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トーストハプニング  作者: 谷村碧理
apple 落し物から始まる異能バトル⁈
19/28

回想録…… 4 years ago

※今回は回想です。

 

「ただいま」


 家のドアを開ける。その日は雨が降っていた。どしゃ降りだったのをよく覚えている。


 しばらくするとお兄ちゃんがタオルを抱えて玄関にきた。


「ちょっとどうしたんだ? こんなびしょ濡れで。朝ちゃんと傘持っててたんだろ?」


「……ダンボールの中にいたネコさんがかわいそうだったから」


 その日は友だちのハナちゃんと二人で帰っていた。帰り道に通った公園の前に二匹のネコがいた。片方はずぶ濡れになって弱っていて、もう片方は静かに眠っていた。なんでそうしたかは今となっては分からないけど、わたしはネコが入っていたダンボールの上にそっと傘を置いた。


「いいのサヨちゃん? そんなことしておこられない?」


 傘を置くときハナちゃんはそういった。ちなみにサヨちゃんというのはわたしのニックネームだ。


「大丈夫……多分だけど」


 途中まではハナちゃんの傘の中に入れてもらってたけど、別れた後はずっと一人。靴も服もランドセルもびしょ濡れになっていた。


 でも、お兄ちゃんは怒らなかった。「仕方ねーな」といってわたしの体を拭いてくれた。わたしはお兄ちゃんが怒ってるのを見たことがない。いっつも笑っていた。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 その頃のお母さんは仕事ばっかりで家にいないことが多かった。家に帰ったら一人か、お兄ちゃんがいた。あと、ときどきおじさんが来てくれた。三人よく遊んでた。


 おじさんは、運動がとてもよくできる人だ。わたしはそれにあこがれて、格闘系の習いごとをしていた時期もあった。今でも体力があるのはこのことのお陰だ 。


 このときのお兄ちゃんは高校生だった。部活はやっていなかったと思う。わたしが家に帰るときにはすでにいたり、反対に何日か帰ってこなかったこともあった。周りからはあんまり良く思われてなかったみたい。お母さんはお兄ちゃんに対して少し厳しかった。なんでなのかはわからない。


 みんなはお兄ちゃんのことを悪くいっていたけれど、わたしとおじさんは違った。とっても優しくいお兄ちゃんがどうしてそんな目で見られるのか、わたしにはわからなかった。




「サヨの兄さんって、夜中いっつもアブナイことしてるんでしょ」


「あんな出来の悪いお兄さんと一緒に暮らしてるってなんか可愛そう。なんか変なことされてない?」


「サヨってホント凄いよね〜。あんな不良と仲が良いなんて。私だったら絶対に無理だわ」


「こないだのアレってお兄さんが関わってたの? やっぱり。予想通りだ」


「そういえば昨日見たわ、あの人。なんか周り警戒してウロウロしてたけど。またなんかやらかすのかなぁ〜」


「サヨの兄さんって普段どんななの? いつもみたいに暴れまくってるとかあるの?」


「正直いってサヨはどう思ってんの? お兄さんのこと。やっぱ嫌い? みんなから散々言われてるしね〜」


「いやぁ〜あんなのを好きになれっていう方が無茶でしょ〜」


 クラスの人にもさんざん言われてきた。お兄ちゃんの悪口を、そしてわたしへの遠回しのイヤミを。


「お兄ちゃんは不良なんかじゃない。いっつも笑顔で優しい人なの」


 言いたかった。


「そんなこというけどみんなお兄ちゃんとちゃんと喋ったことがあるの?」


 そう叫びたかった。


「なんでお兄ちゃんばかりを悪くいうの? 証拠もないのに」


 でも、できなかった。


 自分からいうのがはずかしかった。みんなからどんな風にみられるのか想像できた。いってもどうせ信じてもらえないってはじめからわかっていた。だから、できなかった。いや、しなかった。



 気がついたらお兄ちゃんが家にいない時間が増えた。わたしは一部の人としか喋らないようになっていた。このときは気がつかなかった。気がついても、もう遅かった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 それは春休みのある日のことだった。お兄ちゃんは高校を卒業した。そして大学に進学した。それはわたしの家からとても遠いところの大学に通うことになった。場所は今となっては覚えていない。


 その日、お兄ちゃんが引っ越しする日だった。お兄ちゃんは朝早くにこっそりと、まるで夜逃げのように外に出ようとした。


 わたしは勝手にいってほしくなかった。だから夜中からずっと待っていた、玄関の前で。「頑張ってね」の一言が言いたかったから。それだけだった。



「大丈夫か? そんなとこで寝てて。風邪ひくぞ?」


 そのときは何時だったのだろうか。気がついたらわたしは寝ていた。そのところをお兄ちゃんが起こしてくれた。お兄ちゃんは制服でもパジャマでもなく外出用の服だった。それと、大っきいリュックを背負っていた。もうお兄ちゃんは行っちゃうんだ。


「行っちゃうの?」


 どうして当たり前のことを聞いちゃうんだろう。そんなことを聞いたって何にも変わるわけないのに。


「ああ」


 それでもお兄ちゃんは答えてくれた。ちゃんと答えてくれた。


「行かないでよ……みんながお兄ちゃんのことを嫌っててもわたしは大好きなの。ずっと一緒にいたいの。遊びたいの。お願い……だから一緒にいてよ」


 気がついたら泣いていた。こんなに泣いたのはいつぶりだったっけ。


「大丈夫。ちゃんと戻ってくるから。それまで皆と仲良くして元気にしとけよ」


 お兄ちゃんはそう優しくいってくれた。


「ねぇ、一つワガママいっていい?」


「なんだ?」


「一緒にに写真が撮りたいの」



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 わたしの家にはデジカメがあった。アルバムもたくさんあった。でも、デジカメのメモリーにも、アルバムの中にもお兄ちゃんの写真はなかった。わたしの写真ばっかりだった。家族の写真もなかった。だから、思い出に、撮りたかった。


「わかった。カメラは取りに行くから着替えてこい。まさかパジャマのままで撮るつもりか?」


 わたしは部屋に戻って着替えた。着たのは届いて間もない中学校の制服だった。サイズが大きくてブカブカだ。



 わたしとお兄ちゃんは外にでた。気がついたら空は明るかった。家の近所の公園で撮った。一枚だけ。それで良かった。お兄ちゃんは写真がちゃんと撮れたことを確認すると、わたしにデジカメを渡した。


「そうだ、これ」


 お兄ちゃんはそういってカバンのポケットから何かを取り出した。そしてわたしに渡した。それは、とってもキレイなピンクのペンダントだった。


「何、これ?」


 思わずわたしは聞いた。


「お守りだ。お前が元気に過ごせるように。あと俺が帰ってくるっていう印」


 お兄ちゃんはそういった。


「ちゃんと帰ってきてね。約束だよ」


 わたしのその言葉を聞いて、お兄ちゃんは行ってしまった、どこか遠くへ。


 それは桜の花が満開の季節のときのはなしだった。


この回想は、次回(裏)にももう少し続きます。

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