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神山生活二週間目
「だから、印の結び方はこうだって。
……シルクは物覚えが悪いなぁ」
『なんだとー!?』
『人狼様が早いんですよ』
何時もの花畑の切り株で、シルクに闇様に習った印の結びを教える。
モクはもう覚えているらしく、僕達を微笑ましく見ていた。
最近お年寄りの方々が飴とか甘いものをくださるから、自分も食べながらシルクのご褒美にする。
バサバサと、音が聞こえた。
昼告げ鳥が飛び回っている音だ。昼告げ鳥の胸辺りを見れば、ちょうどお昼を示した時計が見えた。
「お、昼告げ鳥だ。じゃーいったん練習はおしまいにしよっか」
『……俺はまだ練習する!』
ふんすふんすと意気込んだシルクに苦笑いしつつ、僕は持ってきたお弁当(三人分)を広げた。
「そっかー。夕告げ鳥が飛び回るまでにはご飯食べなね。モクはどうする?」
『私はもう予習も終わったので、頂きます』
聖霊には聖霊見習いしか通えない学校があるらしく、見習いではないが就任してまだ間もない二人は夜に学校にいっている。
どうやら彼らの使う原始魔法はそこで習っているらしい。
「今日は僕の自信作だよ。美味しくできてると思うけど」
『人狼様のですか?料理なされるんですね!』
「メシマズではないかなー」
前世でも、料理が面倒臭かったから基本乙に任せていただけで、空き家でも料理程度はできるのだ。
事実乙が風邪引いたときは僕が料理したし。
その結果甲からは「出来るなら最初からやりなよ」とか言われたけど。
出来るけど!やらない!めんどくさいから!
「いただきまーす。」
『いただきます』
パクリ、とサラダから口に入れた。
しゃくしゃくと瑞々しい野菜の感触が舌と歯をもてなした。
おつぎは卵焼き。鶏夫婦が無精卵をくれたのだ。多分あの子達も魔物だと思う。
流石に大学生だったので、調理実習の甲斐もあってかこのくらいなら焦がさず綺麗に巻けている。
おじーちゃんの料理には劣るが、まぁまぁ良い出来映えだ。
『……!!』
「うむうむ、やっぱ素材が良いと違うねー」
『うっしゃー!出来たぜ!』
「おーシルクおめでとー。はよ食べなー」
シルクはおうよ!と良い返事をして、シルクように作ったお弁当箱に入っている卵焼きを手で掴んでとっていく。
シルクもモクも、僕の渾名に警戒心を抱かなくなっているの、気付いてないんだろうなぁ
「シルク、お行儀悪いよ」
『あ、そっか!いただきまーす!』
素直にいただきますって言っちゃうシルクが可愛すぎて今日も生きるのが楽しい
……てか、さっきからモクが喋らないんだが。
え?なに??僕何かやっちゃった??
もしかして聖霊にとって僕の味付けが嫌なやつ?何それやべぇ。
「も、モク??どうした?」
『……し……』
「えっ」
『……おいしい……!』
感動したように震えるモク。
僕は取り敢えず脳内で狂喜乱舞しながらも、何故美味しいのか解らない。
……いや、そりゃ僕はある程度料理出きるよ?
でもおじーちゃんよりはおとると……思うんだが……
『おー!これに籠ってる魔力、めっちゃ質良いな!そりゃ美味い!』
「……あ、あーそういうこと!まぁ僕魔力の質と量はいいしねー、魔力籠めたのがわかったのか」
シルクのちょっとした説明に納得する。
聖霊は魔力が好きらしいので、今回のお弁当、ちょっとズルいかもしれないが魔力を籠めるように意識した。
おじーちゃんにそれを話すと、隠し味は魔力ってこと?良いと思うよと許可された。
最近僕のシルク達に対する口調は、絶対おじーちゃんがうつってる。
「ふふー、おいしーならよかった」
『人狼のは魔力籠ってないのか?』
「籠めてないよー。充分魔力は持ってるし」
『人狼様のお弁当も食べてみたいです』
「いいよ。魔力籠ってる方がよかったらいってね」
二人の食べるスピードが余りにも早くてもう半分切ってるお弁当箱に自分のお弁当箱から唐揚げを一つずつ分け与える。
二人はパクリと同時に唐揚げをくわえる。
この唐揚げ、無精卵をくれた鶏夫婦がくれたんだ。……闇を感じた
『お、普通にうまい』
『人狼様は料理がお上手ですね!』
「うへへ、照れるぅ」
『笑い方気持ち悪っ』
「ぶん殴るよ」
余計なことを言ったシルクへの罰で、シルクの箸から唐揚げを奪い取り、口の中に入れて咀嚼した。
あっ!とシルクが悲鳴をあげて、モクはシルクをどついている。
『俺の弁当!』
「魔力籠ってない奴だしいーじゃん!バカシルク!」
『人狼様からの愛情がこもってますよー』
「んなの全てに込めてるに決まってんでしょ!」
喧嘩してるのか仲良くしているのか解らないくらいわちゃわちゃしていると、夕告げ鳥が飛び回る時間になった。
ちょうどそのときは僕らが弁当を食べ終わった頃だったから、さっさと片付けて、また印の練習をし始めた。
どうやらこの二人、そろそろテストがあるようで、テストの苦労はよくわかるから、今日の散策はなしにした。
シルクとモクに原始魔法を教えてもらう。
「原始魔法覚えたら、錬金術上達するかなぁ」
『日用品程度なら高速錬金できると思いますよ』
『人間に伝わってない奴だからなー、錬金術も大分前からあるし行けるんじゃね?』
そんな会話をしながら、僕は錬金術のための古代語の練習、魔方陣の書き取りをした。
久し振りでかなり苦労したけど、モクにちょいちょいサポートをして貰い、帰る頃には勘が取り戻せた。
シルクは風の印を練習していたけど、流石は風の聖霊様。さらっと使いこなせていた。
モクもモクで、筆記テスト用の復習をしたりなど、各々協力したり雑談したりしながらも確実に知識をつけていった。
<クケァー!クケァー!>
「あー、夜告げ鳥が鳴いちゃった」
『じゃぁ人狼、気を付けて帰れよー。』
『人狼様、気を付けてくださいねー』
はぁい、と返事して、おじーちゃんと僕のお家に帰ろうと花畑を歩いていく。
人狼様、人狼と、声がかけられた。
『『また明日!』』
モクとシルクが笑って手を挙げた。
僕はうん!と頷いて、頂上の優しい明かりに向かって走っていく。
空には満天の星、ぽっかりと大きな満月が浮かんでいた。




