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「は……?」
ポカンとして此方をみる少年。
僕の造り出した頑丈な檻の中に閉じ込められた彼に笑いかけながらも、必死でどくどくと鳴り響く心臓と息切れを隠した。
あっ……ぶねえええええええええ!
一瞬隙を見せ、殺されかけた時の事を思い出して、今更ながらも冷や汗が零れ落ちる。
よかった!直前で錬金術のこと思い出してよかった!
そして成功してよかった!マジ奇跡!
剣は必要なくなったので光の粒子にして体内に吸収する。
神秘的なことが多すぎてこの程度じゃ驚かなくなったよ。
「はァ?剣が消えた?」
呆然とした声を出す少年。
魔法みたいなのを見たのは初めてなのか?
よく考えれば人狼化もなんか魔法っぽいのは無いもんなぁ。
バヂリ、と音をさせながら黒い雷が迸り、黒い靄と共に赤黒く光る刀身、絡み付く黒い蔓に黒曜石の逆十字に赤黒い宝石がついた、特殊強化武器のれいぴあの色違いが僕の手のなかに現れた。
コレは各々の得意魔法とは関係無く、魔力さえあれば使える"無属性魔法"……人狼化や主従契約はコレになる。……をちょっとだけ改良した魔法、その名はエフェクトだ。
アルと話せない期間とか暇になったらこういうのできるかなーとかいう適当感覚で魔力弄ってたら偶然出来た奴だ。
色違い武器はまぁ普通に色違いなだけである。
しかし、魔法を知らないバーサーカーを多少脅すと言うかこっちのが強いよ!とアピールするにはちょうど良いだろう。
僕はエフェクト(黒電)を未だに纏っている剣を、少年が捕まっている檻に振り下ろし、そのまま魔力自体で腕を覆う感覚(多分身体強化ってやつ)で、視認できない速さまで腕の速度をあげ、それに耐えられるように体にもさらっと身体強化をかけ、檻を柔らかななにかに練金する。
すると、瞬時に檻が砕け散った。
パリイイイン!
と硝子が砕けるような音をたてて、少年の体を抑えている手錠だけ残し、全てが消え去る。
地面に引き倒された少年の顎を、また特殊強化武器を鞭……長い奴じゃなくて、乗馬用の固くて短いやつ……で、くいっとあげた。
目を細めると、少年の瞳に、目を紅く紅く鮮やかに光らせた僕の顔が写る。
未だに微笑んでいるのだから、僕の表情筋も大概見事だな。
もーのすごくドSな笑顔で、僕はゆったりと禁術を唱えた。
「<隷属契約>……発動」
ギイイイイン!と大きな金属の擦れる音が一回し、目をつむれば目の前にある程度大きな器が現れた。
僕はいつの間にか大きなホースを持っていることに気がついた。
不思議に思ってホースの根本まで目で辿ると、壁かとおもっていた大きな白いものに、拙い字で"エルベルト"とかいてあるのが見えた。
器を調べてみると、壁のようなものと同じように、"せどりっく・ふぉん・まぎにす"……あの子の名前だろう。貴族だったの!?……と書いてあるのが見えた。
恐らくコレが魔力の器。茶髪なのに思ってたより大きいな。……髪色を偽っているのだろう。
僕がこんなお誂え向きな状況で、なにもしないわけがなく、
とりあえずその器に自分のホースを突っ込んで、魔力と言う水で満たしてみることにした。
ほんのりと赤黒く色付いた水が、血のように見える。
優しくほわりと光っている水に手を突っ込んでみたら、思ってたより冷たかった。
ホースで水を注いでいくと、ある程度のところで反発するように入らなくなったが、その抵抗を魔力の赴くままに壊してみる。
すぐに器は満タンになって、表面張力でどうにかなっている状態だ。
僕はぱっとホースを抜いて、意識的に目をつむる。
ふわりと血の臭いがして、僕の唇から勝手に声が漏れ出てきた。
<契約完了>
と。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「で、ひろってきちゃったんだぁ。へぇー」
「そーなんですよー、仕方ないんですよエメリーさぁん」
こめかみを押さえているエメリーは、僕の気のせいでもなんでもなくイライラしている。
眉間の皺が深くなり、口角が引き吊っている。
「アルナルドから、人狼に喧嘩売ったって聞いて心配してたら……!」
ふるふると震えた声で言われ、こめかみをグッと押さえている。
垂れた前髪の奥から、怒りを多分に含んだ瞳が見え、僕はびくぅっと肩を跳ねさせた。
「こっ……んのっ!
お馬鹿エルッ!」
エメリーなのに大声をだし、ごんっと頭を拳骨で殴られ、激痛が走る。
「こ、これ以上お馬鹿になったらどーすんのさ!」
「それ以上お馬鹿になっても寧ろ一周回っていいんじゃない!?」
頭をさすりながら抗議すると、ふんっと外方を向かれた。
後ろに控えさせたセドリックが少しビクッとする気配がした。
隷属契約の特色として、最初に交わした契約を絶対に破れないと言う特色がある。
僕は、セドリックにこう約束した。
"きっといつか僕が下克上したときに、美味しいもの食べさせて沢山戦って、その{金髪}を毎日慈しんで鋤いてあげるよ。沢山、甘やかしてあげる"
セドリックの様な子供が人狼になる過程まで、必ずセドリックのトラウマになることがあった筈だ。
多分、最初に会ったときの好戦的すぎる性格もきっと関係しているだろう。
だから、セドリックが不安になる隙も無いまま甘やかしてあげる。
きっと、ずっと。
代わりにセドリックにはひとつのことを約束させた。
"僕の孤児院の仲間には手を出さないでね?"
だから今、僕を殴ったエメリーを強者認定したのに襲い掛からない。
……ストレス解散法考えないとなぁ。
「ちょっと聞いてるの?エル!」
「ふいやっはぁ」
「聞いてないね!?」
どうやら返事を間違えたらしい。




