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軍師様の悩み事!  作者: エスカルゴ
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4

さて。役所のなかにすぅっと入れたのだが。

きらきらしいシャンデリアに、大理石でできた床。高価な羊皮紙やインクを惜しげもなく使い住民票を作っている。

一言で言うと


「派手すぎおそれ多すぎ勿体なさ過ぎ無理!

ギル!ちょっと登録してきてよ!」


一言ではなかったが、大体こんな感じだ。

平民である僕には恐れ多すぎる!

床に大理石を使う必要はないしインクも羊皮紙もはっきり言って無駄!

ギルが平然としている理由がわからない


「えっ!?でも、住民登録をするには本人をつれてくる必要が!」

「じゃあはいローマン!落としたりしたらぶっ殺す!抱き方はこうだから!」


戸惑うギルにローマンを預けて、僕は役所の端ッこの方にさっさと歩いていく。

眠たいしお腹すいたし吐きそうだしで実は凄いキツかったのだ。


隅っこに着いたと思ったら、はぁと溜め息をついてくたりと壁に寄っ掛かり、座り込む。

体操座りをする余裕はないので座った体勢のままぐったりとしていると


「どうしたんだい?お嬢ちゃん」


ダンディな低い声のおじさまが、柔らかい笑顔で話し掛けてくれた。

金髪に赤髪が所々混じった髪色のおじさまは、かっちりとした上質のスーツを身に纏っている。

……ちゃんとした貴族様なんですが。


「は、はいっ!申し訳御座いません!お邪魔でしたのなら今すぐ退きますので!」


思いきり手を付いて立とうとするが、立った瞬間にくらりと力が抜けて、また崩れ落ちる。

やば。転ぶ!


そう思った瞬間に


「……っと、大丈夫かい?邪魔だなんて思っていないから、少しこの老人と話してくれるかね?」


とっ……と軽く受け止められた。

ふわりとかおる良い匂いの香水と、暖かく少しかさついた大きな手が、安心させるように僕の頭を優しく撫でる。

ぎゅう、と自分のボロい服を握りしめる。


泣いちゃダメだ。泣いちゃダメだ。

泣くなんて大人気ないし、迷惑がかかる。


「君のような小さな子が、こんなに辛そうにしているんだ。気にならない大人が居るわけがないだろう。

何があったのか、話してくれるか?」


もう記憶のなかにしかない父さんのような声音で問われて、目頭が熱くなった。

見てくれていたことも、其で事情をこんな平民から聞き出そうとしてくれていることも、嬉しくてしかたがない。


「……かぞくが、もう、昨日生まれた赤ん坊しかいないんです。」


その言葉で、僕が何者なのかを察してくれたおじさまは、


「そうか、エストニアの……」


そう一言言うだけで留めてくれた。


「僕、のっ、僕が、あんなことっ、言わなきゃよかった!

計画だったら!僕は死んでたはずなのにッ!

家に出るなんて、想定してなかった!

母さんも、父さんも、お兄ちゃんまで!

死のあとに、何かがあるなんて間違いだ!

死んでしまったら終わりなんだ!


……なのにッ!」


あれは僕のせいだ。

判断を間違えた。言い方を間違えた。

僕だけは生き残るべきじゃあなかった。

ローマンさえ生き残れば。

その思いに嘘はないが。


……どうして。僕が生きているんだ?


「ああああああもうお腹すいたよおお!眠たいよおお!頭いたいよお、疲れたよおー!」


目の前に居るのが誰かも忘れて、八つ当たりをするように目の前の誰かに拳を叩きつける。

涙は勝手にポロポロと零れ落ちて、鼻水もずるずる出る。

目の前の暖かいなにかが、僕を抱き締める。


「よしよし」


ポンポンと、大きな手で頭を撫でられた。


「よく頑張ったな」


ふわりと広がる暖かい感触に、僕の瞼がおもたくなった。

安心する。


「とーさん……」


あぁ。全部夢だったんだ。

僕、悪夢見たんだ。

父さんも、母さんも、お兄ちゃんも、死んでなんていなかったんだ……


じゃあ良いや。

なんだか眠たいから、お兄ちゃんに起こされるまで眠っちゃおう。


「おやすみぃ……父さん」


☆☆☆☆☆


って夢な訳あるかぁ!!

寝たところが違うしそんな勘違いするほど子供じゃねーよこちとら!


「うわあああああ!申し訳御座いませんんんんんん!……って、へ?」


ばっ!と大きなベッドから飛び起きた

柔らかなベッドがほいんほいんと揺れる。

大きなベッドが小さく見えるくらい大きな部屋の中、一人で寝ていた。らしい。


「んんん?」


何故僕はこんなところで寝ていたんだ?

貴族らしい貴族の部屋なんだが。

品の良い白に薄金がアクセントとして品良くあしらわれている。


「いやまじでなんなんだ。つーかここどこ?

品の良い人さらいにでもあったか?」


かけられている絹の毛布をさわさわしていると、コンコンと扉がなった。


「起きたかね、エル君?」


……おじさまの声!

はい!と返事をすると、おじさまが扉を開けた。

ラフなジャケットに着替えているが、相変わらず品が良い。


「エル君。早速だがなにか食べないか?」


そう言われて、ぐううううーとお腹がなった。

物凄く卑しいな僕のお腹!

少しへこみながら、大事な事に気がつく。


「ローマンは!?ギルも!」


ローマンとギルがいない。

慌てて聞くと、クスクス笑われた。


「きちんといるよ。君たちは本当に仲が良いんだね。ローマン君もミルクを飲んでくれたよ」


それを聞いて、よかったぁと肩を撫で下ろした。


「さぁ、ご飯を食べようか」


今度こそ、しっかりとうなずいた。

食堂にいくと、ローマンとギルが出迎えてくれた。


「ローマン!良かったぁ……」


ローマンを抱っこしたギルに駆け寄って、ローマンの頭を撫でる。


「エル!住民登録しておいたぞ」


フフン、とどや顔で言うギルに、はいはいありがと!と返して、おじさまに礼を言う。

すっと床に膝を付く。


「ここまでしていただいて、本当になんとお礼をいったらよいか……!

お詫びがわりに、ささやかですが豊穣の神であるオブライエンの祝福をさせていただいても?」


「許そう」


「では……」


元々神への祝福は歌ですると決まっているのだ。

基本簡略化した言葉を使うのだが、今回は歌で祝福をさせていただこう。


「あぁ、我が豊穣の神よ……」


あなたが紡ぐ縦糸は、豊穣の縁を繋ぐ青い糸。

あなたが紡ぐ横糸は、繁栄の縁を繋ぐ赤い糸。


そんな出だしから始まる祝福は、私が一声だすたびに、緑と赤の光が弾け、ウサギになったり虎になったり。

光の粒はローマンやギル、おじさまに振りかかり、生涯の加護を告げる。


めっちゃファンタジーっぽいが、我が家では好きなものが出た父さんがよく歌ってこういうことをしていたから特に珍しくもない。


まぁ多分凄いことだろーがな。


中学時代、弟ともにトリックスターと呼ばれ、奇術師をして学校の名物になっていたことを思いだし、手を振り上げると、その奇跡をたどりさらに祝福の輝きが増える。


手が振り上げられたあと、足をとんと踏み鳴らし、くるりと舞う。

くるり、くるりと、回っていくごとに祝福を授ける。


飛んで、跳ねて、回って、優雅に美しく。


響くように両手を叩けばフィニッシュだ。


「永遠の豊穣を……」


ようやっと伏せた瞳を開けたら。


祝福の光が充満してましたテヘッ☆

なワロえないことになってました。


☆☆☆☆☆☆


「ふぅ、ごちそうさまでしたー」


あのあと、ポカンとしている二人に戸惑っていたら、もう一度僕のお腹がなった。

それで、理性を取り戻したおじさまがとりあえずご飯にしようと言ってご飯をくれた。


美味しかった。さすが貴族。


……さて。


「いやぁ。至れり尽くせりでほんとありがとう御座いました!なにかお礼しますよー!

何がいいですか?」


にこにことそうきいてみる。するとおじさまは、暫く悩むような顔を見せて……


「私の息子と……アルナルドと友人になってほしい」


と言われた。お安いご用だが、アルナルド?


「アルナルドは、庶子だと言いがかりをつけられ、エストニア近くの孤児院に入れられている!あそこの孤児院は、ウロボロスは、魔物の餌場なんだ。

でも私だと何もできない。することを禁じられている……!頼む、エル君」


……なんか今胸くそ悪いこと聞いたんだけど。

魔物の餌場?何それ。


おじさまの顔を見て、心配そうなギルの顔を見て、僕は。


「分かりました。じゃあその孤児院に入るのでローマンを渡して送ってください。

僕のやることに口は出さないでくださいね」


そう無表情で言い放った


次は見送りと孤児達との対面です

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