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蒼汰は早速、周囲にゴロゴロと転がる岩を使い武甕雷を創り始めた。
材質は選べる中で最硬度を誇る鋼を選択、魔核は【F4】ランクのものを使用しての制作だ。
出来上がった武甕雷は、まさにフルプレートアーマーを纏った、ゲームDFOの黒騎士そのものだった。色は鉄色とも言える濃い目グレー、手にはクレイモアとタワーシールドを持ち、微動だにせず立っていた。
思ったよりも早く、そして楽に創ることができた。時間にして約一分半程度、以前のことを考えると格段に早くなっている。間違いなくサードブレイクと【インフィニティマナ】の影響だろう。
また硬度も、魔力を多く込めれる分さらに増し、およそ鋼とは思えない硬度になっていた。
ちなみに手に持っているように見えるクレイモアとタワーシールドだが、持っているように見えるだけで、実際は直接手から生えている。要するに剣も楯も武甕雷の一部ということだ。
今までは、別途で武器や楯を用意していたが、それが無いための緊急処置的な仕様だ。ただ、只の思い付きというわけでなく、今までもテスト運転の時などに創ったことがあったため、それなりに実績のある仕様でもあった。
早速完成したばかりの武甕雷を動かしてみる。
大剣を振るい技を次々と繰り出す。それはある種の型。決められたパターンの動きを何度も繰り返す。
蒼汰はこの型を、創ったばかりのゴーレムや調整したゴーレムに必ずさせ、性能を確認の一つの指標としていた。
「……遅いな」
蒼汰は一通の動作確認を終えると、微妙な表情を浮かべ呟いた。
動作自体は悪くない。【ゴーレムクリエイター】の性能が上がったためか、それとも【インフィニティマナ】により魔力制御能力が強化されたためかは分からないが、今まで以上に滑らかでスムーズになり、人の動きに近付いている事が見てとれた。だが蒼汰の呟き通り、動きが明らかに遅くなっていた。
理由は武甕雷そのものの重さだ。
今回創った武甕雷は、核となる魔核そのものの質が以前のものよりも落ちた上に、素材が石からより重い鋼に変わっている。出力が低下しているのに、重量が増えれば動きが鈍るのも当然の事だ。
蒼汰は素材の比重など、詳しく知らなかったが、武甕雷の制御する感覚から、以前の武甕雷と比べて倍以上、下手をすれば三倍程の重量になっていることに直感的に気付いていた。
武甕雷の動きを見て蒼汰は、どうするべきかと頭を悩ます。
動きを速くするだけなら、武甕雷の中をくり抜いて軽量化すればいい。重くて動きが鈍くなっているのだから、当然の方法に思える。
だがしかし、武甕雷の役割は敵の攻撃を受けとめ耐える壁役だ。それを動きを速くするために、耐久力を犠牲にしてしまっては本末転倒。ましてや、ここが今まで活動してきた迷宮よりも強敵が出る可能性が高い、であれば耐久力はより重要となってくる。
最も重視すべきは、壁役としての耐久力。それは間違いない。だが当然問題もある。
魔物のタイプ別の対応力だ。力押しの魔物ならば、鈍足な武甕雷でもなんとか対応はできるだろう。だが速度重視や搦め手を多用してくる魔物が相手だった場合、足が鈍い武甕雷では、対応が間に合わない可能性が一気に高くなる。それは非常に危険だ。
解決策の一つとしては魔核を合成して出力を上げるという方法もある。しかしこれも、素の魔核が【F4】ランクである以上、劇的に出力が上がるとは思えない。
もし試しに合成したとして大した効果がなかった場合、魔核を無駄に消費してしまったことになる。それだったら、手持ちの魔核を使って、一体でも多く武甕雷を創った方がいい気がする。
ならば、どうすればいいのか?
耐久力を維持しつつ、速度の速い魔物などにも対応できる方法……
「……やっぱ始めのうちは、数で対応するしかないか」
幸い今の魔力と制御能力なら、十数体、いや二十体近く同時にゴーレムを召喚し、制御することができるはず。
さすがに【F3】ランクの魔核は使いものにならないにしても、【F4】ランクの魔核だけでも十個はある。これを使えば、とりあえず十体の武甕雷を創り出せるだろう。
それを同時に召喚して壁役とすれば何とかなるかもしれない。
問題があるとすれば、蒼汰が使う魔法が、この周辺の魔物に通用するかどうかということだが、こればかりはやってみないと分からない。
そう結論付けた蒼汰は、早速作業に取り掛かり、瞬く間に十体の武甕雷を創り出した。
◆◇◆
武甕雷を創り終えた蒼汰は、そのまま武甕雷に周辺の警戒をさせて、自分は腹ごしらえを始める。
魔法を駆使して地底湖から獲った魚に、塩を少々振って魔法で生み出した炎で炙る。それと並行して、【ゴーレムクリエイター】の能力を利用して作った鉄鍋に、魚、干し肉を少々、そして近くで採れた薬草を一緒に煮込み簡単なスープを作る。
焼いた魚は見た目も味も鮎に近かった。味付けは塩だけだったが、充分に美味いと言えるもので、蒼汰も安堵の息を吐いた。
スープは一緒に煮込んだ薬草の成分のためか、甘みのある味付けになっていた。一緒に煮た魚は焼いた魚と同じ種だったが、どうやらスープの具材としても相性がいいらしく、魚の旨味がよく出ており、満足のいく一品となった。
腹ごしらえを終えた蒼汰は、休憩ついでに新たに手に入れた視覚共有能力を使い、周囲探索をすることにした。
ここ地底湖のエリアは、大きな地底湖があるためか、かなり広いように見えたが、陸地となっている部分は、それ程広くないことが分かった。
また、魔物らしき姿は一切無く、迷宮の中でも魔物が出ない、セーフティエリアではないかと推察した。とはいえ、地底湖に魔物が潜んでいるという可能性も十分にあるので、あまり油断はできないだろう。
続いて、このエリアから出るための通路らしきものを見つけた。
通路はとても狭く、武甕雷が身を屈めなんとか一体ずつ通れる程度しかなかった。中を覗いて見るが、通路は右へと弧を描くように曲がっていたため、奥の様子は分からない。
蒼汰はしばらくアゴに手をあて考えた後、武甕雷を一体、通路の奥に向かわせた。
十メートル程の長さの狭い通路を抜けると、そこにはやたらと広い巨大な通路が左右に伸びていた。
迷宮の通路らしく岩肌を晒したその通路は、天井までの高さだけでも優に十メートルは超えているだろう。通路幅はさらにあり十五メートル程といったところか。
あまりの広さに、今通って来た通路が、小動物が通る小さな横穴に見えきてしまうほどだ。
これまで何度となく練磨迷宮に挑んできた蒼汰だったが、これほどまでに広い通路を見るのは初めてだった。
「……相当デカイのが、いそうだな」
武甕雷を通して、その通路を見た蒼汰は、思わずそう呟いていた。
広い通路がある場所には、それに似合った魔物がいる。それが迷宮の常識だ。
蒼汰自身何度も迷宮に挑むことで、嫌でもその常識を肌で感じていた。だからこそ、その呟きが思わず出たのであろう、
このまま探索を続けるべきか、少し迷いを見せた蒼汰だったが、どうせやらなければいけないことだと、すぐに気持ちを切り替えて探索を続けることにする。
それから二十分程探索を行ってみたが、何箇所か同程度の広さを持った枝道を発見した以外、特に何も見つけることができなかった。
さすがに遠距離操作や視覚共有にも、距離的な限界があるため、一旦武甕雷を地底湖エリアに繋がる通路の前まで呼び戻し、その間に蒼汰も探索に参加するため巨大通路に移動した。
巨大通路に出た蒼汰は、素早く四体の武甕雷を追加で召喚、呼び戻した武甕雷と合わせ、自分を守るように前方に三体、後方に二体配置する。この配置が探索時の基本となる。
この時点で武甕雷の体内ストックはあと五体。これは探索時には使わず、戦闘時の遊撃手として使用する予定だ。
「ふぅ」
とても万全とは言い難い状況。不安な思いを息と共に吐き出し、蒼汰は探索を開始した。
◆◇◆
探索を開始して十五分が過ぎた頃、蒼汰は〝何か〟を感じ突然足を止めた。
特に目に見える範囲には何もいない。だが蒼汰は通路の先を睨み、耳をそばだて、それだけでは足りぬと五感すべて総動員して感じた〝何か〟を探る。
やがて蒼汰の皮膚が、わずかな空気の震えを感じとった。
それだけで何か嫌の予感を感じたのか、蒼汰はその場からゆっくりと後退し始める。
そしてそれは、遠くの方からかすかに響くように聞こえた。
地響きを思わせる重低音。その音に合わせるように足の裏から微々たる振動が伝わる。それがゆっくりとだが、徐々に近付いてきている。
(まるで恐竜映画の足音だな)
と、冷や汗を流しながら蒼汰は即時撤退を決断する。
できるだけ音を立てないように、それでいてでき得る限り速く、地底湖エリアに向かい歩みを進める。
地底湖エリアに抜ける通路まで、あと五十メートル。すでにあの足音は、はっきりと聞こえ、振動もとても微々たるものとは言えないものになっていた。
――どこまで来ている?
不安に駆られた蒼汰は、後ろを振り返る。
そして見た。巨大な影を――
無意識に生唾を飲む。頬を一筋の汗が伝う。それは蒼汰の心理の現れ。
やがて巨大な影は、その姿を蒼汰に前に現わす。圧倒的な強者の姿を――
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