ギュンターの生い立ち
途中です・・・。
続きはいつになるか、解りません。
時間が、欲しい〜!
ギュンターは思い出していた。
自分だけが兄弟の中で唯一人金髪で、顔立ちも彼らと違っていた。
それに気づくと彼の母親は毎度、彼を抱きしめてささやく。
「お前は私の子。それだけは決して忘れては、駄目。
誰が何と言おうとね」
親父はそれを見て、その通りだと、何かに立ち向かうように、その逞しい背中を見せた。
だが自分と同様、父にも兄弟が沢山居て、その一人の叔父に教えられた。
本当の母は今の母の妹で、その相手は大層美貌の金髪の男。
だが彼は遊び人で、結局大貴族の娘と婚約したと。
今は西領地[シャノスゲイン]の都よりに奥方と住んでいて…つまり彼の母親が彼を産んだ事すら、知らない。
彼の実母は…彼を産んだ後、結局…川に身を投げ、自殺同然で亡くなったと。
妹の死を痛み、だから…彼の母親は彼を自分の子として育てようと決めた。と…。
旅に出た際、ふとした事で父と出会った。
酒場で、酒を買う使いに出され、注文した酒やハムが出て来るのを待ってる時ふいに…腕を掴まれて引かれ、振り向いたその先に自分と良く似た顔が、あった。
その顔はうんと大人で驚愕に…目を見開いていたが…。
目の色こそ、違ったが、鼻筋、顎、頬…とても似ていた。
金髪も。
「…母の名は?」
男はいきなり、聞いてきた。
彼は直感で父親だと、解った。
「アレステン…あんたと縁は無い筈だ」
だが男は頷いた。
「ミラーリの姉の名だ」
ギュンターは顔を、揺らした。
男も確信していた。彼を自分の子だと。
それを…認める気か?せっかくしらばっくれてやったのに…!
だがギュンターは聞きたかった。
「ミラーリを、覚えているのか?」
男は頷いた。
「昔俺が付き合ってた女の、一人だ」
ギュンターが言った。
「だがあんたが結婚したのは別の女だ」
男は、頷いた。その美貌が、ひどく静かで感情を殺しているんだと、解った。
「…そうだ…。だが様子がおかしいのは、解っていた。それで…」
男はため息を、付いた。
「俺の居所をどうせ知ってるんだろう?
息子だと、名乗りに来たのか?」
ギュンターは同様に感情を殺す自分を感じた。
低く、つぶやく。
「たまたま、通りかかっただけだ!あんたの事なんて知るもんか!
俺にはちゃんと両親が、居る!」
どうしても…殺しきれなかったが。
男は一つ、ため息を付いた。
「…顔が柔だと、男共に馬鹿にされるか?」
ギュンターは顔を、揺らした。
「…大人しく馬鹿にさせたりしない」
男はまた、頷いた。
「どこに泊まってる」
「…宿がいっぱいで今夜は野宿だ。酒と食事を買いに来た」
男は聞いた。
「誰と一緒だ?」
「叔父だ」
男は彼の肩に腕を回し、顔を戸口に向けて言った。
「案内しろ」
肩を強引に引かれ、ギュンターが怒鳴った。
「酒と食事がまだだ!」
男は彼を見下ろして、言った。
「…もっといいものをちゃんと、振る舞う」
ギュンターは目を、見開いた。男は彼の肩を強引に戸口へと押し進む。
…自分の屋敷に…?本気で?妻と子が、居るんだろう?
言いたかったが、男は無言で彼を、連れの叔父の元迄引き立てた。
屋敷に、子供は二人居た。
二人共が男の子で、一人は母親似でギュンターより年上に見え、一人は幼かった。
奥方は彼を見、一瞬身を、震わせた。
「食事と…酒を頼む」
男が言うと、彼女は頷いた。そして召使いに指図する。
彼女の後ろでその子供達は彼をじっと、見つめていた。
叔父は帽子を取り、男は尚も言った。
「今夜は宿が無いそうだ。客室を用意してくれ」
彼女はまた、頷いた。
黒に近い栗毛と青の瞳の、美人とは言いがたかったが、気品があり…芯の強そうな、そしてどこか優しそうな女性だった。
食事の席で、皆が押し黙った。
だが男は叔父に訊ねた。
「俺を訊ねる気じゃなかったのか?」
明るい栗色の巻き毛で…男よりは若造には見える叔父はだが、その空色の瞳に何の感情も浮かべず、素っ気なく言った。
「こいつにはちゃんと、両親が居るからな。そういう心配はご無用だ」
そして、喉越しの素晴らしい名酒のグラスを手に取ると、美味い酒に舌鼓を打つ。
叔父の言葉は、どちらかと言えば奥方に聞かせる為の言葉だと、ギュンターには解っていた。
そしてギュンターはもう一人…ほっとした様子を見せる、彼女の二人の子供の内の、幼い方の男の子を、見た。
彼は慌てて、ギュンターの視線に気づき、俯いた。まるで…父親そっくりの彼を凝視出来ないように。
だが、男は顔を揺らしてつぶやいた。
「…ミラーリは結婚したのか?母の名を聞いたら、アレステンだと言ったぞ」
叔父はギュンターをそっくり大人にしたような、優美に整いきったその美男の顔を、たっぷり見た。
「…ミラーリは死んだ。アレステンは妹の言葉通り、こいつを自分の子にした。今はもう、アレステンの息子だ」
男が動揺して顔を揺らすのを、ギュンターは見た。
「…どうして死んだ」声が、掠れていた。
叔父は首をすくめた。
「川で足を滑らせてな…。まあ…事故だろう?」
だが男はつぶやいた。
「本当に、事故か?」
叔父はその時の事を思い出すようにつぶやいた。
「あれは、事故だ…。
だが彼女はその頃、マトモじゃなかったから…川で無く丘でも、足を滑らせたかもな…」
奥方が青冷めてささやいた。
「…それは身投げと、言うんじゃなくて?」
叔父は顔を下げ、男と奥方にギュンターを気遣えと、視線を送った。二人はそれに、気づく。
ギュンターは叔父を、見た。だが叔父は、折角の機会だから、親父をちゃんと納得行く迄観察してやれ。と彼を見つめた。
ギュンターはつい、俯いてため息を、吐き出した。
食後酒を配る居間で、男と叔父は差し向かえで飲んで居た。
子供達はミルクにハチミツが入った暖かい飲み物を振る舞われた。
男が、つぶやいた。
「…子が出来た時点でどうして…俺の所へ来なかった?」
叔父はさあな。と顔を上げ、
「あんたとっくに、奥方が居たろう?」
「…それでもだ!言いに来るのが普通だろう?」
叔父は俯き…ささやいた。
「アレステンが言うには…夢見がちな娘で…あんたが自分のものに成ると、…そんな夢を見ていた。
だから現実は耐えられなかったんだろうと。
折角…授かったのにな…あんたそっくりの…。
だが子供はあんたの代わりに成れなかった」
側に居た二人の子供はギュンターを見、ギュンターは俯いてため息を吐いた。
男はそっと…ギュンターを見つめた。
「…それでも言いに来るべきだろう?」
「言って、どうする?養育費を貰い…愛人に成るか?」
叔父が笑い、男は顔を揺らした。そして肩をすくめる。
「チェンルースの母親くらい肝が座っていたら…」
二人の子供の幼い方が顔を、上げた。
「子供を俺に引き取らせて再婚出来た」
ギュンターはつい、そのチェンルースと呼ばれた幼い男の子を、見た。
確かに…男とは全然似た所が一つも無い子供だ。
母親が再婚するのに彼が邪魔で男の子供だと言い張り、男に預けたとしか、考えられない顔立ちだ。
それで…彼はびくびくしているようだった。
男が、自分の子と確証の無い彼より、自分そっくりのギュンターを気に止めるのが、不安なように。
男は眉間に指を当て、俯いた。参ってる様子だった。
ギュンターがつい、ぼそりと言った。
「…なんだ…顔のいい遊び人の割には、無責任じゃ、無いんだな」
叔父が彼の言いように知らん顔をした。
男はギュンターを見つめた。
「…そういう遊び人は最悪だろう?だが甘い顔をすれば女に舐められるぞ。本当に、誠実な女も居れば、したたかなのも居るからな」
ギュンターは頷いた。
「遊び人だけあって、詳しいな」
室内の皆はギュンターの言葉にぎょっとしたが、男は息を吸って言った。
「…遊ばない男は最悪だ。情事はヘタだし、いい女の見分けもつかないから、変に自惚れだけ強い役立たずのロクで無しだ」
ギュンターはだが男の自分そっくりの美貌を見つめた。
その瞳は自分と違い、綺麗な青だったが。
「…だがあんたはヘマしたんだろう?
チェンルースと俺の時に」
男は鼻に指を当て、ギュンターをじっと、見た。
「…ヘマした記憶はお前の時だけだ…。
第一…俺は避けるつもりだった」
「…ミラーリが離さなかったんだな?」
叔父が言い、男は顔を背けてつぶやいた。
「上に乗られちゃな…。引き離そうとしたが、遅かった」
ギュンターが言った。
「だがあんたは彼女のその後を確認する間無く結婚を決めた訳だ」
男はとうとう怒鳴った。
「彼女とそう成った時、結婚は決まっていた!」
ギュンターは男を、見た。
ひどい仕打ちをされたように、傷ついているのがその時ようやく、感じられて。
「…引き返せた!ミラーリがそれを俺に告げていたら…!だから聞きたかった!どうして…言いに来なかったのかと!」
「…でも彼女はとっくに知っていたわ…。
貴方の気持ちが自分に無い事を…。
愛されて無くて子供で貴方を縛るなんて…女にとっては惨めこの上無いわ」
奥方に言われ、男は横を、向いた。
そしてゆっくり、崩れ落ちるように頭を、抱えた。
叔父がそれを見て、ギュンターに微笑んだ。
「良かったな。いい加減な男じゃ、無くて」
ギュンターは肩をすくめた。
「…思ったよりずっと情があって、びっくりしてる」
男は顔を上げた。だが言葉を発したのは、奥方だった。
「…そう思ったら、もう少し言葉を控えてあげて」
ギュンターはそう言う女性のまろやかさに、つい喉を詰まらせたが男は、吐き捨てるようにつぶやいた。
「無理だろう…。
顔だけで無く口のきき方も俺そっくりだ…!」
ギュンターは目だけ見開いて、男を見た。
確かに…それは感じた。性格も似てると。
どこか…呼吸とか、間とか…感情の出し方が。
ギュンターは俯いた。
「加減しようにも…俺はこの男の事を知らない」
父親そっくりの顔の彼がそう言うのを、子供達はつい、じっと見つめていた。
奥方は言いたいようだった。
『でも貴方の、父親なのよ』
だが男は頷くように顔を揺らした。
「確かに、そうだろうな」
その理解こそが、父親の証しのようにギュンターは感じた。彼は自分の思考が理解、出来てる。
だからどれだけ無礼な事を言ってもちゃんと…返答してくれるんだと。
ギュンターがつい、訊ねた。
「あんた俺に父親だと…慕われたいのか?」
男は顔を、上げた。
「…俺の身にも、成って見ろ!
いきなりそっくりの顔の子供が、振って沸いて出てきたんだぞ!
考えてる間なんか、あるか?」
「ただ、ただびっくりか?」
「口をきかせても、俺そっくりだ。
遠慮の欠片も、無い!」
奥方がつい、くすくす笑った。
ギュンターもつい、想像して肩をすくめた。
「…そうだな。
俺だってあんたの立場ならぎょっとして固まるな。
だが叔父が言ったろう?心配無用だと」
叔父が継いだ。
「こいつと俺は家訓の旅の途中だ。
成人前に旅をさせてその後進路を決める」
男は叔父を、見た。
「成人前にしては随分早いな」
「進路を決めるのに何年要るか解らんだろう?」
「進路が決まれば旅は終わりか?」
叔父はそうだ。と頷いた。
男はギュンターを見つめた。
「幾つに成る?」
「14だ」
男は頷いた。
「まだほんの、餓鬼だ」
ギュンターは少しむっとしてつぶやいた。
「あんたから見れば、そうだろうな」
男は、忌々しそうに“年増”という皮肉を込めてそう言う彼を、見た。
そしてつぶやいた。
「俺がしゃべって相手が怒るのを見、今まで理解出来なかったが…つまり馬鹿にされてる気が、するんだな?」
ギュンターが言った。
「俺は…」
男は解ってると首を振って遮った。
「そのつもりは、無いんだろう?」
ギュンターはその通りだと、肩をすくめて見せた。
奥方も子供達も、鏡を見るように自分そっくりの息子に興味を示す彼をつい、伺った。
ギュンターも彼を、見た。
「…つまり数年後は俺も、こうなるのか?」
叔父は肩をすくめた。
「…まあ、間違い無くな」
男は、嗤った。
「お気に召さないようだか、仕方無いだろう。会っちまったからな」
「俺なら放っとくぞ」
「…出来るか!
俺の子だろう!間違いなく!」
男が怒鳴り、ギュンターは、知らなかった。
男が怒った事が、こんなに…嬉しい事だなんて。
ギュンターが言葉を返さず俯き、男はつい、気にするように叔父に訊ねた。
「…一人だけ容姿が違うと、兄弟にいじめられるか?」
ギュンターは顔を上げた。叔父は訊ねられて応えた。
「大人しくいじめられてる餓鬼じゃない」
男は、そうだろうな。と頷いた。
「それにこいつの兄弟は、自分達は平気でいじめても、他人にはさせない。他人がそれを言おうものなら喧嘩をしてでも相手を黙らせる」
男はギュンターを、見た。
「兄弟が、好きか?」
ギュンターは途端、乱暴の塊の長男と、優しいがやっぱり乱暴な一つ上の兄を思い出した。
「そんな事言ったら、気持ち悪いと殴られるが…仲間だとは思ってる」
「兄弟は何人居る?」
「上が二人で下も二人。
全部男で最悪だ。食べ物の取り合いでさえ、殴り合いだからな」
男はようやく、笑った。