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トーストハプニング  作者: 谷村碧理
apple 落し物から始まる異能バトル⁈
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プロローグ

 

 ある道の端で一人の女子が歩いてた。それも軽く走っているのではないのかというスピードで。その女子は茶色のブレザーに青のスカートを履いている。どうやら学生のようだ。周囲には人がいず、ただただ静かな時間がそこには流れていた。


 そんな静かさを破るかのように一つの電子音が鳴る。急いで歩いていた女子は少しだけスピードを落として持っていた鞄のポケットの中から携帯を取り出した。画面には“公衆電話”の文字と応答と拒否のボタン。どうやら電話がかかってきたらしい。女子は少し苦い顔をして、一瞬出るかどうかをためらってから応答のボタンを押して電話に出た。


「もしもし、松阪です」


 その女子ーー松阪は暗めの声で言った。するとすぐに、


『もしもし、久しぶりだね、りっちゃん。調子はどうだい?』


 と声が返ってくる。それに松阪が若干面倒くさそうに返す。


「調子も何も無いですよ。遅刻五分前なんですよ。この五分に私の今後の人生がかかっているといっても過言じゃないんですよ。それにしても『調子はどうだい』ってなんなんですか? 英語圏の人ですか?」


『違うよ、ボクは正真正銘純粋な日本人だよ。……ってこのやり取りも何回目? 電話するたびにやってるよね』


「そんなことを言うのならば電話するたびにその質問をしなければいいと思うのですが」


 当たり前のことだが、そんな会話をしているうちに時間は経っていく。少しずつ松阪の電話相手に対する口調は強くなっていき、それに比例するかのように靴音が聞こえてくる。


「……で、今回の要件は何なのですか? まさか朝ギリギリの時間でこのやり取りがしたかっただけではないですよね。もしそうだったら今度からあなたのことを陰で『遅刻教教祖』って呼びますからね」


 電話の向こうでは小さなため息が聞こえた。そして声が続く。


『何そのあだ名。べつに陰でなんと言われようともボクは知ったこっちゃないけど……これから陰で使う予定のあだ名を本人に宣言するのはものすごく斬新だね』


「まあ今パッと浮かんだだけのやつなので別に使いませんが……。それよりお願いですから一刻も早く本題に入ってください。うちの学校、校内では電源切らなきゃいけないので」


『大丈夫、ボクのとこもそうだから。えっと、なんだっけなぁ……』


「まさかこのくだらない会話で記憶が吹き飛んだのですか?」


 少し笑い声が聞こえた後、咳払いをして話を切り出した。


『冗談だって。ボクはそんなにおじいちゃんじゃないんだよ。それで要件なんだけどね、簡潔に言うと……キミに()()()をやってほしいんだ』


 しばらく無言の間があった後、松阪が口を開いた。


「要件を簡潔に言うぐらいなら最初のやり取りを省略してくれませんか? そして要件の方をもっと具体的に説明してください」


『……仕方がないなぁ』


「あなたがざっくりとしか言わないのが悪いんですよ。そんなことしてたら本当に嫌われますよ」


『なんかそれ、ボクが元から嫌われている見たいなんだけど』


「失礼しました。ついうっかりと口が滑りました」


『次からは気をつけてるんだよ』


 またしても話題がそれてしまったので、松阪は、


「話題を戻してもらっていいでしょうか?」


 と言い、ようやくこの会話は本題に入った。



『そのままの意味だ。まあ辻斬りってどういうことか分かっているよね』


「はい、なんとなくなら」


『大体の意味を知っているならその辺の説明はパスするよ。詳しい解説は自分で調べてね』


「それで、どういった感じでしたらいいのでしょうか?」


『そうだな……とりあえずはキミの周囲にいる()()()を何人か。出来るのなら全員でもいいけど』


「今すぐの方がよろしいでしょうか?」


『今すぐじゃなくてもいいけど、他の人達を不安がらせたいから時期は長めの方がいいかもしれない』


「味方もですか?」


『別にいいよ。誰を狙うかはキミ次第』


「よくそんな事があっさりと言えますね。だから嫌われているんじゃないですか?」


『それも一理あるかもね。でもこうしておいた方が疑いはかけられにくい。キミ以外にもやってもらっているから誰が指示を出しているかは分からないようにしておかないと』


「確かにそうですね。要件は以上ですか? もうそろそろ遅刻が確定してしまうのですが」


『あ、あと一応これも』


「何ですか、早くしてください」


 松阪はもはや半ギレ状態だった。


『この春からキミの学校に入学してくる生徒の中に《鍵》を持っている人がいるらしい。あくまで噂なんだけどね』


「探しておいた方がよろしいですか?」


『流石に二つの仕事を一気に押し付けるたりはしない。こっちは事実かどうか確かめてから連絡するよ』


「了解しました()()。ところで最後に一つ聞いてもよろしいでしょうか?」


『ん? 何だい?』


「確かボスも私と同じくらいの歳でしたよね。学校とかどうしているのですか」


『もちろん通っているよ。でも今は家の最寄駅の公衆電話の前だから今日は完全に遅刻かな? ところでキミは間に合いそうなのかい?』


「今校門の前にいます」


『それは良かった。じゃ、頑張れ』


 その声を最後に電話は切れた。松阪は携帯の電源を切ってから鞄の中へしまった。校門を通り、目の前を見ると自分とは違うデザインの服を着た男女が何か会話をしていた。今年から制服のデザインが変わったことを思い出した。


 風が吹き残りが少なくなってきた桜の花が舞い落ちる。


「これから大変だ」


 松阪はそう呟いて一人で新しいクラスへと歩き始めた。



地の文が殆ど無かったです……

多分この人、しばらく出てこないと思います。次回から本編、主人公登場です。

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