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「そう言えば、エルはローマンを連れていくのか?おれの家に置いておいた方が良いと思うが。」
がらがらがらと、車輪の音を響かせ馬車が走る。
魔物戦のせいでへし折れたご神木に、荒れ果てた畑。死の煙のように立ち込める暗雲や、大きく延びきってしまった雑草に、お兄ちゃん達がいつも遊んでいた空き地にあった大きな岩は無惨にも崩れている。
ぼんやりと外を見つめていた僕は、ギルの問いにぼんやりと答える。
「約束したから」
二度、約束したから。
死ぬ直前に、そして見殺したあとに。
豪華な馬車の隅に腰掛け、頬杖を付いて散々な状態になったエストニアをなんとも言えない気分でじっと見つめる。
会話はそれ以上生まれず、気まずい道中だった
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ここが、ウロボロスだ」
無口な案内人に孤児院ウロボロスの扉の前に案内される。
……おおう。超ボロいな。
それが、僕の第一の感想だった。
最初は豪華だったであろう灰色に偏食してしまった元は綺麗な白壁には茨姫のように茨が絡まっている。
回りに風避けの為か植えられている沢山の木は枯れ木になってしまっていて、季節柄もあるのだろうが寂しい感じだ。
くすんだ赤い屋根のてっぺんには、錆びたような旧い十字架が掲げられている。
幼いこの体から見たからなのか間のすごく大きくて、離れなどもあると聞き本当に驚いた。
「もう既に他の人間は中に居ますので御挨拶はご自分でお願い致します。」
ぎいいとお化け屋敷のような音を立てて、大きくボロい扉が開く。
もうこれ何回この世界に来てボロいと感想を抱いたことか。
ヒビが入っている大理石の無駄に広い床、明かりのなく薄暗い、大広間らしき場所に、昨日の隠し武器一杯の草臥れたブーツをこつこつと響かせながら歩いていく。
「あれ?あなたが話題のエルちゃん?」
……元気そうな声が響き、赤毛が見えた。
鮮烈な切った瞬間の血のような綺麗な赤毛をツインテールにまとめ、緑のつり目を煌めかせながら美少女が大広間の中央の扉からやって来た
……ツンデレだ。ツンデレっぽい子がいる!
ちょっと豪華なワンピースとか、直毛ツインテールとかつり目とか、この子絶対ツンデレだよ!
前世アニメ、ゲーム好きだった頃の血が騒ぎ、何処か滾る。
きゅんっと心臓が締め付けられた感覚がして、その子をつい凝視する。
すると。
「なんなの?君」
「あ、アルナルド!」
ツンデレ少女が開けた扉の奥から、金髪に毛先赤髪、理知的な赤い瞳をしたクーデレ風の少年がひょっこり顔を出した。
……ってか、アルナルドって、おじさまに仲良くしてほしいって言われたあの子?
……ツンデレ美少女がアルナルドを見て、頬を染めている。
これは、あれか。
このツンデレ美少女はアルナルドがすきとか、そういうオチか。
……リア充に興味はないんだよなぁ。
「あー、よろしくね。」
興味が冷め、僕はさっさと挨拶を済ませると、恐らくみんながいるであろう扉の奥に歩いていく、と。
「……酷いな」
そこには、沢山の光を失った目が合った。
男の娘とか、ショタとか、清楚系美少女とか、色々素質がありそうな子が居るのに。
皆、希望をなくしている。
どうしたものかと、こっそりと溜め息をついた。