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トーストハプニング  作者: 谷村碧理
apple 落し物から始まる異能バトル⁈
4/28

不思議な相談はクラスメートに(表

 

「それで、名前も教えてくれなかった女の子にもう一度会いたいと……一目惚れか?」


「そうじゃないから。彼女に落し物を渡すだけ」


「ほーら、今『彼女』って言った。やっぱ恋愛だったのか」


「今のは人称代名詞の方な」


「ほーら直ぐに言い訳する」


「だから勘違いするな」


 一時間目終了後、僕は朝あった奇妙な出来事をここ最近仲良くなって色々と喋るようになったクラスメートの伊丹いたみ ゆうに話していた。勇は色々な情報やウワサに詳しく、僕にもよく教えてくれる。なんならこの学校の細かいあれこれは大体勇に教えてもらったと言っても過言ではないぐらいだ。その度に「自分がこれから入る学校のこと知らなさすぎだろ」と言われた。そしてその勇の反応はというと……


「つまりはあれだな。遅咲きの中二病だな」


 なんとなく予想はしていたが、全く信じていなかった。


「多分事実。頬をつねってら普通に痛かった」


「どういう確認方法だ」


「なんとなくやった方が良いかなと思って」


「因みにその落し物とは一体?」


「サラッと話題を変えるな」


 僕はそんなことを言いつつポケットに手を入れる。制服のポケットにはあまり物を入れないタイプなので目当ての物はすぐに見つかった。どう見ても女子向けのメモ帳だ。勇は何のためらいもなくそれを手に取り中を見始めた。


「なんで勝手に中を見ているんだよ」


「なんでってもしかしたら名前とか書いてあるかもしれないだろ?」


 確かにごもっともな意見だった。僕は変なものが書かれているのを見たくなかったので外側しか見ていなかった。外側にはなにも書いていなかったし、シール類も貼られていなかった。


「お、これ日記だ。でも数ページしか書かれてない」


「三日坊主?」


「多分違うと思う。だって最初のページの日付が入学式の日になっているぞ」


「こないだからスタートしたっていうことになるのか」


「いや〜それにしても本当の話だったのか。筆跡もお前のと全然違うしな」


「まだ信じてなかったのかよ。僕がこんなメモ帳を持っているとでも本気で思っていたのか?」


「まぁまぁまぁ」


 僕と勇は彼女の日記を読んだ。綺麗な文字で書かれていて内容もごくごく普通だった。けれど違和感があった。


「……勇、なんかおかしくない?」


「そうだな……八割くらい漢字が間違ってるな」


 そう、この日記は異常なレベルで誤字が多発している。例えば「初めての満員電車はとても暑い苦しくて大変な思いをした」と書きたかったであろう一文がこの日記では「始めての万韻伝社はとても熱苦しくて対変な重いをした」と表記されている。どこをどうしたらこんな文章になるのかと思ってしまった。人間はもちろんパソコンでも絶対できないであろう変換ミスは、ある種の芸術の域に達していた。


「これ暗号か何かかな?」


「それはない。ただ単に漢字ミスが酷いだけだろ」


「やっぱりそうだよね。読んだら普通の文章だし」


「でもそいつがスパイとかだったら話は別だけどな」


「それはないと思う」


 そんなのだったら面白そうだが現実ではあり得ない。常識だ。そしてお目当てのものについては一切記載されていなかった。


 数ページほどの日記があった後、何も書かれていない真っ白なページが続いていた。それはまるでこれからの高校生活を表している様に思えた。そして最後のページで手が止まる。そこも例外にもれず真っ白だった。だがその隣の裏表紙で厚めの紙になっているところに一枚の写真がマスキングテープで固定されていた。


 固定された写真の中には桜の木をバックにありきたりなデザインの制服を着た元気ハツラツな少女と、その隣で優しく微笑むスーツ姿の男性がいた。端々には遊具らしきものが見えた。公園で撮影したのだろう。そして少女の方には見覚えがあった。


「女の子の方ってもしかして」


 勇が聞く。


「うん、多分そうだと思う」


 僕が答える。


 その少女は朝見た彼女だった。でも違和感がある。着ている服が違うのはもちろん、髪も短く今よりも少し背が低い。そして何よりも“表情”が違った。彼女自身が「これわたしの妹とお兄ちゃんの写真なんだ」って言われても納得すると思う。


 勇が続けて聞く。


「制服的にも中学のときだな、撮ったの」


「でもいつのだろう?」


 こないだの卒業式という可能性が大きいが、歳月は人を変えるという言葉があるぐらいなのだからかなり前に撮ったものだろう。僕がそんなことを考えていた時、勇はマスキングテープを破れないように慎重にピリピリと剥がしていた。それを見た瞬間、僕は慌てて止めた。


「ちょっとストップ‼︎ さすがにそれはやめておこうよ、ね?」


 勇はその手を止めて、


「まあ、見てなって」


 と一言いうとまた手を動かした。


 マスキングテープは写真の四隅に貼られていて、勇はその内の三つを剥がした。幸いマスキングテープが破れることはなかった。勇は写真の裏面を見る。そして、


「よっしゃービンゴー! ほらお前も見てみろよ」


 突然意味不明なことを叫んだ。僕は「何だよ……メッセージかなんかあるのか?」と呟きながら裏面を見た。


 そこには数字が書かれていた。


「……何これ、今度こそ暗号?」


 僕が聞く。


「いや、日付だ」


 勇が答える。曰く今じゃ写真のほとんどがデータだけど、もしかしたらデジカメとか一眼レフの写真を写真屋に印刷してもらったらこういった日付が裏に印刷されているとの事。


 その日付は三年前の三月半ばを指していた。となると彼女の小学校の卒業式の日に撮ったという線が有力だ。


「これは制服じゃなくてなんちゃんて制服的なやつなのかな?」


「それにしては地味過ぎるだろ。やっぱリアル制服じゃね?」


「でも日付が三月だけど……」


「だから制服で卒業式に出たんじゃないのか?」


「なるほど」


 なんだかんだでメモ帳から分かったのは、彼女の漢字のミスが異常なまでに酷かったということぐらいだった。


「つーか落し物なら職員室に持ってたら良いだけの話じゃねーの?」


「実はもう一つあって……」


「おおっ、訳あり品か?」


「そこまでではないと思うけど……」


 そう、落し物はこれだけではなかったのだ。メモ帳の近くに落ちていたもう一つの“物”。僕はもう一度ポケットに手を突っ込む。そして出てきたのはペンダントだった。


「確かにこれはまずいな」


「でしょ」


 半透明の玉の中には赤っぽいピンクを背景として金と銀が複雑な模様らしきものを描いている。表面はデコボコしていて、角度を変えると花の模様が見えた。


「ガラス細工見たいだな」


「でもこれ本当にガラスかな?」


「は? 何故そうなる」


「だってガラスだったら落としたときに割れたりとかヒビが入ったりとかしない?」


「なるほど」


 まるで魔術具にも見えるペンダントを僕と勇はただじっと見ていた。でも答えが出ることはなかった。結局諦めて彼女についての話に移ろうとしたらチャイムが鳴った。この続きは次の休み時間に持ち越しだ。

主人公のクラスメート登場です。口調の書き分けが難しいです……

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