら、黙っていられないもの」
「でも、普通怖くて言えないわ」
「由利子さん、佳代子だったら、相手がやくざ十人でも、平気で言っちゃうよ」
「ええー、そうなの」
「ああ、何しろ怖いものなしだよ、間違っていると思ったら、相手が誰であろうと関係ないんだ」
「凄い、尊敬しちゃう」
「慎也、大袈裟に言わないで、私だって相手尊敬を見て考えて言ってるわよ」
「そうかな、まあ、良いけど、佳代子のそういうとこ、嫌いじゃないよ」
「あ、そう言うの、二人だけの時やって」
「そう言う事じゃないが、まあ良いか、行こう」
凄い人並みだった、逆行するのに苦労するが、同じ方向の流れに乗れた帰る人達だろう、参道の店を覗きながら、下って行く
「お腹すいた」
佳代子の一言で遅い昼食を取る事になった、参道にある食堂に入り食事をしていると
「注文と違うじゃないか」
「俺のも違う」
「何だこの店は」
何だかチンピラのようなのが多いな、そう思っていると、また佳代子が声の方に行ってしまった、仕方なくついていくと先程の三人が、店員に文句を言っていた
「またあんたたち、チンピラは早く消えなさい、警察呼ぶわよ」
「何い、またてめえか、うるさいガキだ、黙ってすっこんでロ」
「黙ってられないわ、年よりいじめの後は、食堂でいちゃもんつけて、何なのよあんたたちは」
「うるせえ、おい、行くぞ」
「代金払って行きなさいよ、無銭飲食で警察呼ぶよ」
「うるせえなあ」
そう言うと財布を出し、三千円を抜いてテーブルに置き
見ていた店員が
「お待ちください、おつりを」
「釣りはいらねえよ」
そういって店を出て行ってしまった
食事を済まし駐車場に戻り、スマホで出た観光スポットを、四人で検討した結果、戸隠方面に行く事になった、GPSを頼りに戸隠に向かっている時、前の車が急停車した、追突寸前で停止すると、前の車から五人の男が下りて来た、先程の男たちもいる、そう言う事か
「如月達は俺たちが下りたら、ドアをロックして中にいてくれ」
「いや、俺も」
「如月悪い、正直邪魔だから」
「そうか、分かった」
俺と佳代子が下りて、ドアのロックの音を確認すると
「又お前らか、懲りないな」
「ほんと、チンピラもここまで落ちると、哀れね」
「このクソガキ」
佳代子に殴り掛かった、予想していたので、躱し乍ら腕を掴み、道脇の茂みに放り込む、他の四人を二人ずつ、あっという間にやぶの中に放り込んだ
「どうする、まだやるか」
五人はやぶの中に転がったまま、俺たちを見上げている、ちょっと威嚇して
「まだやるかって聞いているんだ」
「ごめんなさい、申しません、許してください」
「だったら、さっさと消えろ、早く」
脱兎のごとく、と言えるほど慌てて車に乗ると、走り去った
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