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「おはよ」
「おはよーエル。……不機嫌だねぇ」
朝起きて、隣にアルがいないことを確認してまた溜め息をはく。
隣に温もりがないのはごく久しぶりで、寂しいのかホッとしたのかが分からなくなる。
もうなんで溜め息をついたのかも解らないままさくっと着替えて食堂に向かった。
そこで、エメリーと鉢合わせし、さっきの挨拶になったのだ。
「そして愚痴らせろ」
「あらやだ唐突!……どうぞ」
何時もほのぼのとした笑顔をしているエメリーが、呆れたように勧めてくれる。
コクりと僕は一つ頷いて、
「なんっ!なんだ!よ!」
ダァンッ!と机を叩いた。
勿論何時も通り朝超早いのでまわりに人はいない。
「傲慢ってむずかしい(笑)言葉使った僕にも非はあるよ!そもそも子供相手に無表情で対応したのは間違ったなぁとも当然反省したよ!したけどさ!
あの対応は無くないか!?そもそもこっちは賢い代わりに人間関係には疎いんだからさ!
手ぇ抜けよその無表情を維持する表情筋!」
「表情筋って?」
「表情を作る筋肉だよ!!」
「分かった!」
思いっきり机に頭を打ち付けた。
一言二言で理解してくれるエメリーが有り難い。この子絶対僕より賢いよ。流石僕の側近。
打ち付け机に伏せた状態のまま項垂れると、エメリーの温かい手が僕の頭を撫でた。
子供体温と言う奴だろうか。落ち着いて、温かくて、体から力が抜けるようにふぅと息をついた。
日々の人狼としての鍛練や、特殊強化武器での戦闘、隠し武器や暗器を錬成しては投げたり振ったり。適当な素材を使っても適当な武器にしかならないから、教会等の聖なるものがまもる場所のなかには良い素材があるから実験や錬成、採集をしてみる。
それをしていれば日々は飛ぶように過ぎていき、朝早くから起きることも苦でないと思っていた。
思っていた、だけだった。
ゆったりと瞼が重くなる。
うとうとと凶暴な睡魔が襲ってきて、意識が遠のいていく。
エメリーの掠れたような淡く優しい声が、悪魔の囁きのように耳元を擽った。
「寝ちゃって良いよ……眠ってしまって。」
「……おやすみぃ……エメリー」
君の嫌なものは、全て排除しておくから。
その言葉は、僕の耳に確かに届いていたはずなのに。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
目を開けると、食堂の椅子の上で寝転んでいた。椅子といっても長椅子なので、ベッドの代わりになったようだ。
まわりがざわざわと騒がしく、薄暗いことから大分寝てしまったのだと理解した。
ゆったりと起き上がると、ベストは脱がされきっちりとしたカッターシャツのボタンも緩められている。
あくびを噛み殺しながらまわりを見回すと、ジョアンナちゃんが泣いていた。
まだぼんやりとする頭で、ジョアンナちゃんを、励ましていた人並みを掻き分け、座り込んだジョアンナちゃんの前にしゃがんだ。
「どうしたの?」
ゆったりと頭を撫でる。さらりと頭のラインに沿って手を下げていき、耳のラインに沿って親指を撫でた。
ジョアンナちゃんがきっと此方をにらむも、心が限界なようで弱々しくかえした。
「あ、アル、が……市街地に」
復興ができていない市街地にアルが行ったときいて、僕は眉根をしかめた。
まだあそこには魔物がいるかもしれないのに!
「大丈夫。僕に任せて」
にっと無理矢理笑って見せる。
ひきつるなんて真似、"トリックスター"が許すわけもない。
僕は一目散に孤児院の扉にむかって駆け出していった。




