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翌日
チュンチュンと小さな雀の鳴き声と共に、僕の意識は覚醒した。
昨日のあの後、気まずいながらに案内してくれた寝室の敷布団らしき麻の何かから起き上がる。
ぽやんとしている瞳をこしこしとこすり、何かを払うようにゆるゆると首を振る。
……と、隣に寝ている金と赤の混じった頭が目に入った。
「……ッ!!!!???」
驚いた。かつてないほど驚いた。
……えっ?こここの無駄にだだっ広い孤児院の一室である場所は各人数に渡される個室だったよね!?
ほにゃほにゃと寝ているアルナルドは大変、大変愛らしいが何故ここにいる!
前世でも双子の弟と添い寝をしたことはあるがこんな血の繋がらない男子とトラブるとかはなかったはずだが!?
連日無理をしすぎたらしくバタンキューしちゃったから僕が頼んで一緒に寝てもらってるとか言うドキハプニングはなかったんだが!
「ふにぃ……」
アルナルドがショタな寝顔でショタな声でむっちゃ可愛いもにゃもにゃを見せた。
それに僕は顔を押さえて悶絶をする。
勝手にぴるぴると震えるからだ、口から漏れそうな悶えによる叫び。
「……っく、可愛い……!」
かあっと頬は熱くなり、可愛すぎてにやけが止まらない。
なんだろう。めっちゃ滾るんだが!
そおっと、起こさないように静かに片手を移動させ、隣で寝ているアルナルドのほっぺに近付ける。
ふにっ
色白恐らく四歳ショタのほっぺをふにる。
なんだもうこの幸せ。
我が人生にいっぺんの悔い無しと言ってしまいそうになるんだが!?
アルナルドはまだむにゅむにゅとしております!
よろしいならばもふもふだ!
すべすべすべすべもふもふもふもふ
髪艶ッ艶なんだがさらっさらなんだが!?
はあぁこれがショタのキューティクル……!?
その瞬間。
調子に乗りすぎた僕に天罰が下ったのだろう。
ぎいいと相変わらずお化け屋敷のような音をたてながら、小さな、布団とちっちゃい机しかない部屋のチョコレートブラウン色をした扉が開いて
「えっ?……なにしてんの?」
ぽかんとアホ面をさらす僕の目の前に、ピンク色の髪と、きゅるんとしたピンクの目をした男の娘ショタが居た。
「いや可愛い寝顔だなぁって☆」
なにしてんだ僕ーーーーー!?
ショタに蔑みの目で見られた為か多少脳内に拍手喝采が響いたが、これは体裁的によくない。
非常によくない。
どこの業界にショタの寝顔を見て悶える三歳ロリが居るんだよ……!
あとキャラ崩壊してんじゃねぇ僕!
なに故郷滅ぼされたあとに輝くロリッ子笑顔見せてんだよ憐れさとかその他もろもろ無くなるだろうが……!
完ッ全に悪手だ!
朝の七時くらい、小さな窓から差し込む光。
爽やかな朝なはずなのに何で僕は朝チュンイベントとそれに男の娘ショタ遭遇とか好感度すらあげてないのに遭遇してるんだ!
口に出したいツッコミが胃と頭のなかをぐるぐるして、最終的には話そらしちゃえば良くね!?と謎の結論を出す役に立たない頭脳。
「……ところで、お兄ちゃんの名前は?」
「レスターだけど……ってか、ボクが男ってわかるんだ」
頭脳に従った結果がこれだよ!
ほぼ表情を変えない死んだ目男の娘ショタ。
疑惑の目が強まった気がする。
……だよね!
性別隠してるならそりゃあ何でわかんだよ何者だよこいつってなるよね!
固まっている僕と無表情のレスターとの間に流れる冷えきった空気に、救世主が現れた。
「んぅ……」
「アルナルドっ!起きたんだぁ!」
「うほおおいアルナルドさん起きたんでぼぼ僕は探検してきまぁす!!!」
ぱっちりとショタの目が開き、紅玉のように綺麗な赤が僕達を捉えた。
レスターは嬉しげにアルナルドに声をかけ、レスターの注意がアルナルドにそらされたのを好機と見てとった僕は脱兎のごとく部屋から逃げた。
「そして一体ここはどこだ!」
よれよれのカッターシャツにくすんだ金のゴーグル。茶色い煤まみれのベストに、隠し武器に富んだ黒ブーツ。茶色のズボンもかなり汚れている。
それが僕の主だった服装。
こつこつとよく響くブーツを鳴らしながら、一階の多分渡り廊下を歩いていく。
羊皮紙が高価なので地図もない、多分コストは押さえられるようになる和紙ですらこの世界にはない。
こんな絶望あるものか!
前世地図があっても屋内でも迷った僕には辛いこの広い孤児院。
肌寒いのをこらえて、渡り廊下を歩いていると。
「ここがやっと離れかな?」
ひんやりとした他のところよりは立派な赤く大きな扉を見つけた。
いままでの因縁を込めて(勝手に迷っただけ)少し乱暴に開く。
バァンっ!
「わぁっ!?」
「きゃあっ!?」
中には、茶髪の清楚系美少女と、黒髪のワンコ系美少年が抱き合っている姿が有った。
……今日は良く修羅場に衝突するなぁ
頑張った末の結末がリア充だったことに若干の不平等性と多分の悲しみを覚え、泣きたくなりながら僕はこのいちゃラブ雰囲気が駄目になる一言を発する。
「神の御前で、何をしているんですか……?」
今まであるいているときに、僕が自分のために決めた自分のキャラ設定を思い出す。
まるいち。疎まれている赤毛の子供
まるに。天才な軍師。
まるさん。錬金術師
まるよん。敬虔な神の使徒。
神の使徒の方が都合がいいから敬虔な信者になるのだ。別に特に信仰心はない。
大体前世の職業は種も仕掛けもガッツリある奇術師だったのだ。困ったら神頼み程度の悲しい信仰心だ。
「あぁ。せっかくここにも教会があると思ったのに。まさか利用者がこんな神聖な神の御前で如何わしいことをしだす間抜けで愚鈍な無能だったなんて……!どうか神よ、この者達にも祝福を……」
さっさっと十字を切り、崩れかけた神の像の前に熱に浮かされたようにすぐ跪く。
目に多少涙を溜め、心を痛める優しく清い修道女のような振りをして神にかこつけてさらりとリア充に暴言を吐いた。
「なんだと!このちび!」
「人の恋路を邪魔しておいて、良くそんなことが言えるわね!」
推定年齢揃って十三才。
ショタでもロリでもない。ヒステリックに叫ぶ不愉快で煩いだけの無能。
そう分析し、切り捨てた僕は、バカップルに向かって嘲笑を浴びせた。