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黒の勇者 ―逆襲のゴーレム使い―  作者: 丸瀬 浩玄
第四章 黒の復讐者
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 天井に届かんばかりの巨体。それにふさわしい逞しい後肢と鋭い鉤爪。それに比べて前肢は極端に小さい。バランスを取るように常に浮き左右に揺れる太くて長い尾。

 岩のようにゴツゴツとした表皮に覆われ、人を丸呑みできる程の巨大な顎門には、鋭い短剣を思わす黄ばんだ歯がずらりと並んでいた。


(――ティラノサウルス)


 その魔物を見た蒼汰の第一印象が、ソレだった。

 アレはヤバイ――本能で力の差を感じた蒼汰は、三体の武甕雷をその場に残し、地底湖エリアに逃げ帰るべく全速力で走り出した。


 ――グウオオオオン!!


 そのティラノもどきが突然吼えた。それはまさに竜の咆哮。その圧倒的な威圧感に空気どころか、迷宮全体が震えたかのような錯覚さえ起こす。

 思わず止まりそうになる足を必死に動かし、地底湖エリアに繋がる狭い通路に駆け込む。

 そのまま地底湖エリアに逃げ込むと、すぐさま残してきた武甕雷の一体と、視覚を共有させた。

 一瞬で視界が切り替わると、目の前にまで迫ったティラノもどきの姿が目に飛び込んできた。

 デカイ図体に似合わぬ凄まじい速度。

 咄嗟に、他の二体の武甕雷に迎撃命令を下し、視覚を共有させた武甕雷には、状況が把握し易い位置まで後退させる。

 それと同時に迎撃命令を受けた二体の武甕雷は、感情を持たぬマシーンのように、躊躇うことなくティラノもどきに突撃を仕掛けた。


 急に近付いてきた武甕雷を鬱陶しく思ったのか、ティラノもどきは、武甕雷を踏み潰すように無造作に後肢を振り下した。

 その一撃を、先行していた武甕雷がまともに受けることになる。

 楯を構え、両足開き地面に根をはるように踏ん張る。だが――次の瞬間、強烈な踏み付けにより、武甕雷は一瞬で押し倒され、地面にめり込むことになった。

 だが踏み潰されたのは一体のみ。難を逃れた武甕雷は一気に駆け抜け、ティラノもどきの軸足目掛け剣を振り下ろす。

 鈍い打撃音――極太ゴムタイヤをハンマーで殴ったような重い音が響き、ティラノもどきの表皮に、わずかばかりの傷がつく。

 しかしそれはダメージというにはあまりにも小さな傷。

 さらに一撃と剣を振り上げた瞬間、振り払われた尻尾が武甕雷を襲い、鋼の塊であるはずの武甕雷は、おもちゃの人形ように吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。


 あり得ない程の凄まじいパワー。単純なパワーだけならば、この前戦った死徒よりも上かもしれない。

 しかし蒼汰は、そんなパワーを目の当たりににしても、怯えるどころかむしろ闘争心を燃やすような目をした。それはまるで獲物を見つけた猛獣を思わせる獰猛さを放っていた。

 まさにこの時、蒼汰は(ニエ)を見つけたのだ。あの人知を越えた高みにいる死徒を、そして雅人を殺す力を得るための贄を……


 蒼汰の視線の先ではまだ戦いが、いや、蹂躙が続いていた。

 ティラノもどきは、踏み潰した武甕雷に食らいつき嚙み切らんとしながら、さらには壁にめり込む武甕雷に、追い打ちとばかりに尾の鞭を容赦なく、何度も何度も振り下し続ける。

 現状を見るに勝ち目はまったくない。だが、成果が全くないかと言われればそうでもない。それは武甕雷の耐久力。あれだけティラノもどきに攻撃を受けながらも、まったく破壊される様子がない。

 これなら戦い方次第で、何とか壁役を熟せるだろうと、ある程度の見通しが立った。



 しばらく武甕雷をいたぶっていたティラノもどきだったが、やがてそれが食べれないと分かったのか、そのまま武甕雷を放置して何処かへと去って行った。

 ティラノもどきの姿が見えなくなるのを待って、武甕雷を回収した蒼汰は、さっそく武甕雷の状態を確認し始める。


 さすがにあれだけ強烈な攻撃を受け続けただけあって、無傷というわけではないようだが、致命的な傷どころか大きな傷は一つも無く、殴られた凹みや牙で抉られた小さな傷が其処彼処に見られるが、それだけで済んでいた。

 当然魔核も無事。動作も特に問題は無いように見える。

 耐久力に関しては、思っていた評価よりも、さらにワンランク上と見ていいだろう。少なくとも、数戦で破壊されることなく連戦が可能だと評価できた。


 そうなってくると、やはり問題は攻撃面ということになる。

 たとえ武甕雷を壁役として、魔物の猛攻に耐えられたとしても、あのバケモノ(ティラノもどき)にダメージを食らわせられるだけの攻撃力がなければ、まったく意味が無い。

 現時点で、蒼汰の魔法でどの程度ダメージを与えられるかは分からないが、武甕雷の一撃をまともに受けて、表皮にわずかな傷しか付かなかった事を考えると、正直今のままでは、まったく倒せる気がしなかった。

 もちろんそれでも、現状でどの程度蒼汰の魔法が効くのか分からない以上、ダメ元で一度試してみなければならないだろう。


 さらに問題はある。蒼汰が攻撃を仕掛けるということは、あのティラノもどきの前に、直接姿を晒さないければいけないということだ。

 もしその際に、無防備の蒼汰が一撃でも攻撃を受ければ、いや、掠っただけでも、おそらく即死を免れない。

 それではダメだ。

 今まで、かなりの無茶を繰り返してきた蒼汰も、さすがにこの状況で、無謀なことをするつもりはない。そもそも復讐が目的である以上、こんなところで無謀をして死ぬわけにはいかないのだ。

 

「気がすすまないが、一応作ってみるか」


 何を作るのか? それはもちろん防具だ。

 今、蒼汰は防具といえるものを、何一つ身に付けていない。着の身着のままで逃げてきたのだから当然であろう。

 だがしかし、実は防具を用意すること自体、蒼汰にとってさして難しいことではなかった。何故なら料理の際、鍋を作ったように、【ゴーレムクリエイター】の力を使い、防具を作ることが可能だからだ。


 では何故蒼汰は、すぐに防具を作ろうとなかったのか?

 答えは単純。【ゴーレムクリエイター】では、金属製の防具しか作れないからだ。

 今まで蒼汰は、軽くて身動きがしやすい革製の防具しか使ってこなかった。

 それを急に重い金属製の防具に変えれば、必ず動きに支障をきたすことになる。そうなれば攻撃を受ける可能性が格段に上がってしまうだろう。

 魔物の攻撃に防具が耐えれるか分からない以上、できるだけそれは避けたかった。つまり蒼汰は、防御力よりも機動力を重視していたのだ。

 しかし目的が偵察から戦いに変わる以上、そうも言っていられなくなる。蒼汰自身、一度も攻撃を受けず、迷宮から出られるとは少しも思っていないのだから。



 最初に作ったのは、胸部を覆うライトプレートアーマー。急所を重点に厚みを持たせ、逆に無駄な部分は極力排除し、できる限り軽量化を図った、シンプルな造りの鎧だ。

 続いて出来た鎧を身に付け、体を動かしては、気になる部分を少しずつ調整、手直しを何度も繰り返し理想へ形と近付けていく。

 だが――


「チッ、想像以上にダメだな……」


 蒼汰は小さく舌打ちをすると、身に付けていた鎧を脱ぎ捨て、それを睨みつけるながら、その場でドカリと胡座をかいて座った。

 作り始めてから三日三晩、寝る間も惜しんで何度も何度も調整を繰り返した結果、蒼汰が下した結論は〝使えない〟だった。

 何故か?

 まず、思った以上に重いということ。まだ胸部の鎧だけだというのに、想像以上に重たかったのだ。あのティラノもどきの攻撃を想定して作っている以上、ある程度厚みが必要なのは仕方がないのだが、それでも予想を遥かに超える重量に辟易させられる。

 さらにもう一つ問題があった。

 それは身動きのし難さだ。これは元々蒼汰自身がプレートアーマーに慣れていないという事もあるのだろうが、兎に角、体が思うように動かせないのだ。

 特に蒼汰は、これまで体の細部にまで意識を行き渡らせ、繊細に動きをコントロールする戦い方をしてきていた。

 それが硬い金属鎧の所為で、イメージ通りに体が動かせなくなってしまうのだ。それは蒼汰の戦闘スタイルにとって、致命的な欠陥でしかなかった。


 解決策として、チェインメイルやスケイルアーマーと言った、プレートアーマーよりも動きやすい仕様の鎧というのも考えたが、ティラノもどきの攻撃力を想定するとなると、結局はプレートアーマー以外あり得ないという結論にどうしても至ってしまう。


「クソッ、八方塞がりだな」


 頭をガシガシと掻きながら、蒼汰は目の前に転がる失敗作のプレートアーマーを忌々しげに見つめた。

 正直まったく打開策が思いつかない。一瞬このまま防具無しでティラノもどきに攻撃を仕掛けてみるべきか、という考えも頭に浮かんできたが、失敗が許されない以上、短慮な真似はできなかった。


 まさに蒼汰の呟きが、現状をよく表していた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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