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「僕はね、もう拾ってくるなとは言わないよ?
人狼然りそのこ然り、困っている子を見たり君が気に入った子がいれば拾ってくるんだろうな~とは、予想つくから。」
「それかなり失礼じゃない?」
「遠慮する必要を十文字で答えて?」
「ありませんすみません」
固い大理石の床に正座させられている僕と、その前に仁王立ちになるエメリー。
相変わらず底のよめない笑顔で僕を叱っているが、その言動から明らかに切れていることが解る。
余りの物言いに文句をいうが、笑ってない目と呆れたような声に負け、丁度十文字で答える。
なんだこのショタは……怖いぞ。
明らかに後ろから迸る威圧感に恐怖しかかんじない。
「あうう……エメリーさん足がしびれてきましたよぉ……」
どうやらこの体、正座慣れしていないらしい(してても困惑するけど)。十分くらいでピリピリしてきた。
今なにか起きてもたった瞬間転んで悶絶する気配しかしない……(ふらぐ)
「もぞもぞしない!もー、足は崩していいから」
「誰かーっ!ジョアンナが森の方に行ったぞ!」
えっ嘘!?と反応するエメリー。僕は別の意味で嘘!?と驚きたいよ……フラグ回収が秒速なんだけど。何時の間に僕のフラグ回収能力がレベルMAXになったの?
エメリーは一目散に声が聞こえた、表扉から外の畑らしき場所に駆け出していく。市街地とは真反対だ。
ここでちょっと孤児院の立地お浚いだ。
この孤児院は、山の中腹くらいにたっている。
エストニア領唯一の名物、神なる山アスラ。
ここは頂上に願いを全て叶える神様がいるとされる。
その中腹に住む僕達は神子と呼ばれ、全てにおいて優遇される存在だ。
でも逆に、神子には、悪神キャドバリーが使わした使徒(つまり魔物ね)を身をもって静めると言う役目がある。
それは表向き、神聖な神子である僕達の不思議な力を使ったとされるが、実際は餌にされているだけ。
そして、ジョアンナがいった森の方は、周りから御神木と呼ばれ有り難がられているでっかい木の近くにある、謎のドス黒オーラが溢れているきったない畑の右隣の柵が壊れているから、そこを越えれば行ける、僕達神子も立入禁止の、
"本物の神"の領域である。
「ううう……。エメリー、ジョアンナに頂上に居る神について、何て教えた?」
「えっ。エルが何で知ってるの!?」
「二歳くらいに、古代語で神の話を語ると言う時間があってな……。ライトが話していた古代語と情報を擦り合わせたまでだ……」
因みに今僕は床に突っ伏して足を伸ばしてるよ!何て間抜けな状態なんだろ。最初から一歩も動いてないよ!
あとエメリー、古代語まで……とか戦慄しなくておけよ!前世の記憶を思い出したときにその三歳までの記憶が情報として正確に残ってるだけだから!
そんで昨日のうちにライトに単語単語全部教えて貰っただけだから!
あと事情についてはおじさまに教えて貰っただけだから!
だが勿論沈黙を守る。鉄面皮+スチームパンク衣装で重々しく頷いておく。
よいしょっと声を出して立ち上がるが、ピリッと走ったしびれにフラリとよろめく。
尚エメリーはすでに駆け出している模様。
僕はぽてぽてと走っていった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ある程度痺れが消えてきたので、普通に走ってきったない畑と雑草まみれの御神木まで行ってみたはいいものの……
「フローラねえさま!テイクにいさま!ウーゴにいさま!レスター!アル!……とその他!」
余りにも集まった人たちが多すぎて、その他で纏めてしまう。
纏められた勢はショック!!とでも言いたげな顔をする。
多分この孤児院全員が集まっているであろう密集具合。
僕がここに来たので、孤児院の子達は最後なようだ。
セドリックも来ているのが驚きだな。
「エルちゃん!エルちゃんも来たの?」
「はい。ジョアンナがここに入ったって聞いて」
「エル……どうしよジョアンナが」
「アル、心配なのはわかるが森に入るな」
方向感覚を狂わされるぞと言いながら、アルを制止する。
その言葉を聞いてフローラねえさまが絶望的な顔になり、テイクにいさまが苦しそうに眉根を寄せた。
セドリックは心配そうにし、ライトは不安げに瞳を揺らす。
その状況を敢えて気にせず、アルを抱き締めた。
「えっ」
「まぁ!エルちゃん!?」
「フローラねえさま、声が嬉しそうなのは気にしませんよ?こんな状況でなにするんだって言いたいんですよね??ね??」
驚いたアルと、嬉しげなフローラねえさま。
僕はフローラねえさまにごり押しで黙らせる。
「……なぁ、アル~。」
「な、に?エル?」
僕は目をつむった。
「……アルだけは、心の片隅でもいいから心配してな~。」
とんっ、と。
アルを突き飛ばして、笑った。
笑って、一気に森の奥に突っ走った。
「っエル!!」
「エメリー!!止めろ!誰も森に入れさせるな!!」
振り返らずに、一気にそれだけ大声で伝える。
どんどん景色は暗くなっていく。奥の方に来ているようだ。
それでも未だ、アルの、迷子のような悲しい声が虚しく響いていた。
ぐじゅり、と言う濡れた草を思いきり踏む音が連続的に響き続ける。
冷えた空気が鼻につき、湿った匂いがしてくる。
周りの黒い木を見れば、太陽を通すまいとのっぽに立ち塞がっている。
大きくてつるつるとした嫌な木だ。
僕は走り続けた。
僕の最期の日と同じように




