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神山生活六週間目
「はろはろー!みたかシルク!モク!闇様!
無敵の人狼様、完全復活!」
『おめでとうございます!薬草を差し入れていてよかったですー!』
『流行り病に負けたのに、今更無敵とかあるか』
『朝っぱらから元気すぎだ!ちゃんと寝たのか!?朝飯は!?』
怒ったようなシルクに、ほっぺをぐにぐにされる。
闇様はクールに溜め息をついていらっしゃるし、モクは僕の事を心配そうに見ている。
取り敢えずモク尊い。嫁に来てくれ。
あと闇様、幼女の号泣が見たくなかったら呆れた目で見るのを止めることですね!
全力で泣かせていただきますよ……!!
「あいててて。だーいじょぶだって!
モクの美味しい薬草シロップと、味とか何それ美味しいの?とでも言いたげな無臭の劇薬で何とかなったから!」
『劇薬!?大丈夫か人狼!!』
「お前の薬だよ単細胞。でも案の定さらっと治ったから許す。モクのは口直しに丁度良かった」
熱が上がって寝込んでいたときに、無臭なうえ透明な薬が贈られて、丁度良いと飲んだのが悪かった。
死ぬかと思った。
まず最初にドロリとした喉がやけつくような喉にへばりつくような苦さと感触がした。
人間の食い物じゃねぇやと思った。
さらにその苦味がようやっときかんに大きな魚の骨が突き刺さっているような激痛に変わっていくと気絶寸前の頭で考えていたら苦味とは正反対の驚くほどもう辛いと言うよりも熱い辛味?辛味だよねあれ?多分辛味がやって来て、もうのどがサタデーナイトフィーバーだぜ☆
以外と余裕だな僕!!
舌の上の細胞が本当にすべて死滅したと思ったら今度は止めでも刺すかのように強烈な甘さと酸っぱさが襲ってきたけれど途中から気絶したから味は解らない。
一瞬体中が沸騰したのかなと思うほど熱くなり、それが終われば、ドグン、と大きく重く心臓が跳ねて、しゅううと煙を吐きながら体中の病魔と熱を粉砕したような、というか実際したらしい力業の薬に、僕は思った。
……こんなの、悪魔でもしねぇよ……と。
まじ何の嫌がらせだよと思ったね。
「何??あの毒薬ばりの薬??
学校であんなの教えるの??起訴してやろうか??」
『あぁあ人狼様お痛わしい……!あんなの病人に与えるものではありませんよね!
さぁこの聖霊界の甘味をお口直しに……』
『お、じゃーおれも!……ごめんな人狼…?』
「お前らそれヨモツヘグイじゃねーの?」
ヨモツヘグイ?と首をかしげた彼等に、ヨモツヘグイの意味を説明する、と。
シルクは凄い勢いで顔をそらし、モクはイイ笑顔で輝いてらっしゃる。
一応確認のため闇様を見ると、凄く大きな溜め息をつかれた。
「やだ闇様溜め息をつくと幸せを逃しますよー
……そしてお前ら、まじか。」
『いや、何か人狼様、下界の子供らしき名前呟いて魘されてますし、下界に帰る前にもういっそ全力で隠してしまおうかと』
エヘッ☆と笑顔を崩さぬ癒し系モクに、そんなに可愛い理由なら許すと言いかけてがちで隠す予定があったのかと戦慄した。
この子、確実に女の子なはずなんだか……
何かめっちゃふっきれてんだけど……怖……
「一応聞いておこうか、シルクは何でだ?」
『モクが……聖霊のご飯渡せば病気もしないし一緒に居られるって……』
人狼、人間だからすぐ死んじゃうしと寂しそうにしょぼんしたシルクは許した。
この驚くほど単純バカに嘘がつけるわけないし、ついてたとしても可愛いから許す。
「闇様は何でほっといたんですか?
つぎ僕のピンチにほっといたら泣きますよ?」
『すまんかった。面倒くさかったんだ』
「ぶん殴りますよ」
割と本気モードで拳を固めた僕を、シルクとモクが必死で止める。
因みに僕は今ジト目だ。心が抉られれば良いのさ!
闇様は相変わらずの無表情でよし、と呟いた。
『元気になったみたいだな』
そこでやっと、僕達のバカなやり取りを息をのんで見守っている、長老様方のような魔物さん達に気が付いて、僕は少し赤くなった。
それから、ぱっとわらって、
「ふへへー、完全復活!ですよー!」
と宣言した。
大人数(人じゃないけど)がほっとしていたのが印象的だった。
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神山生活二ヶ月目
二ヶ月もすれば、孤児院の生活にもなれてきてしまった。
やはりあの夢は気になるけれど、あの夢はいつも、彼女の幸福そうな、満たされた笑顔を写している。
なのに、僕の心の奥底……多分、記憶を失う前の僕が、いつもいつも叫ぶ。
不満だ、と。苦しい、と。
……一体、何が不満だと言うのだ。
彼女がしあわせであれば、別に良いだろう。
どうせ、夢でしか会えないのだから。
少しへこんだ気分で、食堂の席につく。
味のしない食事。
……そう言えば、もしも彼女が僕を知っていて、僕がもしも、彼女と親しかったのなら。
もしも、彼女が同じ孤児院に居たのなら。
ご飯を食べて幸せそうに笑っていたあの笑顔は見られないのだろうか。
僕はこんなに気難しい性格だから、彼女が誰かと口喧嘩して、そのあとのニッ!と笑った笑顔は見られなかったろうし、ここにはあまり年上はいないし、僕はあの子より少し年が上なだけだろうから、甘えるような笑顔は見られないだろう。
言葉とかから察するに、あの子は甘えるより甘えさせたいだろうから、寧ろ僕が甘えてたはず。
なら、夢でも見られなかった優しい笑顔は見れたのだろうか。
「……アル?どうしたのよ?」
あぁほら、こんな声かけだって、多分してくれたんだろう。
『アル?どうかした?』
……何て。
「……赤黒い髪に、赤黒い瞳。」
「……っ!」
ぼんやりと呟いた言葉に息を飲む声が聞こえてきた。
「もしもここに、いたらなぁ」
目をつむれば、まぶたの奥に、さっきまで見ていたけしきの奥にあの子が此方を見つめている気がした。
それいこう、僕はあの子がもしも此処にいたならを、起きてるときでも夢見るようになった。
私はクーデレをなにか誤解している。
寧ろクールをなにか誤解している。
そう思うけれどもうアルの平常運転がエルへの依存状態だから何も出来ない。




