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神山生活一週間目
「おはよーございますおじーちゃんっ!」
「おはよう、朝ご飯出来てるよ」
一週間も暮らせば遠慮など露ほどもなくなり、さっさと自分の席に座って、いただきますと手を合わせる。
おじーちゃんが手を会わせたのを確認して、スプーンで優しい匂いのするコンポタらしきもの(尚、材料が自力でとれるはずもない)をパクつく。たまに庭に現れるケンタウロスかミノタウロス(雌、乳牛扱い)のミルクにA級モンスターハニービーの蜂蜜を入れて、啜る。
なんともはや、絶品だ。
「はあぁ……ハニービーの蜜とミルク、しかも絞りたては本当に絶品ですねぇ……!」
「エル君の初めての獲物だからね、喜びも美味しさもひとしおだろう」
頬にてを当てて悶えると、おじーちゃんは微笑ましげににこにこと笑う。
……そう、実はこのハニービー、散策の間に偶然とれたものですはい。
仲良くなった魔物達とお喋りしながら目的も持たず(持っててもどうせ迷う)さ迷っていると、ハニービーの巣に出逢った。
目と目があった瞬間、僕は悟った。
……獲ったら美味い、と。
そのあとはもう怒濤だった。偶然一緒にいたのが僕のはっちゃけ具合を孫をみるかのように見てくれるじいさんばあさんばかりだったので、さくっと雑魚共(外に出てる働き蜂)の攻撃を沈めたり雑魚共を殺ってしまったりを周りの方達にやって貰ってる間、僕が巣の中を練金で地獄絵図に変えるだけ。
そして周りの方々は総じて甘いものが得意ではないので、僕が全部貰っても良いことに!
だから、僕は今日あるものを持ってきた。
ハニービー茶だ。ハニービーの巣で作った。ほんのり苦味はあるものの、ちょっと元気が出る奴だ。子供でも美味しく飲めたし、多分ばあさん方も喜んでくれると思う。
洗い物を済ませた僕は、意気揚々と樹海に潜り込む。
この樹海、実はポイントポイントに魔方陣が刻まれており、腕輪を持っている僕がそのポイントに行くまでに迷うことはない。
下山は生憎出来ないけど……まぁあのおじーちゃんが今よりちょっと若いとき(尚、その頃にはこの樹海に捕らわれている)に刻んだやつだし、刻まれてなくて当然だが。
で、そのポイントのひとつである、年中色とりどりの花が咲き誇るらしい花畑にやって来た。
そこだけ淡く優しく木漏れ日が差し込み、木漏れ日の精霊(風や炎のように強力でもレアでもない。綺麗な光のところに集まると呼ばれる光の聖霊の眷族)がはらはらと老木から落ちる枯れ葉のように待っている。
その花畑の中央には切り株があり、僕はすとんとその上に座った。
ここが僕専用の特等席であり、魔方陣が刻まれている場所である。
ハニービー茶を飲み、ほうと一息ついていると、今日も騒がしい闖入者共が僕のティータイムを邪魔してきた。
『ダーカーラー!先生はその術式じゃ発動しないっていったじゃん!ほんっとシルクはバカだね!』
『うっせー!大体なんだよ!あの人間だか人狼だかわかんないやつに勝手につけられた名前で呼び合って……プライドねーのかよ!』
『人狼様は私達より高位の魔獣だし、人間の方の人狼様も良い方じゃない!』
口喧嘩をしながらも二日前悪ふざけで立てた、花畑・入り口ここ!
という看板から律儀に入ってきたのは、風の聖霊くんと、木の聖霊ちゃん。
木の聖霊ちゃんは僕達人狼が聖霊より少しだけ高位なのを気遣って常に一歩後ろを歩く感じの優等生ちゃんで、淡い緑色の目に、金よりも黄色が近い、大きな瞳をして入る。
垂れ目で、穏和で優しそう。に見えるが、割りと幼なじみである風の聖霊君には厳しい。
風の聖霊君は、僕達人狼の位の事は分かっているけれど、遥かに年下な僕の言うことは聞きたくないというプライドの高い聖霊君だ。
白銀の髪と目をして、分かりやすいつり目。
元気っ子と言った印象であろうか。
二人とも見た目は僕より少し年上に見える程度なのだが、実は物凄い長生きらしいのだ。
しかも聖霊というのは代替わりするもので、二人ともその力を認められて(歴代聖霊の中では)かなり幼いのにもう立派に"聖霊様 "をやっているらしい。ハイスペックかよ……




