入学動乱編
「・・・起きて・・・」
「・・・あぁ?」
「・・・起きて、ジュリア。」
「・・・やだね。」
「起きなさい!!!」
「いってぇ!!!」
小さな窓から朝日が差し込んでいる。
窓の外には、おおよそがレンガで組み立てられた、小さくも整然として美しい町が広がっていた。
先ほど思いっきり平手で頬をぶたれた彼の名は、ジュリア・ボルテリアーデという。金色の髪に、茜色の瞳をもち、釣りあがった眉から自信をうかがえる、クッキリとした顔立ちをしている。
また、今年で16歳を迎えるジュリアは、今年より高等部への進学が決まっており、今日がその登校日である。
痛む頬を抑え、重い瞼を擦りながらジュリアが目を開くとそこには、彼の母親らしき人物が立っていた。
「もう、今日から新しい学校でしょう。早く準備して。自分の息子が生徒になるのに、遅刻なんかさせられないわ。」
「はいはい・・・わぁーったよ。」
まだ眠そうな彼を、呆れた顔で見下ろしている彼女は、エマ・ボルテリアーデ。細く黒い髪に黒い瞳を持ち、端正な顔立ちをした彼女は、ジュリアが進む高等部での教師をしており、女手ひとつでジュリアを育てててきた。
エマが朝食の準備をしに階段を降りていった後、ジュリアは寝巻きから着替え、不機嫌そうに自室を出て行く。
階段を降りると、二人掛けのテーブルには、質素ながらも美味しそうな香りを漂わせた料理が並べられていた。
ジュリアが席に着くと、エマも椅子に腰掛ける。
「「いただきます。」」
息の合った挨拶のあと、黙々と朝食を食べるエマに対して、ジュリアは不機嫌に言葉を投げた。
「まだ登校まで一時間もあるじゃあねーか。こんなにお早い準備して一体何をするんだ?お母様よぉ。」
「・・・話す暇があるなら早く食べてしまいなさい。」
不機嫌な息子にに一瞥も暮れぬまま、ジュリアの言葉を一蹴した彼女は、朝食を食べ終え、自身の皿を洗い始める。
「食うの速ぇしよ・・・」
ジュリアは、母親の異常な食事スピードにボソボソと悪態を吐きながら、ガツガツと朝食を食べ終え、朝の身支度を終えた。
「準備が終わったようね。」
同様に朝の身支度を終えたエマは、ジュリアを見ながら、先ほど朝食を食べていたテーブルに再び腰掛ける。
「話があるの。」
そういうとエマは、顔をぐっと引き締めた。
「な、なんだよ、改まって・・・」
「・・・まずは高校進学おめでとう。あなたとももう15年も一緒にいると思うと、時の速さに驚愕するけれど、素直に喜ばしいわ。」
先ほどまで冷たかった母親の祝福の言葉に、ジュリアは面を食らう。
「お、おう、ありがとよ・・・」
照れながらも、存外素直に礼を言う息子に対して、ふうっと口元の緩んだエマは、服のポケットから、小箱を取り出した。
「これは進学祝いよ、受け取って。」
ジュリアは、母親からのサプライズプレゼントに、さらに困惑した表情を見せる。
「あ、あぁサンキューな・・・ってなんだァ、これ・・・。」
渡された小箱の中には、小さな黒い宝石のついた、指輪が入っていた。
「い、いいのかよ。こんな高そうなモン・・・。」
あまりに予想外の事が多く、目が点になっている息子をみて、エマは柔らかい笑みを零した。
「ええ、もちろんよ、いつかあなたの助けになってくれると思うわ。」
「あ、ありがとよ、これ大事にするぜ・・・」
絶賛反抗期中であったジュリアも、この時は母親に感謝の念を送り、指輪をしっかりと握りながら、礼を言った。
「じゃ、じゃあそろそろ学校行く時間だしよ!母さんがどうしても行きたいっていうなら一緒にいってやっても・・・」
普段冷たい母親からの、祝福が嬉しいジュリアであった。
「待ってジュリア、まだ話は終わってないわ。」
しかし、浮ついたジュリアを見て、エマは再び顔を引き締める。あまりに引き締めた表情の母を見て、ジュリアも再び冷静さを取り戻す。
その後、エマはゆっくりとその口を開く。
「高等部から魔法の修練が解禁されるのは知っているわね?」
ジュリアはコクリと頷く。
「高等部に進学したものは、例外なく、魔法の適正があるものとして、進学しているわ。中等部での定期的な試験により、魔法の適正を調べ、無事に通った者のみが、高等部への進学を許可されている。しかしほとんどの者が魔法への適正を有しているから、生活に欠かせないものにもなっているわ。ここまではあなたも知っているわよね?」
「あぁ、知ってるけどよ、今から授業でもすんのか?」
この世界では常識であるはずの事を、丁寧に説明する母に、ジュリアは不信感を覚える。
エマは一呼吸置いた後、怪訝な顔をしたジュリアの顔をじっと見つめ、そして、重い口をゆっくりと開いてこう告げた。
「いいえ、あなたはこれから、高等部において一切の魔法の使用を禁止するわ」
「・・・・・・はァ!?」
続く