31
おじーちゃんの家にお邪魔して五日目。
風邪はもう完全回復し、おじーちゃんが結界張ってる範囲内では走り回ったり出来るようになった。
だから僕は、今日こそおじーちゃんに散策に連れてって貰うことにした。
おじーちゃんの特殊能力は、家に帰れるだからね!適当に山の中を散策しても、僕は家に戻れるのさ!
探検と言うには二度といけないかもだし、散策と言った方が正しいかもしれない。
ちなみにご飯とかは散策先で見つけたのを調達してるらしいよ!……肉があるってことは、狩ったんだろうね。もう僕驚かないよ。
……てことで、おじーちゃんに直談判
「散策に連れてってください!おじーちゃん!」
「またいきなりだね、エルベルト君」
朝食(しゃきしゃきしたレタス擬きとトマト擬きに、多分パンとライチっぽい果実。美味しそうだけど色が前世と違う)を食べ終わり、庭の湧き水(昔高名な術士が張った方向感覚維持する結界が大きく張り巡らされているらしい。
実は神の像の周辺に張ってたらしいが、壊れてたからその材料を使って柵作って自分の家を中央にたてたらしい。何してんだ)で洗い物をした後、机を叩いて主張した。
昨日までは風邪とかで寝込んで大変だったから、散策に出てみたい。
収穫の手伝いになればいいし、それもダメなら荷物運びが出来る。伊達に人狼やってない。
意気揚々とふんすふんすしてる僕を見て、おじーちゃんは仕方無いと微笑んだ。
「エルベルト君、なら、このお守りをもっておくように」
そう言って、深紅の石がついたものものしい腕輪をくれた。
深紅の石以外には、濡れ羽色の縁取りとかとにかく黒く大きくごてごてしてる。
何これ~と思いながら両手でその腕輪を受けとると……
ぶおん……
「わあっ。何これ!」
デジタル音?かなにか、重低音を響かせながら腕輪が黒い煙を放って消える。
チクリとした右手首を見ると、互いを食べ続ける蛇の紋様……つまりウロボロスの紋様が、僕の右手首をぐるりと囲っていた。
全体的に黒いのに、目の部分だけ紅いのは如何なものかと思う。
僕の手首に刺青のように施されたその紋様はかなり不気味だ。
「おぉ、こうしたらなくさないなぁ」
「この謎現象について説明オナシャス!」
ほのぼの笑うおじーちゃんにちょっとイラッとしながら怒鳴る。かなり失礼な態度だと思うけどこっちも突然エルベルトは呪われた状態になって驚いているんだ。
しかも曲がりなりにも一応神父ポジだったので自分で解決できないことに絶望を感じているから説明の行く納得を頼む。
「なぁに、その腕輪は導きの力を持っていてな、お前さんが行きたいと思えば何処にでも行くことが出来る。」
「ほんとですか!」
「嘘だ☆そんなのがあれば下山に使っとる☆」
「ハイデスヨネー。期待して損した~。」
全く表情を変えずに嘘をさらりとつくじじ……おじーちゃんにイラつきを通り越して尊敬を感じた。
「まぁ、その腕輪にはそういう伝承もあるだけで、実際は魔法陣を刻んだものと、同じ腕輪を持つものの位置がわかる、という能力を持つ。
ここには魔法陣を刻んどるでな、もし迷子になったり一人で散策したいと思っても帰るときは帰れるだろう」
「なんて便利機能……!」
じゃあ早速いってきます!といって外に出ようとすると、おじーちゃんがあぁただ、と言う。
ピタリとその場で動きを止めて、はい、と返事をすると、
「音神には気を付けるように」
「音神……豊穣の神オブライエンの第三子フェリアの事でしょうか?」
持っているこの世界の神様知識を動員し、検討をつけた。
おじーちゃんは人の良さそうな笑顔でコクりと頷いた。
「音神に魅入られてしまったら、二度と戻れない。気を付けるように」
「……そりゃ困ります。気を付けます……」
やっぱり神様は良くも悪くも神様なんだなと思う逸話である。平凡顔で神隠しとかなんのイベントも起きないよドチクショー!
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
さて、外に出たは良いものの、やることない。
いやまぁ気ままに散策するのもいいかと雨上がりの道なき道を歩いていく。
五日前に来たときとは、やはり見る視点が違うと景色も違うのだなと感じた。
あの日あれほど不気味に思った針葉樹は、真っ直ぐ真っ直ぐ微かに見える青空に向かって延びていて格好いい。
聞いたことの無い鳥の鳴き声や、見たことの無い兎の姿が度々見られ、足に絡まる長い草さえも生命の象徴のようだ。
荘厳な風景、まるで生きる世界を閉じ込めたかのような風景に心が踊った。
本能の赴くままたくさんの場所を渡り歩いた。生えている植物の中には僕が食べれると知っているものもあったから、慎重に摘み取った。
ここには善良な魔物も多いらしく、一番危険なのはドングリの帽子部分を被っていて、ぽんっと軽い音をたてて爆発するドングリを渡してくる栗鼠だった。
ちょっと火傷した。おじーちゃんに文句いったら生暖かい目で見られた。
魔物も善良かそうでないかで分けられる。
善良な魔物は出てきてもみんな可愛いねぇとかほのぼのしながら放っておいたり普通の動物と同じ扱いをする。
……しかし、悪質な魔物だと、人を酷く痛め付けたり攻撃することもあるので放ってはおけない。
つまり、僕ら(餌)の番になる。
まー悪質な魔物とかほぼ出ず、善良な魔物は近所の人に可愛がられるから特に問題は基本無い。
後善良な魔物にもレア度というものがあって、珍しい物は一国一城築けるほどの価値がある。
そのなかでも、人間の形をした魔物は最高位には入る。
有名なのは狐族、狸族、雪女族、神族だ。
力のランクとかはあんまり無い。
僕ら人狼も物凄く価値のあるレア種族で、市場に出回っている確率はどの種族よりもひくいだろう。
まぁ、人狼は悪質な魔物な上狂ってるからなぁ。
集団で生活もしないし互いに殺し合いが多発してるからだろうけどなぁ。僕も多少戦闘狂ではあるし。気持ちはわかる。でも理性あるからやんない。
……で、この樹海、レア種族めっちゃ多い。
ゲームで言うところのトリプルSクラスの風の聖霊や木の聖霊がいた瞬間は三度見した。
きれいに三度見した。
そんなんだから、一応人狼の体になっているんだが、こっちもこっちで三度見、五度見された。
きれいに決まってた。
目と目があった瞬間の気まずい沈黙、そして僅かばかりのあ、ども……的な会釈は忘れられない。
なんかあったなぁ。これ……満員電車でケツ触られて痴漢!?って思ってみたらわざとじゃないけどやっちまったと思ってる人相手で謝るのも恥ずかしいし文句言うのも大人気ないから取り敢えず会釈するアレ。
あと教室とかで朝早く来て誰もいないぜぇー!って叫びながら箒でエアギターしてるのを特段仲良くない人に見られ、模範生演じてたのが崩れた挙げ句互いにとても気まずい沈黙が降り立ったあの瞬間とか。
そう言うのを羽生えたライオンとか馬とか処女好きで有名な一角獣さんとやったことある人間、多分この世界で僕だけだと思う。
幼い人狼は珍しいからねしかたない。
ただひたすらに気まずいというだけで。
それ以外は特になにもなく平和に一日が終わりました まる




