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軍師様の悩み事!  作者: エスカルゴ
29/68

26

はてさて、彼は気が付くだろうか。

あぁ楽しみだ、楽しみだ。

早く、早く入ってこい。


「こ、ここは……?」


「やぁ、久し振りだね。……弟よ」


「姉さん!?」


おやまだ続けるのか。

このごっこ遊びを続けるのか。

気付くまで続けるのか。

まぁいいまぁいいまぁいいさ。

永久に続けるのか。

まぁいいさ。

気付くのなら、気付いたのなら。

あぁほらここまで


……堕ちてこい


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ぱちりと目が覚めた。

いつものような手を引かれるような目覚めじゃない。

本当にぱちりと、何かを察した獣のように一気に眠りと言う真綿の快楽から、ふわふわとした酔いから覚めた。


突然の目覚めに、体が付いていかずゆっくりと体をおこした。

空を見ると、暖かな夕暮れが世界を染めていた。


あぁ、今日はステンドグラスが見られなかったな。


目を細めながら、まぁいいやと口元に弧を描いた。

布団から抜け出しながら、何故かずきずき痛む頭を押さえた。

……魔力切れ的なあれだろうか?

でも未だ行けると思ったんだがなぁ。


「さすがに終焉の兵器は早かったかなぁ」


ふぅ、と天井を見上げながら手の甲で頭を冷やしていると。

ゴゴゴ、と大きな地響きが聞こえ、いつの間にか居た部屋のなかが揺れた。

体の力が抜けていたらしく、べちゃりと顔から崩れ落ちたんだが痛い。


……何で地響きが?ってか多分今の発言が原因で地響きしてたよね?

……すっごく心当たりと嫌な予感がするんだが?

ずるずると這いずって窓枠の近くにいく。

力の入らない右手で窓枠に手をかけ、よっこいしょと起き上がる。


「おうまいごっと……僕のせいですか」


つい死んだような目をしてしまう。

無駄に大きな窓から見た巨大な森。大きいはずの針葉樹や広葉樹。

それがミニチュア模型に見えるほどの大きな大きな図体を見せるのは……


「いやいやいや帰っててよ!」


僕が召喚した、ツァリア・ガルシアだった。


<ギバ・ヌヤンタラ……ハサヌワク……マクライト>

「わっかんねぇ!」


つーか喋れたのかよ!?と大声で突っ込むと、今度は低く唸り始めた。

低いし怖いしでかい声だし意味わからんし何なんだ!

僕は空き家で見た分しか古代語出来ないんだよ!

いつの間にか入るようになった力で、ドン!と窓枠に足を掛ける。


「あーもうなんっなんだよお前!」

<ワク・ガルシア……>

「しゃ べ っ た !」


しかも分からないって言ったのを聞いたのかまさかの二単語!

でもエストニア語で宜しく!

……ってかこれで意志疎通しろって?解れって?

なんと言うイージーモード!


「ワク・ガルシア……僕の兵器ってことか?」

<ヴ>


こくりと頷くような仕草をした。その仕草でまた鳥が逃げていった。ごめんね鳥さん


「まさか、ツァリア・ガルシアって、"召喚した者の兵器"になるのか?」

<ヴ>


……まじかぁー……まじかぁー……

言って無かったけど古代兵器召喚って異端なんだよねぇ……!

まぁ、と言うかあまりよろしくはないけど召喚自体は異端じゃないんだ。

……従わせるのが異端なだけで。


<ヌヤンタラ……ムナルダ?>

「……知ってどうするつもりなんだよー。しかもヌヤンタラってなんだよー」


ムナルダは、本来名前と言う意味だ。疑問系がついたら名前を聞かれていると言うことになる。空き家で甲が興味を示していたのはこの古代語だからな。

皆でネタにしながらも覚えたのだ。


<ムナルダ?>

「イや、教えな」

<ムナルダ?>

「だから、教えな」

<ムナルダ?>

「だか」

<ムナルダ?>

「お前はRPGの村人かよ畜生!」


同じことを何度も言いやがって!

最近判明したのだが、どうやら僕は押しに弱いらしい。


「クソッ!……エルベルトだよ!」

<ムナルダ?>

「は?」


……まぁ、多少は予想していたのだが。

そりゃぁな。確かにお前の主人は僕だが、

"一番最初にお前を召喚したのは"、"エルベルトではない"のだ。


……いっただろう?古代語は空き家で覚えたと。

"ツァリア・ガルシア"

召喚に必要なその言葉を、僕は、残念ながら、もっとずっと前に唱えていたのだ。


もっと、


「……僕の」


ずっと


「名前は」


この人生に、


「……だ。」


たどり着く前に。


かっ……!と。

橙色の強い光が目の前を覆い、それに驚いた僕が腕で目を隠すと。

頭に鮮烈なイメージが浮かぶ。


二人の男女のイメージ。

二人とも此方に手を伸ばしている。

僕は、迷わず男の方の手を取った。


何故取ったか。その理由は……


「何っだこのイケメン!思わずても取るよ!」


僕が乙女だからだ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


またぶっ倒れていたらしく、目が覚めた頃にはもう夜だった。

地面で倒れたはずだが、きっちりと布団に寝かされていて、もぞりと動くとトレーが目に入った。

あぁ、レスターか。

そうしてわらったら、その時やっと後ろが暖かいのに気が付いた。

アルかな?とも思うが、今気がついたがアルは足元でお腹を出して寝ている。お前なんだその寝相は。


……ってことは後ろは何なんだ?

と、後ろを振り返ると。


「……んん?」


僕と同い年くらいの超儚げ美少年ショタが、真っ裸で眠っていた。

……誰だよこの王子様。ってか何処の王子様だよ。僕知らないよ何もイベント起こしてないよ僕。

何処に恋愛フラグたてたっけ。

と言うか誰これ?僕余りにも変態過ぎてショタ拐ってきたの?何処に落ちたんだ僕の自重。

帰ってこい僕の自重。


「えっちょ誰これ。何このハニーフェイス麗しい」

「んん……」

「起きた!ご都合展開!」

「ん~。エルうるさぁい」

「ごめんねアル!」

「ゆるすぅ~」

「ありがとう!」


信じられるか?これ寝言なんだぜ?

と言うか会話が長い。長いのに未だこのハニーフェイスの麗し王子様起きてない。

なんなんだよ。


「……ヌヤンタラ……」

「は?」


アルの方を向いて話していたら、あれっさっき聞いたなその言葉。と言うのが、淡く澄んだショタの声で聞こえてきた。

思わずぱっとショタの方を見ると、ショタがクリーム色の髪の毛と長い睫毛を揺らして、大きな瞳を嬉しげに少しだけ細めた。


だから麗しいんだよいちいち。


「ヌヤンタラ!」

「うわっ!なんかなつかれた!」


ガバッと細腕で抱き付かれた。

フワッと、山と自然の匂いが弾ける。

何で会う人会う人いい匂いばっかなの……僕が喜んで自重を捨てちゃうでしょ……


「……ってか、古代語?

……まさか」


いやごめんね。あってなかったらごめんね……

でも僕、フラグ立てまくった気配しかしないんだ……!


「ツァリア・ガルシア……!」

「ギバ!エルベルト・ガルシア!」


ぷるぷる首をふるツァリア・ガルシア。

ギバは違うと言う意味なのだが、それで安心した僕が悪かった。


"エルベルト・ガルシア"

つまり、エルベルトの兵器……僕の兵器ってことだ。

そして僕は、ツァリア・ガルシアがそういう事を僕に言う理由を知っている。


「……エルベルトの、兵器?」

「ヴ。エルベルトの兵器!」


エストニア語!?と驚いたが、ツァリア・ガルシアのハニーフェイスに全て忘れ去りました。

取り敢えずツァリア・ガルシアに色々教えてみようと思う。

だって、可愛いショタを自分好みに育成出来るとか、最高じゃないか!?

少なくとも僕は最高だと思う。だからやる。


「これは、布団」

「これは布団?」


ツァリア・ガルシアが布団を指差し首をかしげる。

成る程、そうなるのか。

微笑ましく感じながら、僕は自分で着てる服を摘まんだ。


「これは、服」

「……!ヴ……服。布団。」


間違いに気が付き、羞恥に頬を染めるツァリア・ガルシア。

そんな調子で、色々なものを教えていると……


翌朝


「で、僕は、エルベルトだよ。君はライト

わかった?」

「ヴ……違う、はい。私は、ライト。あなたは、エルベルト」


「お早うエル……誰?」

「あ、やっぱそう思う?ライト、自己紹介」


一晩中言葉を教えてました。

ショタコンでごめんね!頑張った甲斐あってか日常会話はもう問題ないよ!内緒で外出て色々教えたからね!


ライトは適当にとって来たシャツとわざわざ布地から作った(尚、錬金術)黒いズボンを履いている。

こんな可愛い子がノーパンとかいけない妄想……何でもないよ?


「はい。私はライトです。元々は、終焉の兵器と呼ばれて……ました?エルベルトの兵器として、呼ばれました。」


あせあせと語るライト。僕、専属世話係君の感情が透けて見える気がするよ。

その死んだ目と言うか諦めたような目の奥、絶対説明求むって言ってるよ僕解るよ!


「えっとねー、エメリーとフローラねえさまには内緒だけどね?」

「あ。ごめんエル。」


突然謝られた。

は?と言うと、アルは扉の方をスッと指差す。

はてなを頭に浮かべながら扉をみやると……


「あらあら、エルちゃんったら、そんなおもしろ……大事なことを内緒になんて」

「あはは、詳しく説明してね?エル」


口は笑ってるのに目が笑ってないエメリーと、わくわくすっぞと顔に書いてあるようなフローラねえさまが立っていた。


僕は、多少涙目になった。


「はい……報告させてください……」


踏んだり蹴ったりだ……と呟いてライトが踏んだり蹴ったりとはなんですか?と言い出し、空気が凍ったことなど言うまでもないだろう。

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