フローラの妄想
「ふぁあ……あれぇお早うエル」
「おはよう。……手を離してくれるかな??」
「やぁだ」
「……アールー?」
「闇様のところいっちゃうから。やぁだ」
「……もぉ、あとで一緒にあそぼ?だから離してよ、アル」
「いいよ。あとであそんでよ」
「いーよ」
赤黒い髪をした少年が、少し年上の綺麗な金髪に毛先が深紅という不思議な髪色をした少年の我が儘をいなしている。
それも別に迷惑がっている訳ではなくて、困った子だなぁと言う風に苦笑しながら。
どちらも私達より小さいのによくお兄ちゃんの役目をしてくれている、我が孤児院の誇る二大双頭。アルナルドがみんなを甘やかす飴の役目、エルちゃんがみんなを律する鞭の役目をしている。
エルちゃんは孤児院に昔からある教会で日中は過ごして、朝に男子を訓練に駆り出す。
日中は二年間してきたように慈悲深く礼儀正しい聖なる神の使途としていろんな悩みそうだんを受け入れている。
アルナルドは皆の昼食を作り、下準備をしてから、エルちゃんの好きなものをつくって教会に向かう。
そんな二人は、いつもは己を律し、互いよりもそれぞれ孤児院の子供達を優先するのだけれど、朝早く起きたその僅かな時間だけ、互いで互いを甘やかす。
私……フローラはそれを見るためだけに眠いなか早く起きているといっても過言ではない。
「そろそろ起こすかー。ほらー!早くおきなさぁい!」
「下準備をしてくる。気を付けてね」
「パパ……あとごふん」
「こら誰がパパですか……ちょっとママもいってあげてよ」
「パパ、ジャーマンスクレップスして良いと思う」
「おきましたぁ!おらお前ら起きろ!神父様は手加減を知らんぞ!」
アルナルドに脅された男子は叫びながらまわりを起こす。エルちゃんは失礼ですねぇと溜め息をついて、まわりを叩き起こしていく。
私は悶えていた。
「くっ……!なにあのノリノリ感……!!!
パパからのママって、夫婦!?夫婦なの!?
とうとうラブラブハッピーウエディングしちゃったのー!?」
男同士だからって関係ない。むしろだからこそ良い!
さっきの会話で、一瞬にして妄想が広がった。
そう、成長後で……
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十六歳になったアルナルドは、幼い頃よりもさらに儚げに綺麗に成長していた。
そう、女の子と間違われるくらいには。
アルナルドは神山アスラを降りて、一人の男としてきちんと生活していた。
なのに、何故男らしく成長しないのか……
昔から体つきのよかったエルに、いちど相談してみるか。
そうおもいたち、神山の中腹の教会にはるばる来たのだが。
「アルは変わらないでいいだろ。それも魅力だよ」
持参したお弁当を勝手に食べながら、華奢ではあるがしなやかな筋肉のついている青年……エルは表情を崩さずに言い放った。
自分もだが、エルも相当な鉄面皮である。
だからこそ、その表情が崩れて笑顔を見せると、言い様のない幸福感が胸に広がるのだが。
「それじゃダメなの!
男にも告白されるから。面倒くさい」
おかしな方向にいっていた思考を軌道修正して、悩みを打ち明ける。
それをきいたエルは、持ち前の過激さでもってブチ切れると思ったのだが。
「そうかそうか、でも僕は男にもモテないからなぁ。良いじゃないか羨ましい」
我が儘いうなとあたまをポンポンされた。
そういうことじゃないし、妬いてくれないの?
っていうか男にモテたいんだ……?
ぐるぐるしたのが渦巻いて、ほほを膨らました。
「……おれはエルが好きなんだよ」
「僕もアルが大好きだよ?……おやローマン、どうかしたのですか?」
「そういうことじゃなくて!」
「そーゆーことだよ」
「ちがう!」
口論をしながら、アルナルドは自分の休憩時かんが終わりかけていることに気がつき、山を急いで降りてく。
エルはアルナルドの去っていった方向を見詰めながら、つぶやいた
「そーゆーことだよ……。あと何百回、告白をしたら良いのかな?」
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とか!!良いわよね!!!
私は表情を変えずに妄想を駆け巡らせた。
とある日の日常がまた幕を開ける。




