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暗く、暗く、黒く、黒く、汚く、悲しく、
穢れていく。淀んで行く。
僕の好きだったあの瞳が。
僕の嫌いなあの顔が。
淀んで壊れて切って割って首を絞めて飛ばしてさして殴って押し潰して突き落として、僕の嫌いな君を殺した。
殺して、壊して、君を捨ててはじめてわかった。
君が居なければ生きていけないのだと。
例え嫌いでも不愉快でも、隣に居なければ落ち着かないと。
だから、僕はもう一度君を捕まえた。
笑わなくなって、泣かなくなって、悲しまなくなって、怒ることもなくなって、それでも小さく息する君を。
人形のような君を壊してしまいたいよ。
笑わない君を殺してしまいたいよ。
泣かない君を捨ててしまいたいよ。
でも、君が生きているだけで、僕は
誰もいない部屋に首の輪が一つ、二つと増えていく。
あぁ、ねぇ……。僕を恨んでいるのかい?
恨んでいるのなら、早く現れて、君の手で、
……君の言葉で。
僕を地獄へ、堕としてよ……
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「あ、やっと目覚めた」
目を覚ますと、目の前に少女のかおがあった。
無表情に見えるのだが、なんと無く、少女が安心していることが伝わってきた。
……なんだろうか、この子は?
赤黒く旧い血のようなボサボサの髪と、特別大きくも小さくもない髪と同色の瞳。
髪色以外は平凡な、民衆に紛れたら分からないくらいの特徴のない姿をしていた。
頬の丸さから見てみたら、恐らくかなり低い年齢の子供であろう。
こんなに幼い子が、この自殺の名所として有名なアスラに何用だろうか。
服も髪もびしょ濡れで、少女はかなり寒そうだ。
あ、ほら。くしゃみをした。
「へぇっぶしょん!……うぅ……貴方、こんなところになにか御用ですか……」
それはこっちが聞きたいんだけど……
取りあえず、シャツで鼻を拭くのはやめようね
元気そう……と言うか、別に生に絶望しているわけではないらしい少女の頭を一撫でして、横抱きにした。
手を小さく握ると、かなり体温が冷えている。
少女は抱えられたあとしばらく抵抗していたが、力尽きたのかくたっと胸に寄りかかってきた。
羽織っていたマントでぐるぐる巻きにしてやると、暖かかったからか眠りの波に落ちていった。
空を見上げると、小さな雨がまだしとしとと降り続いている。
手を翳して空を覆うように広げると、さらに雨は降り注いだ。少女と己を隠すようにして。
ざぁざぁとこの前見たバケツがひっくり返ったしたに居るみたいな雨が降り続くなか、
小さく、雨に織り込まれた一本の異色の糸のように、誰かを呼ぶ迷子の声が聞こえてきた。
今回短いのは仕様です。(多分)
良かったねエルちゃん!でも君が馬鹿なことして皺寄せ食らうのはいつも周りの人だよ!そらそろ自重を買い戻してこようね(させてる奴が何いってんだ)!




