プロローグ
「はぁっ、はぁっ」
宵闇にとける森。世界に閉じ込められたかのような感覚を覚える蒸し暑い夏の風に晒され、森のなかをひた走る。
ガサガサと藪を掻き分け、息切れを起こし苦しい肺を整えずに、ただひたすら追いかけてくる化け物から逃げ続ける。
三日月のように歪んだ目元と口許。
ー彼は、
鋭すぎる勘
-夜になれば、
夏休みの夜、"秘密の空き家"にやって来た
-本性を表す
醜い人狼。
現世に甦った魔物。人狼を殺すための高速練金の術を練習するために、大昔の練金術士が作った別荘。
偶然それを見つけた僕らは、毎年夏休みにその家に遊びにいっていた。
それが、秘密の空き家の正体。
月を見上げると、血のように赤く赤く染まっている。
空き家で、僕が身に付けた能力……高速練金を狙い、あの人狼はやって来た。
何故かって?
人狼は、高速練金でしか殺せないからだ……!
運悪く石に躓いた。
ドサリと音を立て崩れ落ちるからだ、背後に、空に浮かび上がる三日月と同じ色をした目が見えて、死を覚悟した。
あの二人は、逃げられただろうか
僕が巻き込んだあの二人は。
どうか、どうか。
この素晴らしき腐った世界で、あの二人が笑えていますように
スローモーションのようにゆっくり降り下ろされる死神の鎌を見詰め、僕は微笑む。
迎えの足音を聞きながら、倒れたまま微動だにしない。
「お願い神様」
またチャンスがあるのなら、きっと守り通すから。
もう死なせたりなんてしないから
だから、お願い……
「○○○○を叶えて」
ドクン
大きく心臓が動いた。
驚きと激痛に目を見開いた目の裏に、
『言ったね?』
神様が笑っているような気がした