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軍師様の悩み事!  作者: エスカルゴ
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ちょっとR15表現ありかもです

とある市街地の路地裏にて、少年と少女が対峙していた。


少女の方は、ふさふさとした赤黒い尻尾が尻から生え、ピンとたった赤黒く獰猛な耳は、凶器に怯えたようにぺたんと反らしている。

剣を構えた少女……エルの瞳は獰猛な殺気とそれを覆うように理性が宿っている。

少年の方は、鋭い狼のような爪と手足を持ち、耳と尻尾はないものの人狼だとわかる。

瞳の奥には堪えきれないような強く物騒な狂気と禍々しく光る殺意の光。口から獣のように涎を垂らしている。


ジャリ、と足を一歩踏み出した。


それが合図かのように少年がエルに飛び掛かる。

獲物であるエルを殺すことしか考えていない単調な動き。


エルは当然のようにそれを受け流し、路地裏を、脚力を強化したまま弾丸のように飛び出す。


ドゥンッ!


勢いをつけすぎて噴水広場の壊れた噴水に躓き、派手に吹っ飛んだ。

目を見開き、暗雲が視界にはいる。

チラリと、雲に一点黒いてんが見えて、咄嗟に体を捻らせる。


ッガアアアアアン!


噴水がすごい音をたてて砕け散った。

噴水が合った筈の場所を確認すると、クレーターが出来、その中央でゆったりと起き上がる少年が見えた。


「っぶねえええ……」


くるんと体を捻り、猫のように軽やかに噴水広場の端のほうにおりたった。

剣をきちんと握っていることを確認し、またこちらに襲いかかってきた。


疾風でも起きたかのように瞬時にこちらにむかって爪を降り下ろす少年の脇を切りつける。


「っがら空き、だ!」


リーチが足りずに浅い傷をつけただけだが、一瞬意識を逸らす程度は出来た。


また脚力を強化して、追い込まれていた端の方からクレーターとなった噴水の跡地に降り立った。

体を酷使したことにより、どくんと重く早く跳ねる心臓。


少年の瞳はいつの間にか鮮血と同じ深紅になり、エルを捉えている。

息切れしていることを相手に悟らせないようにすることで精一杯なエルの背筋に冷や汗が伝う。


(こりゃあ、勝てねーなぁ)


練習ばかりで実戦などやった事がない。

貧弱な幼いからだ、成り立ての人狼化。

少年とは言え三、四歳年上らしき、しかも見た感じ人狼化に慣れている狂った人間に勝てるわけが無い。


けれど、まぁ


(アルが逃げる時間を稼ぐくらいなら)


その程度なら、行ける気がする。

その過程で出来るだけ倒すように意識していこう。

エルは、唇を歪めた。

邪悪な、悪魔のような笑みだった。


少年……セドルはごくりと対峙した少女の顔をみて生唾を飲み込んだ。


(イイ顔すんなァ。このガキ……♥)


最初は単純に興味からだった。

少し遊べば泣くか怒るか死ぬかして、なにか感情を見せると思っていたが、

今このガキが見せているのは、ただただ邪悪であり、禍々しい呪いか悪魔のような笑み。

瞳からも何の感情も読み取れず、そのへんの塵でもみるかのような無感動な旧い血の色が宝石のようにぼんやりと輝くだけだった。


冷たいそんな少女の瞳に、セドルの背筋は続々と沸き立ち、心臓が高く跳ねる。

頬は紅潮し、恍惚とした顔になる。


幼い頃から弱いからと虐められ、殴られ蹴られた。

何をやっても要領の悪いセドルは、人の二倍頑張っても人並みの半分しか出来なかった。

両親はセドルを疎み、四つの時にはもう既に娼館に売られていた。幼いセドルは、どうしておじさんやおばさんに求められるのかがわからず、痛いことを嫌って娼館の隅に蹲るようになった。


実験のつもりだったのだろう。

とある学者に買われ、セドルは人狼化の手順を必死でこなした。

捨てられたくない。棄てられたくない。

そう思い、学者の顔色を伺いながら、最後の手順をこなした。

セドルが六つの時だった。

それから三年、覚醒した瞬間学者の喉笛を引きちぎったセドルは、通したいことを暴力で通すようになった。


狂っているや、悪魔の子。三年ずっと言われ続けた。

……最初は、認めて貰いたかったんだ。

……いまは


「っはは!」


少女のからりとした太陽のような笑い声が、セドルの不愉快な回想を全て消し去った。


「いいねぇ。……狂ってんねぇ、お前」


さっきまでの塵でもみるかのような冷たい光を消し、少女は幼いなりに大きな瞳を狂喜に染めながらセドルを見た。


嬉しげに、まるで初恋の人に声を掛けられた乙女のように花が咲いたように笑う少女の顔を見て、セドルはさらに笑みを深めた。


(狂ってんのは、どっちの方だ?)


答えはでないまま、セドルは少女に襲い掛かった。


爪は弾き返され、牙は届く前にするりと逃げられる。蹴りは飛んで避けられ、ならばと空中にいる間に拳を叩き込もうとしてもまるでそれが当然のように避けられ届かない。


蹴りや拳のコンボも、当たらなければ意味はない。


笑顔を崩さぬ少女からは底無しの力が感じられ、まるで蝶がヒラヒラと舞い踊るように捕まらないし当たらない。


小さな体では体力の限界が来るはずなのに、それが何時かは解らない。

剣と爪で火花が飛び散り、少しでも油断したら命の危険が伴うような緊迫感のある戦いに、セドルの心臓は跳ね上がる。


……と。一瞬、

この何分か何十分か何時間か分からない戦いに終演の幕がおりる。


一瞬だけ隙を見せふらついた少女に、チャンスとばかりにセドルが襲い掛かった。ら。


ドォンッ!


轟音が轟き、セドルが固い檻のなかに閉じ込められた。

少女は愉しげに嘲笑って、檻のなかで拘束されて動けないセドルの首筋に白金の刃を突き付ける。


「僕のか・ちー♥」


首を跳ねられる。

そう思ったセドルが舌打ちをして目を瞑ると、少女の不思議そうな声が聞こえてきた。


「何?もう抵抗しないの?」


セドルは答えた。


「人を殺そうとすんのは、殺す覚悟がある奴だけだ」

「……ふぅん」


少女は何かを思案するように黙り込むと、セドルの首筋を薄く切って、剣を退けた。

セドルが驚いて目を開けると、悪ぅく嘲笑った少女が居た。


「じゃ、僕に殺されたとして、僕の下についてよ♥」



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