急展開は突然に(表
「…………まぁ大体はこんな流れです」
僕は伊万里先輩に会うまでの出来事を一切合切話した。先輩は時々ラーメンをすすりながら熱心に聞いていた。そして僕が話し終わるのとほぼ同時に完食した。
「ふぅん。ところで……」
「どうしたんですか?」
ここに来て一切相づちや質問の無かった先輩から質問が来た。もしかして何か引っかかること、漫画的に言ったら伏線があったのだろうか? 僕はじっと先輩を見た。
「その話盛ってへんよな、一ミリも」
思わずズッコケそうになった。めっちゃためていたので何か重大な事かと思ったら朝も聞いたようなセリフだった。
「やっぱり信じられないですか……」
「いや、別に自分を信じてへん訳ちゃうねんで。ただなんか厄介事になりそうやなって思って」
先輩は少し声のトーンを落としてこう言った。ちょっと待って怖い怖い。落し物を拾っだけでどこをどうしたら厄介事になるんだ。
「ちょっと待ってくださいよ! そんな事で厄介事になりますか⁈」
気がついたら僕は勢いよく椅子から腰を浮かせて机を両手で思いっきり叩いていた。心の声が盛大にに漏れてしまった。
「冗談やって冗談。まぁそんな大変な事そうそう起きひんと思うし、多分。でもはよ返したりや」
先輩の声がいつものトーンに戻った。ヤッパリただの冗談だったようだ。僕はホッとしてもう一度椅子に座った。
「今日はありがとうございました」
「てかはよラーメン食べや。麺伸びてまうで」
……あ、忘れてた。僕の目の前にあるラーメンの量は置かれたときから全く変わっていなかった。慌てて食べる。少し冷めていたが思ってたよりも美味しい。
「美味しいですね。これ」
「マジで? そんなん言われたん初めてやわ〜」
「そうですか……」
……と言ってもこれ、インスタントラーメンなのだけど。
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そして翌日。昨日は朝も遅かったが何だかんだで帰るのも遅かった。実はあの後理科室を出たのはいいものの、また道に迷ってしまった。まさか高校一年生にもなって同じ建物の中で二回も迷うとは夢にも思わなかった。思うのも嫌だけど。
…………最後は何とか校門まで行けたが、最終下校時刻を三十分ほどオーバーしてしまって怒られたというアクシデントも重なり家に着く頃には太陽の光は完全に見えなくなっていた。そして家に帰ると妹からもキツイお叱りの言葉を受けた。何故だ?
そんな教訓を活かして今日は朝早くに起きても漫画を一切読まずにすぐに支度をした。そしてできるだけすぐに家を出た。別に妹と顔を合わせたく無いとかそう言う理由では無い。余裕を持って登校するためだ。
その結果、運動部が朝練習の準備をこれから始めるぞ、という時間に来てしまった。いくらなんでも早すぎる。そういえば今朝妹に会ってなかったのって……あいつがまだ寝てたからなのか。いつもギリギリまで寝ている妹は恐らく僕が学校に着いた現在でも布団の中で夢を見ている途中だろう。……遅刻しても知らないからな。
そして今日は迷わずに教室に着いた。……さすがに自分の教室は間違えない。念のため教室前に出ているプレートを確認する。『一年十二組』と書いてある。よし、合ってた。小学校のときは一学年二クラス、中学のときでも四クラスだった僕からすると、この数字は印刷ミスなのではないのか? と思ってしまう。
まあ仮に部屋を間違えたとしてもこの時間帯なら人はいないし大丈夫だろう、多分。来てる人はみんな朝練習に行っていると思うし。制服のネクタイを締めるのも一発で決まったし、今日はきっと運がいい日だ。それに早起きは三文の徳だし。
僕はゆっくりとドアを開けた。そして教室の中を見た瞬間、すぐにドアを閉めた。この時のドアを閉めるスピードは僕が自転車を運転するスピードよりも速かったかもしれない。さすがにそれはないか。まず僕にはそんな握力がない。
どうやら今日の運はネクタイを締めるのに全て使いきってしまったようだ。教室には一人、先客がいた。
それはクラスでもかなり浮いている人だ。先生を渾名で呼ぶ人でもわざわざさん付されているあの人だ。あの校則違反ではないのかとついつい思ってしまうヘッドフォンが目立つあの人が、僕の目の前にある教室の中で、たった一人でいた。
無理だろ…………いやこの教室に入るとか無茶言うな。しかも相手が相手だけに入った時の緊張感がすごい。どうしよう……これ。静かに入って静かにしてたらやり過ごせるかなあ。どうしよう、解決策が…………
「大丈夫か?」
「ハッ、ハイイイィィィ‼︎」
まさかの向こう側からドアを開けて話しかけてくるは想定外だった。謎の声を出してしまった。人の少ない時間帯で良かった、マジで。
「そう言えばおまえって同じクラスの…………誰だっけ?」
「田辺です」
ここで僕が苗字しか言わなかったのは僕の身体の自己防衛機能が動いたからだ。もちろん冗談。
結局教室に入ったものの、ヤッパリ怪しげなウワサが大都市のオフィス街のビル並みに立ちまくっている染岡さんと二人きりは緊張する。窓際に僕が立っていて、染岡さんが向かいに座っている。何故か染岡さんは僕に目線を合わせようとしない。それが余計に怖い。僕がこんなに緊張したのは何年ぶりだろうか。多分僕の十五年間という短い人生の中で最も心臓の音が聞こえる&速い瞬間だろう。今のうちに宣言しておく。このことは一生忘れることが無いだろう。
「思い出した。光城だったな」
「そうです」
緊張のし過ぎなのか、一つ一つの言葉が短い。
「話は全部聞かせてもらった」
「…………」
どうしよう。僕には何の心当たりもない。何かやらかしたっけ?
「今おまえが持っているペンダントの話なんだが……」
「え、それですか?」
なんで知ってるの? と聞きたくなった。でもよくよく考えたら昨日の勇との会話を聞いていたら知っていてもおかしくないか。
「それにしてもこれって僕個人の問題ですよね。染岡さんがちょっかい出すことでは無いと思うんですけど」
やっとセリフらしいセリフが言えた。そう言えば朝からまともに喋ってなかったな。
「残念ながら話の出所については今は言う事が出来ない」
ここで会話が突然噛み合わなくなった理由がある。それは染岡さんがずっと机の上に置いてあるカンニングペーパー、すなわちカンペを見ていたからだ。このことはそっとしておいてあげよう。
「単刀直入に言う。おまえが持っているそのペンダントは……色んな奴らが狙っている」
言っている意味が理解できていないだけなのか、それとも染岡さんがずっとカンぺを見たまま喋っているからなのか、その言葉には説得力と言うものがこれっぽっちも無かった。
さあここに来てやっと本題です!
次回(表)でも染岡さんは頑張ってカンペを読みます。お楽しみに!