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黒の勇者 ―逆襲のゴーレム使い―  作者: 丸瀬 浩玄
第四章 黒の復讐者
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「ここは……」


 目を覚ました蒼汰が見たのは、ゴツゴツとした岩で覆われた、巨大なドーム状の天井だった。

 未だ朦朧とする中、体を起こし周りを見回すと、そこには、見渡す限りの巨大な地底湖が広がっていた。

 蒼汰は、この巨大地底湖にできた小さな砂浜に、打ち上げられていたのだ。


「……なんでこんなところに?」


 意識が戻ったばかりの所為か、頭がうまく働かない。だがしかし時間を追う毎に、徐々にあの時の記憶が蘇り、同時に蒼汰の表情が激変していく。

 今まで寝ぼけているかのようなぼんやりとしていた表情が、急激に、そして劇的に厳しさを増し、やがて怒りと憎悪に歪む。

 歯を威嚇する獣の如く剥き出しにして食いしばり、硬く握った拳からは、爪が手のひらを抉り血が滲み出す。

 やがて感情を爆発させるように、奇声とも言える言葉にならない叫び声を上げた。

 そこからの蒼汰は、自我を失った狂戦士(バーサーカー)のように、手当たり次第暴れ回る。見えるものすべてが、憎悪の対象だと言わんばかりに……

 たとえそれが、八つ当たり以外のなにものでもなかったとしても、それは蒼汰にとって、必要なのものだった。



◆◇◆



 すべての体力を使い果たした蒼汰は、砂浜で大の字になり、天井を見つめ荒い息遣いを繰り返していた。

 その両目には、未だ憎悪の炎を宿してはいたが、暴れ回ったおかげか、多少なりにも理性の色が窺えるようになっていた。だがその理性も、途轍もなく黒い色に染められたものではあったが。

 しかしそれも当然だろう。雅人の裏切りによって、一晩にして大切な人、大切な仲間をすべて喪ったのだから。

 そしてさらにそれに拍車をかけたのは自分への怒り。

 あの場には、まだ生きていた者もいたかも知れない。だが蒼汰は、それを助けようともせず逃げたのだ。自分が生き残るために。


 だが蒼汰は、逃げた事に怒りを覚えてはいても、後悔はしていなかった。あの場に残り、雅人や死徒に戦いを挑んだとしても、まず間違いなく殺されるだけであったからだ。それは翔子の最期の望みとは真逆の事、蒼汰には選べない選択だった。

 何よりも自分が死ねば、誰が彼らの無念を、復讐を果たすのだと、その思いが蒼汰に生きる事を選ばせた。

 たとえ今は逃げても、必ずや捲土重来を計り、東城雅人を、そして死徒を殺し尽くす。そ執念にも似た決意が、発狂しそうになる蒼汰の理性を、黒く染めながらもしっかりと支えていた。



 よく〝復讐〟には意味がないと言う者がいる。たとえ不条理な殺人であっても、殺された者は復讐なんて望んでいない、と平気で言う輩までいる。

 聖人君子のような、たいそうご立派な台詞だが、誰がそれを聞いたんだと言ってやりたい。そもそも殺された本人は死んでモノが言えないのだ。それなのに殺された事も無い者のが分かったような口をきく。殺された者の気持ちなど、分かるわけがないのに。

 復讐を望む者のは必ずいる。蒼汰は以前からそう思っていた。いや、それどころか、復讐を望む者の方が多いのではないかとさえ思っている。

 雅人の手により、多くの仲間が不条理に殺された。その中には必ず、自分の命を奪った者に復讐をしたいと思っている者もいるはずである。しかも相当数……

 蒼汰自身、もしあの場で殺されていたのら、雅人を殺して欲しいと、必ず復讐を願ったであろう。


 もちろんそれは、蒼汰の願望に過ぎないかもしれない。聖人君子のような輩が言うように、誰も復讐など望んでいないかもしれない。

 だが蒼汰には、翔子のいなくなった世界で生きるために、そう思う必要があったのだ。



◆◇◆



 蒼汰は復讐のための準備を始めた。

 現状蒼汰には、雅人を、そして死徒を倒すだけの力がない。つまりそれを成すために、今まで以上の力をつけなければならないということである。

 そして今、蒼汰がいる場所は、それを成すのに最も不適切であり、それでいて最も適している環境でもあった。


 ここはただの地底湖ではない。

 本来ならば光の届かない地の底、それなのに光源が無いのにも関わらず、周囲を見渡すことができている。それだけでここがどこなのか、すぐに理解できた。


 シトレ川が流れ込む先にあるもの。それは、岩山アンガーの麓に存在する大陸南部最大級の迷宮〝練磨迷宮〟――そしておそらくは、その深層。


 少なくとも、練磨迷宮にこれほど大きな地底湖が在るなどという記録は一切無い。であればここは、人類未踏の階層だと考えるべきであろう。

 さらに、かつて多くの実力者がシトレ川を下り、誰一人戻ってきていないというのも、その考察の裏付けになっている。

 もちろん他の迷宮という可能性もあり得るが、誰も帰って来ていない以上、難易度が高い場所であることは間違いない。


 現状、ゴーレムのストックは無く、武器や防具すらない。身に付けているのは、動きやすだけのただの服と、防寒ように羽織っていた黒い外套だけ。

 蒼汰はそんな状況で、己を鍛え上げつつ、ここから生還しなければならない。

 何の無理ゲーだと叫びたくなる状況。故に生還するという意味では、ここは最も不適切な場所だと言える。だが、生還する事ができれば、それだけ力が付くという事でもある。

 つまり己を鍛えるという意味では、ここは最も適した環境とも言えた。もちろん生き残れればの話だが。


 魔物が近くにいないか周囲を見回し確認した後、武尊の部屋から持ち出した魔法の背嚢の中身を確認するべく、中に入っている物を一つずつ目の前に並べていく。

 回復用ポーションが十五個、干し肉が約三日分、塩の入った瓶、【F4】ランクの魔核が十個、【F3】ランクの魔核が二十二個、貨幣が幾分か入った革袋とその他魔物素材が多数。

 蒼汰は胡座をかいて目の前に並べられた品々を眺め、その内容に安堵表情を浮かべた。

 魔核の数は思いの外有った。ポーションの数も充分とまではいかないが、何とかできる分はある。

 干し肉の量はどうしようもないが、塩が有るのだし、食料に関しては魔物を倒してそれを食えばどうとでもなる。最悪迷宮内に生えている薬草の類いを食べればいいし、ここにいる間なら地底湖で魚を獲るという方法もある。ここがシトレ川と繋がっているのだから、食べるに困らない程度は魚もいるはずだ。

 とりあえず、何とかなりそうだ。そう思える材料が一通り揃っていた。


 手持ちの確認を終えると、使い道の無い魔物素材を脇に除け、回復用ポーション、干し肉、塩、財布がわりの革袋を魔法の背嚢に仕舞う。

 続いて【F4】ランクの魔核を、一つずつ手早く検分していく。

 今、手持ちにある【F4】ランクの魔核は、すべて双頭犬(オルトロス)クラスのものだった。質としては比較的いい方だが、今まで武甕雷に使っていたものと比べると、どうしても見劣りしてしまう。

 だが今ある手持ちでどうにかしなければならない以上、この魔核でなんとかするしかない。

 ではどうするか――そう考えた時、激流に飲み込まれた時のことを思い出す。


 ――〝サードブレイク〟――

 新たな力が解放されたことを。

 その時、新たに得られた【ゴーレムクリエイター】の能力は四つ。


 一つ目――素材の変異能力。

 土や砂を石素材――花崗岩や石灰岩、玄武岩などに。岩などを金属素材――鉄、胴、鉛、鈴などに変異させる能力。ただし、金属素材からの変異やミスリルなどの魔法金属への変異はできない。また一度変異させたものは、二度と変異させる事はできないなど、条件は多岐にわたり存在する。


 二つ目――魔法及び属性付与能力。

 作成したゴーレムに魔法や魔法属性を付与する能力。

 簡単な例を上げれば、ゴーレムに爆炎魔法を付与し、敵の目の前で発動させるなどの攻撃方法に使うことができる。その場合、自爆ではないので、ゴーレムは破壊されず戦闘が継続可能となる。ただし発動した魔法にゴーレムが耐えれれば、だが。


 三つ目――視覚共有能力。

 名前通り、ゴーレムと視覚を共有する能力。

 能力の利点はゴーレムの遠距離操作がしやすくなること。特に偵察などに力を発揮する能力と言えるだろう。


 四つ目――着色能力。

 正直これは大した能力ではない。本来素材の色でしかないゴーレムに、色をつけることが出来るようになっただけである。ただまったく無意味かといえばそうとも言えない。いくら壁や天井が自発光しているとは言え、迷宮の中は暗がりが多い。そういった場所では、素材そのものの色よりも暗い色の方が目立たないからだ。隠密行動をとるには、有用な能力といえるだろう


 この四つの能力が【ゴーレムクリエイター】の新たな力であった。


 そして【インフィニティマナ】――翔子から託された勇技(ブレイブスキル)

 その【インフィニティマナ】だが、何故か【ゴーレムクリエイター】同様、サードブレイクが起こり、新たな力を得ることになった。

 雅人は、他人の勇技(ブレイブスキル)は一段目までの能力しか使えないと言っていたが、何故か翔子かっら託された勇技(ブレイブスキル)は二段目どころか、サードブレイクを起こし三段目まで使えるようになった。

 奪ったものではなく、託されたものだからかもしれないが、答え合わせが出来るものでもない以上、深く考えても意味がない。

 元々【インフィニティマナ】が持っていた能力は、魔力量と魔力回復力の強化と魔法展開速度の倍化だった。

 そしてサードブレイクにより加わった能力は三つ。


 一つは、魔力量と魔力回復力のさらなる強化。これに関しては、加わった能力というよりも能力強化と言った方が正しいだろう。この能力により、蒼汰の魔力量や魔力回復力は以前の五〇倍近くまで跳ね上がった。

 これだけの魔力があれば、かなりの数のゴーレムをストックする事ができるようになり、さらに制御能力も当然上がる。そうなれば、複数の武甕雷を前衛にして、有り余る魔力で魔法を撃ちまくるといった戦い方もできるだろう。


 二つ目は、魔法の多重起動。簡単に言えば、複数の魔法を同時に展開起動することができる能力だ。これにより魔法そのものの扱いが、一気に楽になる。それこそ片手間で魔法を放てるくらいには、簡単に魔法を扱える。多重起動と名前は付いているが、実際には今までも複数の魔法を同時展開出来ていたことから、魔法処理の簡略化能力と言った正しい能力と言えるだろう。


 そしてもう一つの得た能力が、魔力制御能力強化である。

 この能力は名前の通り、魔力を制御する能力を強化するものだ。効果としては、魔法使用時の魔力消費の軽減及び威力強化。さらには魔力制御系の技術にも補正がかかる。つまりゴーレムの作成時や制御にも補正がかかるということ。蒼汰の【ゴーレムクリエイター】とも相性が良いと言える能力である。


 これは翔子が死んだ事で得た能力。思うところが無いわけではないが、今はこの力にすがる。

 これだけの力を使いこなしさえすれば、この迷宮からの脱出も、雅人や死徒への復讐も決して不可能ではないと思えるからだ。

 蒼汰は新たに決意する。

 何があろうと必ず復讐を果たす。たとえ何者が立ちはだかろうとも、その歩みを止めないと。

 勇者ではなく復讐者として、蒼汰は進み始めたのだ。

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