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軍師様の悩み事!  作者: エスカルゴ
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結香の決意、エルベルトの力

ゆっくりと永い眠りについたジョアンナは、幸福そうに笑いかけてくれた。

これは、このジョアンナの戦死は、きっと誰にも語られない出来事となるだろう。


それでも確かに、彼女は英雄だった。


鷹の目のスキルをいかしてチームを引っ張ってくれた、確かな英雄だった。


溢れる涙を拭って、目の前の魔神を睨み付ける。

負けるなどとひとつも思っていないのか、ヘラヘラと笑っている。

鬱陶しい。殺したい。


その衝動に刈られ、エルはレイピアを構えた。


『えーなになに、僕と戦うの!?

あははっ、いいよ!!暇潰しくらいにはしてあげる!』

「それは光栄ですね。その命、刈らせていただきます」


ぐにょりと、感情により禍々しくレイピアは変形し、大きく真っ黒でいびつな鎌の形となった。

ぎらりと、エルの紅い目が妖しく光る。


地を蹴り、飛ぶ。


魔神は笑いながら強烈な魔力弾を大量に撃ってくるが、ぐるりと鎌を持ったまま回転し全てを切り裂いた。


『は』


エルに狼の耳と尻尾が生えたのは、たった一瞬。

その一瞬のうちに、魔神は右腕を切り落とされた。


『うわっ!?』


当然のように右腕は生えるが、今度は左腕を切り落とされている。

左腕を治すと、次は右足。

右足を治すと、次は左足。



(な、なにこれ)


最早さっきまでの余裕はどこにもなく、ただ切られ続ける四肢の再生を繰り返していた。


ずりゅん、と軽い音がした。



魔神は地面と結合していた。



『えっ!?』


やっと攻撃はやんだが、魔神は動けない。


なぜなら、地面と錬金されているからだ


「異世界人ってさぁ、チートおおいよねぇ」


笑っていない赤色の目で、先程まで仲間を想い涙していた子供は嗤う。


「僕もさ、みんなの協力あってこそだけどねぇ」


ゆっくり、ゆっくりと死神のような子供はこちらに近づいてきた。

子供は、魔神に向かい、天使のような微笑みを見せた


「本当は、その"チート"のひとりなんですよ」


子供はその笑顔を張り付けたまま、下半身が地面に植え付けられた魔神の胸にあしをかける。


怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!


ビリィ、と嫌な音がした。

自分の体が割られたのだと、"剥がされた"のだと察した。

あまりの痛みに悲痛な叫びをあげる。


そうして思い出した。


先程殺した子供は、死ぬ寸前に叫び声などあげなかった。


ただこいつに、報告するためだけに生きていたと。


この悪魔のような子供が重宝する人材である。

自身が死にかけていても全体を見通し、自分の所属している場所のことだけを考える。


それは狂気とも言えるほどの忠誠心だ。



(あぁ、そっか)


まだ叫び声をあげるしかない自分を理解し、やっと魔神は気が付いた。



(確かにあのこは、強かったのか)



そうして永遠の眠りにつく。

もう二度と、この悪魔と出会わないことを祈って





魔神をあっけなく殺したエルは、ボロボロと涙を流した。

大事な仲間だった。


いっつも必死で、空回りして。

それが面白くてからかったらまた大袈裟なくらい怒って。


それでも、人を嫌いになんてなれない心優しい子だった。


頑張っていたことは知っていた。

だって、アルがよく報告していたから。


人一倍頑張るのに、いつも人並みで。

それが昔の自分と被った。

人並みなことに文句も言わず、ただ黙々と頑張る姿は、心のそこから尊敬した。


いつか言おうと思ってた。


もう声は届かない。


「ごめん、ごめんね。ごめんなさいジョアンナ。またぼくのせいだ。またまちがえた。

もう間違えない。もう殺さない。ごめんなさい」


ジョアンナの死を乗り越えることは出来ない。

ずっとあの笑顔が胸に残り続けるだろう。

それでも



それでも、進まないといけないから。



僕は涙を拭って、孤児院へ戻る道を静かに歩いた。


エルベルトは軍師だ。一人の死に動揺してはいけない。

エルベルトは軍師だ。迷ってはいけない。

エルベルトは軍師だ。道しるべにならなければいけない。

エルは神父だ。迷える子羊は救わないといけない。

エルは神父だ。笑顔を崩してはいけない。

エルは神父だ。子供たちを導かなければならない。


……でも


新庄結香は何でもない、しがない転生者だ。


仲間の死に涙してもいいし、引きずってもいいし、迷ってもいいし、誰か道しるべにすがってもいい。


なにも救わなくてもいいし、泣いたって暴れたって誰も文句は言わない。

導くことなんてできるわけもないし、期待だってされてない。


だから、新庄結香は唯一泣いたって許されるのだ。


軍師エルベルトにも、神父エルにも許されないものは、全部結香のものであれ。

みんなの前では軍師エルベルトなのだから出しちゃだめ。

神父エルなのだから出しちゃだめ。


でも、一人の時は結香でいい。


一人の時は盛大に泣こう。理不尽を嘆こう。


それでいい。



「魔導遊撃隊、剣士先行隊、奉仕回復隊、特攻隊、すべて揃っているな?」



結香を知るのは、エルとエルベルトだけでいい。



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