表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の勇者 ―逆襲のゴーレム使い―  作者: 丸瀬 浩玄
第四章 黒の復讐者
34/42

ちょっと短めです。

 あれから五日、何かいい方法はないかと、試作鎧を手にひたすら試行錯誤を続けていた蒼汰だったが、今は何故かその手を止め、型に合わせ剣を振るう武甕雷の姿を、ジッと目を凝らして見つめていた。


「……思った通りだな」


 しばらく黙ったまま、胡座をかき武甕雷の動きを観察していた蒼汰だったが、突如得心がいったばかりにそう呟き立ち上がると、今まで剣を振り続けていた武甕雷に近付いていく。

 武甕雷はすでに剣を振るのを止め、主人(あるじ)が近付いて来るのを微動だにせず静かに待っていた。

 そんな武甕雷の胸に手を当て、ゆっくり魔力を流し始めた。

 魔力を込めらるにつれ、武甕雷は淡い光を放ち、ゆっくりと溶け落ちるようにその姿を自壊させていく。


「まずは試しだ。形は適当でいいな」


 出来上がった鋼の塊を前に、蒼汰はそう呟くと、簡単なイメージを頭に受けべ、先ほどまで武甕雷だった鋼の塊に改めて触れた。

 再び淡く光り始めた鋼の塊は、流体金属となり、まるでアメーバのように蒼汰の足に絡みつき、その体を這い上がり包む込んでいく。やがてそれは、頭部を残し蒼汰の体をすべて覆い尽くした。

 出来上がったそれは、武甕雷の体積が多かったためか、まるで宇宙服のような、ずんぐりむっくりな姿となって蒼汰の体を覆っていた。

 あまりの不格好な姿に、若干苦笑いを浮かべた蒼汰だったが、試しで適当に成形したものだしな、とすぐに気を取り直し、何かを確認するように、体を一つ一つゆっくりと動かしていく。


「悪くない。いや、思っていたよりも、少し良いか……」


 一通りの確認を終えた蒼汰は、ようやくの進展らしい進展にも関わらず、特に表情を変えることなく、次の作業に取り掛かった。



 蒼汰がやろうとしている事を一言で言えば、鎧の〝ゴーレム化〟である。

 それに思い至ったのは、今から二時間程前、気分転換に調整で動かしていた武甕雷を、何気なく見ていた時だった。


 それは何の前触れも無く、まるで天啓があったかのように、突如蒼汰の中に、ある疑問が浮かんだのだ。

 何故、鋼の塊でしかない武甕雷が、ああも滑らかに動くことができるのか? ――と。

 そもそもゴーレムとは、たとえ人型をしていても、岩石や金属の塊でしかない。いわば石像や銅像のようなものであって、ロボットのような関節などの稼働部位は作られていない。

 そんなゴーレムが、何故か滑らかに動いている。しかもまるで、生身の人間のように。

 本来岩石や金属は、人間や動物の皮膚にように伸び縮みはしない。普通に考えれば、そんな岩石や金属で作られた石像や銅像が、稼働部位も無く動けば、砕けたり、伸びたりして、すぐにボロボロになってしまうだろう。

 だが――何故かそうはならない。では何故そうならないのか?

 その疑問が頭に浮かんだ蒼汰は、じっくり腰を据え、動く武甕雷の体の構造を観察し始めた――そして初めて気付いたのだ。


「……やっぱり、動いているな」


 その言葉は、武甕雷の表面やそのすぐ内側の事を指していた。つまり武甕雷の全身を覆う鎧が、まさに人間の皮膚や筋肉のように、時には伸び縮みし、時には隆起し、躍動していたのだ。

 それに気付いた蒼汰は、ある意味それも当然かと納得する。

 当たり前だが人間が手足を動かせば、それに合わせ皮膚や筋肉も動く。それは人の構造上当然の事。それに似たような事がゴーレムである武甕雷にも起きていた。ただそれだけの事なのだ。

 武甕雷は一見、全身に鎧を纏っているように見えている。だがそれは、見せかけだけで実際は何も身に付けいない、いわば裸の状態。鎧に見えるそれは、武甕雷の皮膚でしかないのだ。

 だからこそ鎧に見えるそれも、動きに合わせわずかに形を変える。もちろん人間と同じ構造ではない以上、まったく同じというわけではないし、素材が岩石や金属であるため、それに合わせた硬さもある。

 それがある点で利点となる。言ってみれば、しなやかさと強靭さを併せ持った体だと考えられるからだ。

 そして、そんな武甕雷の姿を見て蒼汰が思ったのは、ゴーレムをそのまま鎧にした場合どうなるのか、という事だった。



 鎧がゴーレムならば、重みなど考えまでもなく、蒼汰の意のままに動かすことができるだろう。

 また、しなやかに表面を動かせるのであれば、中にいる蒼汰の動きを阻害することなく、動くこともできるのではないだろうか。

 そう仮説を立てた蒼汰は、すぐに行動を起こした。

 その結果が――


「悪くない。いや、思っていたよりも、少し良いか……」


 ――というものであった。



◆◇◆



 充分な結果に満足した蒼汰は、続いて纏っていたゴーレムをもう一度崩すと、無駄な分は切り分け、改めて鎧として動きやすい形へと成形し直していく。

 そして出来上がったのは、頭の上から爪先、さらには手の指一本一本までを丁寧に覆う、スラリとしたシンプルなデザインの全身鎧だった。

 それから動き具合を確かめるため、先ほど切り分けて余った鋼の塊を使い、蒼汰が最も使い慣れたロングソードを作り出す。


「あれ? 異常に軽くないか?」


 完成したロングソードをひと振りした瞬間、蒼汰はロングソードの異常な軽さに違和感を覚えた。

 いくら【ゴーレムクリエイター】で作り出したロングソードとはいえ、重さが軽くなるようなことはあり得ない。それなのに今、持っているロングソードからは、軽めのナイフ程度の重さしか感じなかった。

 何故だろうか、と考えながら剣をふた振りすると、何かを思い出すかのように、すぐにその答えにたどり着く。


(ああ、ゴーレムだからか)


 そう、蒼汰が纏っていた鎧はゴーレムなのだ。しかも武甕雷と同じ【F4】ランクの魔核を使用したゴーレム。つまりこの鎧を纏うことで、武甕雷と同等のパワーを発揮す事ができたのだ。

 つまりそれは【F5】【F6】ランクの魔核を手に入れた時、さらなる力を持つことができる証左でもあった。

 その事実に思い至った時、蒼汰はあの日以来初めて笑みを浮かべた。

 ただし、本来笑顔が持つ、明るさや朗らかとはかけ離れた、どす黒く、殺意と憎悪に満ちた笑み。

 それは、復讐に至るための道筋が見えたことへの、負の歓喜の表れであった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

続きを、と思ったら、ブックマークや評価をして頂けると、とても嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ