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軍師様の悩み事!  作者: エスカルゴ
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神山生活十週間目


もう二ヶ月以上この神山に住んでいる。

めちゃくちゃ平穏な生活で、楽しくて、シルクを全力でからかっているうちに月日は飛ぶようにすぎていった。


そんなある日、シルクとモクは定期テストで夕告げ鳥が泣いてからじゃないとこれず、長老様方はさらに上の神の集会に夫婦共々出掛けていて、老人会のおじーちゃん達は聖霊界にようがあって、ライオンさん達は定期集会に出掛けていて、本当に山の中が静かな日。


僕は、切り株の上ですやすやと丸まって寝ていた。

二ヶ月も立てば少しずつ暖かくなっていて、お昼寝するのには丁度良い。

下山したらもっと暑いのだろうけど、生憎下山は出来ないから下界の苦労はちょっとよく解らない。


ほわほわとした気分で目をつむっていると、隣に誰か来た気配がして、大人しくしていると、冷たい手で頭を優しく覆われ、撫でられた。


その乱雑なようで丁寧な手つきに覚えがあって、ゆっくりと目を開けて、手が延びてきている方向をねっころがったまんま首だけで振り向けば、予想通りの人物が、予想よりも優しい顔で僕に手を伸ばしていた。


「やみさま……おはようございます」

『……起こしたか』


ちょっと申し訳なさそうにする闇様マジプライスレス。

いや、貴方のそんな顔が見られるなら僕深夜にたたき起こされても許せる自信がある。


「ふふ。いーんですよ。どうせ夜もぐっすりです」

『だが、この前見たほんに子供を起こすのはあまりよくないと書いていた』

「いーんですって。それより、その本はどうして闇様が見ることに?闇様の事、お聞かせください」


話を聞いていくと、闇様は本当は僕へのプレゼントに絵本を読み聞かせしたかったらしく、面白そうな絵本を見付けて、そのなかに書いてあった事らしい。

何それ。僕のプレゼントの為に絵本をその甘く低い声で読むとか何のご褒美?

ヤバイよそれ生きててよかったって心底思うやつじゃん。


あと辿々しい声で絵本をよむ闇様尊い。


「えー!何それスッゴク聞きたかった!勿論闇様お手製の髪飾り、とっても綺麗でいいんですが、欲を言うなら絵本も聞きたかったです」

『……つまらないかと思ってな』

「気遣いしてくれたんですか天使ですか嫁に来ます?」


息をするように口説いた僕は悪くない。

欲張りで泣き虫でバカな子供のために前々から準備してきた上に気を使ってやめてしまう闇様本当尊いんだけど。僕闇様なら嫁に来ても良い。


『よめ……?嫁は、俺が貰うものだろう?』

「おい天使か?天使なのか?でも僕も神嫁はまだ勘弁」


僕はまだ半人間なんだ。

そもそも僕にはまもるべきものがある。

守るって決めたんだ。守らなきゃ。


誓いを新たにしていると、闇様からまた優しく撫でられた。

いつもは中々こんな風にスキンシップを取ってくれないので、少し驚いていると、神妙な声で闇様は言った。


『おまえは、心根が真っ直ぐで、優しくは決してないけれど、良い人の子だ。

小童共と意味は違うが、愛しく思っている。

だからこそ、人の子でおるお前を幸せにする義務が、俺達老いぼれにはあると思う』


闇様は本当はかなり高齢なおかただ。

ずぅっと勇者に封印されていたから現世のことはあまり知らないけれど、シルクやモクは勿論、老人会の方々の大半を小童と一蹴できる年齢ではある。


そして、やはり、良くも悪くも神の端くれなのだ。


僕はそんな闇様を心から尊敬している。

だからこそ、闇様の忠告に耳を傾けたのだ。


『決して、誓いを忘れるな』


闇様は、何かを警戒するように僕を強く強く抱き締めた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


神山生活十一週間目アルナルド


彼女は顔を引き締めて、りりしく笑った。


『彼らへの誓いを、忘れたことなど在りません。

それは、何年たっても同じこと』


その"彼ら"とは、僕達の事を指すのだろう。

この夢にいくことが多くなれば多くなるほど、僕は彼女の事が分かってきた。

そして、元はやはりこの孤児院に居たこと。


何があっても帰ってくる意思があること。


そしてそれが、確実に僕がいる孤児院に帰ってくるらしいこと。


僕は夢のなかで断片的に彼女が笑ったときに吸い寄せられるのだけど、そのときに彼女が寝ていることもあった。

その時は、彼女が良い夢を見ているとき。


そして、たまに僕の名前を出す。


『アル……』


だって。

その時に、ふにゃりとした安心したような笑顔を見せる。


……早く帰ってきて……


僕のなかの"アル"がそう言って悲鳴をあげる。

君がいないと寂しい、嫌だと。

彼女の望みはよく解らない。

何でこんなと言ってはなんだけどこんなじめじめした場所に戻ってくるのか。


でも、ちょっとだけなら彼女の好きなものは解る。


……甘くて、美味しいご飯だ。


彼女が戻ってきたときに、いつでも、朝昼晩の三回はあの嬉しそうな顔が見られるように、甘いものとか美味しい物とか作って待っておかないと!


……これが、後に世界一のグルメ王と唄われた、アルナルドの始まりのお話であった……

闇様がクーデレだったという想定外の事態に作者戦慄。

そしてどんどん進んでいく神山生活。

いつになったらアルナルド達は再会するのだろうか。

アルナルド君は記憶喪失のままおかしな方向に突っ走り始めたし。

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