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ちょっと短めです。
あれから五日、何かいい方法はないかと、試作鎧を手にひたすら試行錯誤を続けていた蒼汰だったが、今は何故かその手を止め、型に合わせ剣を振るう武甕雷の姿を、ジッと目を凝らして見つめていた。
「……思った通りだな」
しばらく黙ったまま、胡座をかき武甕雷の動きを観察していた蒼汰だったが、突如得心がいったばかりにそう呟き立ち上がると、今まで剣を振り続けていた武甕雷に近付いていく。
武甕雷はすでに剣を振るのを止め、主人が近付いて来るのを微動だにせず静かに待っていた。
そんな武甕雷の胸に手を当て、ゆっくり魔力を流し始めた。
魔力を込めらるにつれ、武甕雷は淡い光を放ち、ゆっくりと溶け落ちるようにその姿を自壊させていく。
「まずは試しだ。形は適当でいいな」
出来上がった鋼の塊を前に、蒼汰はそう呟くと、簡単なイメージを頭に受けべ、先ほどまで武甕雷だった鋼の塊に改めて触れた。
再び淡く光り始めた鋼の塊は、流体金属となり、まるでアメーバのように蒼汰の足に絡みつき、その体を這い上がり包む込んでいく。やがてそれは、頭部を残し蒼汰の体をすべて覆い尽くした。
出来上がったそれは、武甕雷の体積が多かったためか、まるで宇宙服のような、ずんぐりむっくりな姿となって蒼汰の体を覆っていた。
あまりの不格好な姿に、若干苦笑いを浮かべた蒼汰だったが、試しで適当に成形したものだしな、とすぐに気を取り直し、何かを確認するように、体を一つ一つゆっくりと動かしていく。
「悪くない。いや、思っていたよりも、少し良いか……」
一通りの確認を終えた蒼汰は、ようやくの進展らしい進展にも関わらず、特に表情を変えることなく、次の作業に取り掛かった。
蒼汰がやろうとしている事を一言で言えば、鎧の〝ゴーレム化〟である。
それに思い至ったのは、今から二時間程前、気分転換に調整で動かしていた武甕雷を、何気なく見ていた時だった。
それは何の前触れも無く、まるで天啓があったかのように、突如蒼汰の中に、ある疑問が浮かんだのだ。
何故、鋼の塊でしかない武甕雷が、ああも滑らかに動くことができるのか? ――と。
そもそもゴーレムとは、たとえ人型をしていても、岩石や金属の塊でしかない。いわば石像や銅像のようなものであって、ロボットのような関節などの稼働部位は作られていない。
そんなゴーレムが、何故か滑らかに動いている。しかもまるで、生身の人間のように。
本来岩石や金属は、人間や動物の皮膚にように伸び縮みはしない。普通に考えれば、そんな岩石や金属で作られた石像や銅像が、稼働部位も無く動けば、砕けたり、伸びたりして、すぐにボロボロになってしまうだろう。
だが――何故かそうはならない。では何故そうならないのか?
その疑問が頭に浮かんだ蒼汰は、じっくり腰を据え、動く武甕雷の体の構造を観察し始めた――そして初めて気付いたのだ。
「……やっぱり、動いているな」
その言葉は、武甕雷の表面やそのすぐ内側の事を指していた。つまり武甕雷の全身を覆う鎧が、まさに人間の皮膚や筋肉のように、時には伸び縮みし、時には隆起し、躍動していたのだ。
それに気付いた蒼汰は、ある意味それも当然かと納得する。
当たり前だが人間が手足を動かせば、それに合わせ皮膚や筋肉も動く。それは人の構造上当然の事。それに似たような事がゴーレムである武甕雷にも起きていた。ただそれだけの事なのだ。
武甕雷は一見、全身に鎧を纏っているように見えている。だがそれは、見せかけだけで実際は何も身に付けいない、いわば裸の状態。鎧に見えるそれは、武甕雷の皮膚でしかないのだ。
だからこそ鎧に見えるそれも、動きに合わせわずかに形を変える。もちろん人間と同じ構造ではない以上、まったく同じというわけではないし、素材が岩石や金属であるため、それに合わせた硬さもある。
それがある点で利点となる。言ってみれば、しなやかさと強靭さを併せ持った体だと考えられるからだ。
そして、そんな武甕雷の姿を見て蒼汰が思ったのは、ゴーレムをそのまま鎧にした場合どうなるのか、という事だった。
鎧がゴーレムならば、重みなど考えまでもなく、蒼汰の意のままに動かすことができるだろう。
また、しなやかに表面を動かせるのであれば、中にいる蒼汰の動きを阻害することなく、動くこともできるのではないだろうか。
そう仮説を立てた蒼汰は、すぐに行動を起こした。
その結果が――
「悪くない。いや、思っていたよりも、少し良いか……」
――というものであった。
◆◇◆
充分な結果に満足した蒼汰は、続いて纏っていたゴーレムをもう一度崩すと、無駄な分は切り分け、改めて鎧として動きやすい形へと成形し直していく。
そして出来上がったのは、頭の上から爪先、さらには手の指一本一本までを丁寧に覆う、スラリとしたシンプルなデザインの全身鎧だった。
それから動き具合を確かめるため、先ほど切り分けて余った鋼の塊を使い、蒼汰が最も使い慣れたロングソードを作り出す。
「あれ? 異常に軽くないか?」
完成したロングソードをひと振りした瞬間、蒼汰はロングソードの異常な軽さに違和感を覚えた。
いくら【ゴーレムクリエイター】で作り出したロングソードとはいえ、重さが軽くなるようなことはあり得ない。それなのに今、持っているロングソードからは、軽めのナイフ程度の重さしか感じなかった。
何故だろうか、と考えながら剣をふた振りすると、何かを思い出すかのように、すぐにその答えにたどり着く。
(ああ、ゴーレムだからか)
そう、蒼汰が纏っていた鎧はゴーレムなのだ。しかも武甕雷と同じ【F4】ランクの魔核を使用したゴーレム。つまりこの鎧を纏うことで、武甕雷と同等のパワーを発揮す事ができたのだ。
つまりそれは【F5】【F6】ランクの魔核を手に入れた時、さらなる力を持つことができる証左でもあった。
その事実に思い至った時、蒼汰はあの日以来初めて笑みを浮かべた。
ただし、本来笑顔が持つ、明るさや朗らかとはかけ離れた、どす黒く、殺意と憎悪に満ちた笑み。
それは、復讐に至るための道筋が見えたことへの、負の歓喜の表れであった。
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