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「あら、エルベルトちゃんお早う!
今日はいつもより眠れたのかしら?」
「お早う御座います!ふろーらねえさま!
ぼくはひさしぶりにはなせてとてもまんぞくなのですよ!」
「あら、まぁ……」
「お早うエルベルト。ほほぉつまり俺とは話さなくてもいいと?」
「被害妄想なんじゃないすか?テイクにいさま」
「お前可愛い子ぶるならもうちょい気合い入れようぜ……?」
満更でもなさそうに頬を染めるフローラねえさまと、対照的にがっかりしたような呆れたようなテイクにいさま。
多少悪戯心でいったであろうテイクにいさまの言及を、死んだような冷たい目で得意の毒舌で切り捨てた。
僕は猫口になって、フローラねえさまの細腕にキュウと抱きつき、猫のようなぽやんとした半目になって、甘えた声で上目遣いの上に猫のようにすりすりと腕にすり寄って見せた。
「かわいこぶるなんて……なんのことですかぁ?
ね?ふろーらねえさま!にゃあっ!」
「そうねぇ私はエルベルトの可愛い所しか見たことないわよー?」
僕の後ろ髪を掻くように撫で、耳の裏をすりすりと撫でられた。
尚、蕩けたような顔で抱き締められるというオプション付~!
僕は自分に向けられる好意とかはよく分かんないけど、人の恋心とかを煽るのは好きなんだ。
寧ろ、趣味とすら言えるだろう!
「あっ!ちょっとフローラ!今エルベルトこっち見て鼻で嘲笑ったぞ!」
「えっなんのことですか?」
「っのやろー!」
「きゃああっ!ふろーらねえさま!」
煽りすぎたのか切れて怒鳴ったテイクにいさま。
フローラねえさまに悲鳴をあげて抱きつき、涙が浮かんだ瞳でうるうるしながらぷるぷる震えてフローラねえさまに上目遣いを発動させた。
ていくにいさまがいじめてきますぅ……と舌っ足らずに言いながら。
「テイク……あなた最低ね」
「フローラっ!ちょっとそいつ絶対わざとだから!今までと対応違いすぎるから!」
「因果応報自業自得。あざと可愛いは正義でしょう」
「めっちゃ流暢に喋るなこの野郎!」
眉を顰めてはいるが、またフローラねえさまに怒られては堪らないのかうううと唸りながらこっちを睨み付けるテイクにいさまを、煽ったり嘲笑したりしながら遊んでいると。
ぽん、と頭に少し大きな手が乗った。
陶器のように艶々とした白い手と、ふわふわの甘い匂いが鼻を擽った。
少し上側を見上げると、レスターの呆れた顔があった。
「レスター。……そうか朝食か」
「こいついまめっちゃ流暢に喋ったって!ねぇ!」
「そーだよエルベルト。あんなに急いできたのにもう忘れたの?頭の中に綿でも詰まってんの?」
さすがに綿は詰まってないなぁと何時もの鉄面皮が発動しながら頬を困ったようにかくと、本当に詰まってる訳無いでしょばっかじゃないの!と返された。
ぐにぃとほっぺをつねられ、痛いじゃないかと涙目になれば、目の前に今日の朝食が乗せられたトレーが、カチャリと音をたてながら差し出された。
乱雑なようでいて小さな音しかたてない出し方……こいつ、やるな!
「全く……ギリギリだったんだからね!早く席について食べなよね」
「おお、ありがとうレスター。レスターは食べないのか?」
「僕は食べ終わったよ」
そうかとだけ答えて、両手でトレーを受け取った。
少しよろよろしながらもカチャカチャ音をならし、ふと見えた柔らかで美しい金髪の猫っ毛のような癖毛を見付け、その大きな背中の隣に腰を下ろした。
スプーンを持ち掛けていたその手を固まらせ、胡乱気な顔で此方を見てくるのは、
「やぁ、二日ぶり?だなセドリック」
「……チッ」
舌打ちをされ、苛っと来たので隣に座るセドリックの手首手足と腹を無属性魔法、オリジナルの重力操作で動かせないようにし、光の粒子を集めた何時もの特殊強化武器を一瞬でセドリックの首筋に突き付けた。
「……なんのつもりだテメェ……」
「なんのつもりかな~?」
くすくすと笑うとそれにムカついたセドリックが食って掛かり、そこではじめて拘束されていることに気付き青褪めた。
よしよし、警戒心があるのは良いことだ。
「……いただきます?」
机の縁をちょっと握りながら不思議そうにそう挨拶したセドリック。
「ん、んっ……!……うん大正解だよ……!」
か わ い い
何だよいただきます?って!つーかそれ言う文化あったのか知らなかったよ!
顔を押さえながら大きく仰け反り悶絶する。
目付きの鋭い木漏れ日を閉じこめたような柔らかい目を獰猛に眇て、訝しげに見てきた。
僕はニッと笑い掛けて、いただきますと手を合わせて、スプーンを取った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
さて、教会の前。どうせならストレスに対処してやろうと声を掛けて教会に来た。
いつの間にかアルも隣に来ていて、危ないぞと忠告すればなら守ってね?の一点張りで決して引き下がろうとしない。
仕方無く危険がないところに隠れているよう声を掛けて、今、僕は神の像を背にし特殊強化武器を構えて、人狼化をしたセドリックと対峙していた。
セドリックはもうすでに先程の愛らしさは無くなり、今はもう、一匹の狩人の目をしている。
ぎらり、と紅に光るその瞳。
武器を構え直す。
カチリ
その音と共に、戦闘は始まる。
セドリックの動きは正直視認できないから、自分がたっていたところから一気に離れる。
横っ飛びのようりょうでかわせ身。
一気に壁に突っ込むが、止まっている暇は無いので一度横向きになり壁に足をかけ、勢いのままジャンプするように跳ね返る。
身体強化と人狼化の所以もあり、視認できないほどの速さでセドリックに突っ込む。
当然避けられるが、僕の狙いはそこではない。
「とりゃっ……と」
勢いのついた特殊強化武器でボロいカーペットを切り刻んだ。
奥から現れるのは。
「ふは。ちょっと卑怯だったかな?」
……ぼんやり光る、魔方陣。
「さぁ、出てこいデカブツ!
豊穣の神オブライエンよ!武と悪の神ディーキンよ!我の声に答えよ!」
ズズズズズズズ……
突然響いてくる巨大な地響き、教会が、地面が揺れる。
ぱらぱらと上から小石が降ってくる。
魔力が少しだけ持っていかれる感触がやっと分かった。
小粒一粒程度の魔力だけど。
嫌な予感がしたらしいセドリックが今までにない速さで迫ってくるが、赤いバリアに防がれた。
「目覚めよ世界!目覚めよ邪神!
我の名のもと、何があっても我を守ると誓い、そして従え!
我の声に答えよ!ツァリア・ガルシア!」
ツァリア・ガルシアとは古代の言葉で、終焉の兵器と言う。
赤色の血のような光と共にいかにも不気味な巨大な岩が僕の足元に現れ、教会の天井を壊し、空に浮かぶ。とても大きな……とは言えツァリア・ガルシアから見たらそんなに大きくはないのだろうけれど……赤黒い鎖と、上からは見えないけれど中央に橙色のマグマのようなコアがあり、錠がそこを守っている。
「さぁ、始めようか」
「お前はバカか?」
物凄く呆れた目で見られた。バーサーカーの癖に常識人とか、僕のツボに入るじゃ無いか。
胸キュンさせるのはやめろ萌え禿げるだろ!




