一日目~魔導遊撃隊・ジョアンナ~
☆☆☆
吐き気を催すような重苦しい悪臭が漂ってくる。
現場の指揮官であるジョアンナは、相棒のレスターに目配せをした。
レスターはこくりと静かに頷き、得意魔法である加護魔法をジョアンナにかけた。
≪命中率と素早さが2上昇しました≫
感覚的に集中力が上がり、からだが軽くなる。
ここからはマニュアルの出番だ。
アルナルドに叩き込まれたことを思い出しながら、ジョアンナは特殊スキル・鷹の目で周囲の状況を把握する。
まずは自分達のいる≪迷いの森≫と呼ばれているいりくんだ森だが、そこからわき出てくるモンスターはいないようだ。
次に迷いの森のすぐそこにある大地だがそこに敵陣は組まれているようで、抗争の気配がする。
まぁきっとあの軍師一人で戦っているのだろうが。
「……どうする?」
レスターが聞いてきた。ジョアンナは当たり前のように、聖属性の魔方陣を右手に出現させた。
「あのこの指示通り、叩くわよ」
その言葉とほぼ同時に、魔方陣は鋭く空気を切り裂き最後列のゾンビを攻撃する。
上っていた木から降り、続々と攻撃を仕掛ける仲間に雑魚は任せて大将首であろう超大型のゾンビに集中して攻撃を食らわせた
「ぐギャアアア!!」
醜い悲鳴をあげながらこちらに走ってくる。
やはり早い。ゾンビは俊敏さだけが取り柄である。
さらにレスターの加護が強くなり、体が軽くなる。
「助かったわ」
此方としても早くかたをつけ、アルナルドと話をしたいものだ。
向こうから来てくれるのなら好都合。
ぱちんと指をならしフラッシュをたいた。
ゾンビは怯んだように動きが鈍くなる。
その隙をついて、加護に裏打ちされたスピードで近付き全力の魔力を相手に叩きつける。
瞬間破裂する大将首のゾンビ。
「あ、アアアアア!!!」
涙を流していたような気がした。
(もとは人間だったのかしら)
それは古い言い伝えだった。
死んだ人間の魂が肉塊から出ていかないと、ゾンビになって愛するものを襲うようになると言う言い伝え。
雑魚はあらかた片付けられていて、先程まで動いて、曲がりなりにも命のあったものが動かない肉塊とかしていた。
それに比べ、こちらに戦死者はほぼいない。
(これが、戦争)
相手が弱いわけではない
少しの油断が、死に繋がる。
『みぃつけたぁ!!』
「っが、は……!?」
そう、まるで、今のように
心臓をなにかが貫いた。
くろい、なにかだった。
レスターが叫んでいる姿が見えるような気がした。
あぁだめよ、レスター。
みつかっては、だめ
痛みは一瞬で、あとはもうなにも感じなくなっていた。
ぐるりと視界が反転して、自分が地に伏したことを理解した。
(ほうこく。
はやく、あのこに、えるに)
あの子だったらきっと、何とかしてくれる
手を伸ばして、エルの元に向かおうとする。
『あははっ、きもちわるーい、なんでいきてんの!?』
える、エル。
……ねぇたすけて、アルナルド
『むりだよ!!あんたんとこの指揮官は死んだ。
あの程度の魔物殺して満足なんて、ずいぶんランクが低いね!!』
ちがう。ちがう。私が弱かっただけ。
アルナルドをけなさないで。アルナルドは光なの。アルナルドだけはちがう。
隊長は強い。だから、
「貴様程度が、アルをけなさないでもらえるか?」
一陣の風が吹いた。
よくとおる因縁のある声が、なんだかずいぶんと霞がかって聞こえる。
死ぬのだな、と確信した。
軍師の方を見る。
こちらを見据え、にこりと笑った。
「有難うジョアンナ、助かった。
流石、魔導遊撃隊だな!」
この人は決して、嘘を言わない。
この人は決して、簡単に誉めない。
そうか、そうか。
私が、たえたから
ならよかった。
アルナルドの一番大事な人が、アルナルドを褒めてくれている。
あんな魔物の言うことなんかより、こっちの方が、アルナルドは深くとらえる。
嬉しいと、思ってくれる。
良かった。
わたしの最期が、あの人を笑わせられる結果で。
あぁ安心したら、なんだか眠たい。
寝たら、もう覚めない。
でもいいの。それでいい。
どうか、この戦争が勝利をおさめますように
☆☆☆
初めてあったときに、とてもきれいな子だと思ったの。
アンニュイな表情も、クールな心根もとっても素敵!!
どうしても私に笑いかけてほしかった。
どうしても特別にしてほしかった。
でも、その願いは叶うことはなかった。
みんなからあのこの記憶が消えたとき好都合だと思った。
けれど、アルナルドはあのこを覚えていた。
悔しかった。
あのこが戻ってきてからも、嫌がらせをしたけどいっこうに効果なし。
どうして、どうしてあのこだけ?
そのうちに訓練が細分化されて、アルナルドの元につけるようになった。
ここで頑張れば、振り向いて貰える?
そう思って実力を磨いてきたけど、やっぱりあのこには敵わなかった。
無念を抱えながら無様に犬死にするのだと、思っていた。
戦争はそうだと聞かされていたから。
でも、
「有難う」
「助かった」
「流石、魔導遊撃隊だな!」
求めてやまなかったそれを、皮肉にも、全てを手にしている憎いあのこに貰った。
けれど、わたしの出来なかったことをあのこはいともたやすくしてくれる。
……あぁそれなら
べつに、わたしの最期も、悪いものでもなかったのだと、思える。
≪現在の死傷者≫
ジョアンナ・戦死
アアアアアジョアンナ死んじゃったアアアアア!?
アイエエエエナンデエエエエエ!?
ジョアンナアアアアア!?
何とかして生き返そう!!!
まだやってほしいこと一杯ある!!




