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黒の勇者 ―逆襲のゴーレム使い―  作者: 丸瀬 浩玄
第一章 勇者の残滓
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タイトルを変更したました。

「BLACK BRAVE ―黒のゴーレム使い―」→「黒の勇者 ―逆襲のゴーレム使い―」

 そいつは蜥蜴人(リザードマン)に似た姿をしていた。

 ただ、顔は蜥蜴というよりも(ワニ)に近く、皮膚や尾もまた蜥蜴のそれより鰐に近い。そして何より最も蜥蜴人(リザードマン)と違うのは、四メートルを優に超える巨体だ。

 本来、蜥蜴人(リザードマン)は、人間よりも少し大きい二メートル程が普通。四メートルを超える個体など、有史以来発見された報告は、一度もなされてない。

 それ一つとっても、目の前の化け物が、蜥蜴人(リザードマン)ではないことの証明であった。


 ではいったい目の前の化け物は何なのか?

 この化け物はつい先ほどまで、ブガルティ国王王家からオルテイブ要塞を任されていた、メスト・サンチェスという名の将軍であった。

 彼は統率力、指揮能力、戦闘能力、どれをとってもブガルティ王国屈指の実力者であり、名将と呼ぶに相応しい実力者であった。

 だがこの異形の者となったメスト・サンチェスは、すでに人にあらず。

 怪しく光る金色の瞳はその証。彼をはじめとした様々な異形の姿をした者たちの正体は、人類に仇なす負の象徴にして敵――死徒と呼ばれる存在。

 彼はその死徒に変わり果てた姿を、遂に晒したのだ。


 死徒――メスト・サンチェスの前に一人の男が立ちはだかる。

 黒い鎧と外套を纏い、黒い大剣を構え、酷く冷たく、そして昏い薄笑いを浮かべる青年。

 彼こそかつて、ブガルティ王国が召喚した勇者の生き残り(・・・・)

 ――ゴーレム使いと呼ばれた勇者……いや、元勇者――夜神蒼汰。

 彼は復讐者である。

 そして、目の前に現れた標的を殺すべく、彼は真の力を解放する。



 メスト・サンチェスがその正体を露わにした後、蒼汰は装備が一新されたかのように、ガラリとその姿を変えていた。

 一言で言えばビルドアップ。元々身に付けていた金剛(コンゴウ)の上に、さらに重ねるように強化用のゴーレム鎧を纏ったのだ。

 そのため、蒼汰の体がひと回り程大きくなった。実際、一七〇センチ程度だった蒼汰の身長は、今は一八〇センチ近くまで大きくなり、その腕周りや脚周りまで、太く逞しくなっていた。


「頑丈そうだが、動きは鈍くなりそうだな」


 それは蒼汰の姿を見た、サンチェスの呟きだった。

 そんなサンチェスに蒼汰も「人のこと言えんだろうが」と言い返す。

 実際、変態したサンチェスは、四メートルを超える巨体である。あれでは今まで通り動けるとは到底思えない。だがサンチェスは余裕の態度を崩さない。


「そうでもないさ。試してみるか?」


 鰐の顔となり、表情が読みとり難くなったサンチェスだが、その雰囲気から明らかに蒼汰を見下していると感じとれた。


「出来るもんならやってみろよ。化け物」


 そして超越者となった二人の戦いは始まった。



 サンチェスの尾が鞭のようにしなり、蒼汰に襲いかかる。

 だがすでに蒼汰の姿はそこになく、サンチェスの尾は、床を叩き砕石(せいせき)のみを飛ばす。


「よく躱せたな」


 攻撃を躱した蒼汰を睨むサンチェスには、まだ余裕が感じられる。


「あの程度なら問題ない」


 蒼汰の挑発に、サンチェスは「ぬかせ!」と吼え、再び攻撃を仕掛ける。

 高速で襲い来るサンチェスの尾、それを蒼汰は次々に紙一重で躱していく。

 その度に壁や床が砕け、無数の破片や砂埃が舞い、互いの視界を奪っていく。


「クッ、ちょこまかと鬱陶しい!」


 今までよりも明らかに速くなった蒼汰の動き。それをサンチェスは捉えることができず、苛立たしげに蒼汰を睨み、攻撃は苛烈に、そしてさらに加速し、戦いは凄まじい速さとなり進む。


 それは遠巻きに戦いを見ていた騎士たちにとって、異常とも言える光景だった。

 今まで身に付けていた細身の鎧から、いつの間にか鈍重そうな重鎧に換装した蒼汰が、その姿から想像できないほどの、異常なスピードで動き回り、鞭の嵐のように繰り出されるサンチェスの尾を、一撃も食らわず易々と躱していくのだ。これを異常な光景と言わずになんと言うのだろうか。


「何故当たらん!? 何なのだ、その動きは!?」


 さらに勢いを増し、破裂音を鳴らし音速の壁すら超えるサンチェスの尾を、蒼汰はさらなる加速をもってことごとく躱す。


 蒼汰の動きの根幹にあるもの――

 それは高速立体機動用脚鎧型ゴーレム――倶摩羅(クマラ)

 圧倒的な脚力で前後左右だけでなく、立体的な高速機動を可能にする脚鎧型ゴーレム。

 この倶摩羅こそが、蒼汰のあの動きを可能にしている正体だった。

 倶摩羅の力を駆使して、サンチェスの攻撃を躱している蒼汰だが、イリスの目には蒼汰もまた、サンチェスの尾による高速攻撃により、近付くことができないでいるように見えていた。

 イリスが見る限り、蒼汰の武器は背中に収められた剣、天羽々斬(アメノハバキリ)が有るのみ。

 スピード重視のためか、一度背中に戻したようだが、武器が剣である以上、必ず剣の間合いにまで踏み込まなければならない。しかしそれが今はできないでいる。

 そんな膠着状態になりつつある中でも、蒼汰の表情には、未だ余裕が感じられた。


「いつまでそんな所にいるつもりだ? そんなに離れていたのでは、いつまで経っても私は倒せんぞ。その背中のデカイブツは飾りではあるまい?」


 いつまでも近付いてこない蒼汰に、少し余裕ができたのか、サンチェスが煽るように話しかけてきた。


「そうでもないさ」


 蒼汰はサンチェスの煽り文句に、逆に挑発するように嗤って返す。


「ならば近付いてみるんだな!」


 そこからサンチェスの攻撃はさらに激しさを増していく。

 サンチェスの尾は、上下左右と今までにない軌道で、あらゆる方向から触手のようにうねり襲い掛かってきた。

 それでも蒼汰は、その攻撃をカスらせながらも躱し、少しずつ距離を詰めていく。

 だが距離が詰まるにつれ、サンチェスの攻撃はより正確性を増し、速度がます。

 このままでは、いつ蒼汰を捉えてもおかしくはない。

 そしてついに均衡は破られる。

 サンチェスの尾が、蒼汰を捉えたと思った瞬間――ズドンッ!!


「ウギャアアアア!!」


 突然、全員の鼓膜を震わせる大音量の破裂音が響き、同時にサンチェスが醜い悲鳴を上げた。


「ウガアアア! わ、私の、私の尾がァ!!」


 サンチェス自身に何が起こったのか全く理解できず、ただただ付け根から一メートル程を残し、千切れ飛んだ尾を抱え蹲る。

 そんなサンチェスに、蒼汰は嗤い近付いていく。

 それを睨むサンチェスの目には、明らかに焦りの色が浮かんでいた。


「き、貴様! いったい何をした!?」


 その問いに蒼汰は「さァな」と一言返し、右腕をサンチェスに向け突き出した。


「ヒィッ!」


 自分に向け突き出された無手の右手に、サンチェスの目が恐怖に染まる。

 蒼汰が突き出した右手をよく見ると、手首の外側に三センチ程の丸い穴の空いていた。そしてその穴からは、わずかではあるが、煙が立ち昇っているのが見てとれた。

 それが何を意味しているのかを、サンチェスは本能で理解した。先ほど自分を襲った攻撃が、あの得体の知れない腕から放たれた〝何か〟であり、今まさにその攻撃が、自分に向け放たれようとしていることを。

 その時サンチェスは、全身に粟立つような怖気が走るのを感じ、咄嗟にその場から逃げるように飛んだ。

 その瞬間再び破裂音が鳴り、サンチェスが一瞬前までいた地面に無数の穴を穿つ。

 ギリギリその一撃から逃れたサンチェスは、少しでも蒼汰から離れようと飛ぶように走る。

 だがここで逃がす気など、蒼汰には毛頭ない。

 逃げるサンチェスを追い、蒼汰の左腕(・・)が動く。

 耳を劈く破裂音が連なるように打ち鳴らされ、眩い閃光が幾重にも重なる。

 蒼汰の左腕から発射された〝それ〟は、サンチェスを追うように壁を穿ち、遂には逃げるサンチェスの両足をも何度も貫いた。


「ウッガアッ!」


 突然両足を襲った激痛に、サンチェスは体勢を崩し転倒。床で何度も跳ね転がり、最後には勢いそのままに石造りの壁に突っ込んだ。

 蒼汰は攻撃を止めると、ホールに静けさが戻り、サンチェスのうめき声だけが響く。

 イリスをはじめ、騎士たちは何が起こっているのかまったく理解できず、その光景に、ただただ目を大きく見開き立ち尽くしいるだけだった。

 蒼汰は左腕に、灰色の煙を絡ませながら、サンチェスに向かいゆっくりと近付いていく。


「ヒィッ!」


 蒼汰が近付くにつれ、動かぬ両足を引きずり逃げようとするサンチェス。たが――


「ヒィギャアアッ!!」


 再び響く破裂音と共に、サンチェスの右腕が一瞬で吹き飛んだ。

 突如襲った激痛にサンチェスは傷口を押さえながら喚き転げ回る。


「逃げるな。そして暴れるな」


 煙を吐く右腕(・・)を向けたまま、低くそして感情の込もらぬ声で、蒼汰はサンチェスに命令する。

 サンチェスは必死に激痛に耐え、何度も小刻みに頷いた。


「分かった。言うこと聞く! 聞くからそれを、その物騒な腕を、こっちに向けないでくれ!」


 余程、両腕(・・)から繰り出された攻撃に恐怖を覚えたのだろう。サンチェスは抵抗する意思をほぼ失っていた。



〝雷神〟と〝風神〟――それが、蒼汰が両腕に装着させたゴーレムに与えた呼び名だ。

 雷神――散弾銃式腕鎧型ゴーレム。正式名――雷神壱式。蒼汰の右腕、正確には右上半身を覆うゴーレム鎧である。

 散弾銃をイメージして蒼汰が創った武器を搭載。手首外側に三五ミリという大口径の銃口がついており、そこから散弾とスラッグ弾という二種類の弾を撃ち出すことができる。

 ちなみに散弾とは多数の細かい弾を同時に発射し広範囲攻撃を行う弾である。それに対しスラッグ弾は一撃必殺とも言える威力を持った、大型の弾丸を使った単発弾である。サンチェスの尻尾や右腕を吹き飛ばしたのもこのスラッグ弾であった。


 それに対し、左腕は――

 風神――機関銃式腕鎧型ゴーレム。正式名――風神壱式。

 雷神の散弾銃に対し、アサルトライフルをイメージして蒼汰によって創られた武器搭載型ゴーレム。

 雷神同様手首外側に銃口がついているが、口径は雷神よりもかなり小さく、十三ミリ口径である。

 最大毎分四百発の弾丸を発射することができる。また発射速度は蒼汰の意思一つで変更が可能。連射や単射など状況に応じて使い分けることもできる。

 さらには雷神、風神ともに手のひらが使えるため、天羽々斬(アメノハバキリ)を使用して接近戦を演じながら、隙あらば銃撃することもできる。

 この二つのゴーレムは、まさに異世界より召喚された蒼汰だからこそ、創り得たゴーレムであり、武器だと言えた。



「それじゃ、改めて質問だ」


 そう蒼汰は切り出すと、雷神をサンチェスの眉間に押し当て、言葉を続けた。


「グリードは今、何処にいる?」


 こうして蒼汰による尋問が始まった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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