表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の勇者 ―逆襲のゴーレム使い―  作者: 丸瀬 浩玄
第四章 黒の復讐者
36/42

 静まり返った巨大通路を探索すること二十分。遥か前方より、わずかな振動と共に重々しい足音が聞こえきた。

 蒼汰は足音に合わせ、ゆっくりと地底湖に続く通路に向かい後退していく。危険だと判断した際にすぐに撤退できるようにするためだ。

 徐々に足音は大きくなり、それに比例するように振動もまた、地響きの如く大きくなっていく。


 地底湖に続く通路まで、あと十五メートルというところで蒼汰は足を止めた。

 剣を地面に突き立てると、両足をやや広げ、まるで正拳突きを放つ前の空手家のように構え、己の内にある魔力を練り上げながらその時を待つ。

 そして奴が姿を現わす。

 かつて地球上に存在した最大級の肉食獣にして、生態系の頂点に君臨した、白亜紀の帝王。肉食恐竜――ティラノサウルス。

 姿を現した魔物は、まさにソレを思い起こさせるものだった。


 ――グウオオオオン!!


 蒼汰たちを見つけたティラノもどきは、己の力を誇示するよに咆哮を響かせ、鋭く凶悪な牙を剥き出しにし、獲物に襲いかかる肉食獣の如く駆け出した。

 迫り来るティラノもどき。それはまさにかつて蒼汰が見た、恐竜パニックムービーの迫力そのものの光景。

 だが蒼汰は、それに動じることなく、ティラノもどきを見据え、奴が魔法の射程距離に入るのを静かに待った。


 そして――距離にして約二十メートル。射程距離にティラノもどきが入った瞬間、蒼汰は右手を突き出し、直径一メートルにもなろうかという巨大な火炎弾を撃ち出した。

 一直線に火炎弾はティラノもどきに向かう。ティラノもどきはそれを躱す事なく突進――顔面に直撃。同時に轟音が響き渡り爆炎が一瞬でティラノもどきを包み込む。

 黒煙がティラノもどきを中心に広がり、巨大な高波のように一気に蒼汰に迫り来る。


「チッ!」


 目の前にまで迫った黒煙に舌打ちしつつ、蒼汰はすぐ傍に突き立てた剣を引き抜き迎撃態勢をとる。

 あの程度の攻撃魔法で、ティラノもどきが倒れるわけがないと、蒼汰自身が思っているからだ。


 完全に煙によって視界が奪われた蒼汰は、五感を研ぎ澄ましティラノもどきの動向を探りながらゆっくりと後退する。

 ――視界の先で黒煙がうねった。

 咄嗟に構えていた剣を楯とする。

 その瞬間、黒煙を斬り裂きティラノもどきの尻尾が唸りを立て出現、蒼汰は剣諸共吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。

 余りにも凄まじい衝動。息が詰まり、まともに動く事も叶わず、地面に這い蹲る蒼汰。だがこの時蒼汰が幸運だったのは、悶絶するような一撃にも気を失わず、どうにか意識を保てた事だろう。

 ただ状況は、いいとは言えない。いや、はっきり悪いと言っていい。体がまともに動かないのだ。


 視界不良の中で、ティラノもどきの重々しい足音だけがすぐ傍から聞こえてきた。しかし襲ってくる気配は――無い。

 蒼汰がティラノもどきの姿を確認できないように、ティラノもどきもこの視界の悪さで蒼汰を発見できないのだ。


(さっき喰らったのは、運が悪かったってことか)


 思わず舌打ちしたくなるのを我慢して、息を潜め状況の推移を窺う。

 そして状況はすぐに動く。


――グラララアアア!!


 ティラノもどきの咆哮。それは当然勝ち鬨の雄叫びなのではない。むしろ逆、苛立たしげな癇癪にも似た叫び。だがそれが状況を一変させた。

 ティラノもどきの咆哮により黒煙は押し流され、一気に視界が拓けたのだ。

 おかげでティラノもどきをはっきりと視認することができた。

 距離は約十メートル――かなり近い。

 魔法によりダメージは――火炎弾が直撃した眉間にやや大きな傷ができているが、動きに支障を来す程ではない。さらに言えば、全身を炎で包まれたはずなのに、直撃した眉間以外は傷どころか火傷の痕すら一切ないように見えた。

 これで魔法攻撃の効果の程は確認できた。であればもう此処には用は無い――撤退である。


 引き連れて来た五体の武甕雷の内、四体の武甕雷にティラノもどきを抑えるように指示を出す。続いて、残る一体の武甕雷に、蒼汰自身を地底湖にまで回収するように指示する。

 戦況を一気に激しさを増す。

 ティラノもどきは、次々と襲いかかってくる武甕雷を鬱陶しげに尻尾で弾き、足で踏み付け、鋭き牙で喰らいつく。

 だが武甕雷の頑丈さは、ティラノもどきの攻撃力を持ってしても打ち破るのは難しい。とは言えそれは武甕雷にも言える事。

 武甕雷の攻撃力では、ティラノもどきの防御力を突破できない。それどころか、武甕雷の動きできは、まともに攻撃を当てることすら難しい。

 見る限りはティラノもどきによる一方的な蹂躙。だがその実情は、千日手とも言える状況となっていた。

 蒼汰はそんな状況を、地底湖に続く通路に入る寸前まで、武甕雷に引きずられながら瞬き一つする事なくじっと見つめていた。



◆◇◆



 武甕雷を含め無事撤退が完了した。

 蒼汰はまだ、ダメージが残りまともに動けない中でも、地べたに転がりながらも頭だけは働かせ、今回の戦闘について考察を始めた。


 まずゴーレム鎧について。

 ティラノもどきの一撃が直撃したが、ゴーレム鎧がいい仕事をしたからか、何とか死なずに済んだ。それどころか骨折すらしていないのは僥倖と言えるだろう。

 とはいえ攻撃を受けてから、まったく動けなくなってしまったのは少々頂けない。

 衝撃吸収力がまだ足りないとも言えなくはないが、あれほど凄まじい威力の攻撃だ。そう簡単に衝撃を吸収するのも難しい。

 もちろんこれからもゴーレム鎧の改良は必要になってくるだろうが、それよりもまずは衝撃を受け流す技術を磨いていくべきだろう。

 それに伴いゴーレム鎧の改善点がもう一つあ見つかった。それは兜に当たる部分だ。


 現在ゴーレム鎧の兜は、フルヘルムタイプのものを採用している。

 これは視覚共有能力があるため、フルヘルムでも視界的な問題はないだろうと採用したのだが、これがはっきり言って使えない。

 一番の理由は端的に見辛い。訓練などではあまり気にならなかったが、実戦となると視界に違和感が出てやり難い。さらには、周囲の空気の動きや物音に対する鈍化、また敵の気配が希薄になるなど、周囲状況を感じとって戦う蒼汰からすれば、非常に相性が悪い。

 ただでさえレスポンスが悪いのに、反応さえ鈍くなっては躱せるものも躱せなくなってしまう。

 結論から言えば、兜は無くす方向で考えるべきだろう。


 続いて攻撃面。

 結果から言えば、魔法は使えない。

 今回蒼汰が使ったのは、自身が使える最大威力の魔法。

 それが直撃したにも関わらず、ダメージは表皮を少々焼いただけ。何発も当てればそれなりのダメージにはなるだろうが、蒼汰にとって最大威力の魔法、当然連射はできない。

 こればかりは、いくら魔力が潤沢にあってもどうしようもない。


 であれば他の方法を考えるしかない。ティラノもどきに有効な武器(攻撃手段)となるものを、だ。

 当面の目標はその武器作りとする。

 出来得るならば、近接武器と遠距離武器をそれぞれ用意したいところだろう。

 大まかな目標が定まった。あとは、この目標に向けどうするか考えるのみ。

 蒼汰はダメージでまともに動けないのを幸いとばかりに、新しい武器を考えるため、思案に没頭していくのであった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

続きを、と思ったら、ブックマークや評価をして頂けると、とても嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ