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「いやぁ。なんかまたアルが不機嫌なんだけどどうしたらご機嫌が取れると思いますかエメリー君」
毎度恒例になってきた食堂でのエメリーお悩み相談室。
皆さんお気付きでしょうが僕には人間関係を円滑にする手腕と言うものが壊滅的に無いのだ。
そういえば弟にも結構嫌われてたっけ……おねーちゃんあれがツンデレだと信じてます。
トリックスターだったときも大胆不敵(笑)すぎて敵ばっか作ってたなぁ。
人に嫌われるのを怖がらないこの性格。
幼い頃は欠点だとも思わなかったけれど、成長するごとに少しずつ嫌いになっていった。
その頃には、出来なくても籠っていても色んな人に気にされる弟が羨ましく、そのカリスマに憧れ、それを欲するようになった。
僕の方が出来るよ。僕の方が優秀だし、僕の方がポーカーフェイスだって先にできたじゃないか!
でも、そんな事言えばもっと嫌われるって流石にわかったから、言えなかった。言わなかった。
周りの愛を欲するのを、大人な僕の幼いプライドが拒否していたんだ。
「……ねぇどうしたの?僕の太陽」
さらりとエメリーに頬を撫でられる。
数週間前、エメリーの太陽の正体が分かり、それ以降エメリーはたまにこんな風に触れてくるようになった。
僕の事を、太陽だと呼び、崇拝し、僕だけしか見えないような触れ方をするようになった。
思考の暗黒面に陥って居たことを漸く自覚し、ぱくぱくと味のしないご飯を掻き込む。
この異常に味のしないご飯も何時か何とかしたいなぁと思いながらも、僕は最近いつもエメリーに見せるようにからりと笑った。
「なんの事?……そんな事より聞いてよエメリー!」
もうっ!と頬を膨らませると、不本意そうにもエメリーはなぁに?と小首を傾げた。
アルが本格的に口利いてくれないんだけど~とか、ジョアンナが可愛すぎてどうにかなる!とか、フローラねえさまが会うたび妄想をぶちまけてくる!とか相談をする。
エメリーはすぐに切り替えて、僕の悩みに乗ってくれる。
と言ったってアルの話だけだが。
「次はねぇ」
「ウンウン」
「引いてだめなら押しまくれ!アルナルドを口説きまくろう!作戦だよ!考案者は何時も通りテイクにいさま、フローラねえさま、僕だよ!」
テイクにいさまあああああ!?
ぴしっと固まった僕の事を気にせず、エメリーはにこにこ笑顔を崩さずに作戦の解説をする。
引きすぎてツンツンされたから、今度は此方が押すターンだよ!から始まる話のまた長いこと長いこと。
余りにも長く続くので、食堂から人が捌けちゃったよ。
「それでねぇ」
「わかったわかった!つまりあれでしょ!?アルを全力で口説きまくろうって事でしょ!?」
長い長い話を遮り、要するにの結論を出す。
エメリーはコクりとにこにこ笑顔で頷いた。
流石フローラねえさま。すぐ恋愛フラグをたてようとするぅー。
でも、まぁ今回は。
「大丈夫、超得意!」
行ける気がしないでもない。(人間関係と僕の胃痛を考えなければ)
鼻唄を歌いながら席を立つと、悲しそうに笑って、エメリーは
「笑顔の方が、読みにくいなんてね。」
と呟いた。
僕は人差し指をハイテンションのままむにっとエメリーの柔らかく小さな唇に当て、にひひと笑って見せた。
「精進しろよー?僕の側近♥」
なぁんてね
テンションが上がっていくため、この衝動をアルにぶつける~!と叫びながら食堂の扉に突撃していった僕にはみえなかった。
唇を押さえたエメリーが、どんなかおをしているのか。
「敵わないなぁ……!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「や。僕の専属世話係君!またよろしくな?」
水浴びを終えたアルを待って、僕は声を掛ける。
しっとりと髪が水に濡れ、頬が紅潮したアルは色っぽい。
何時もこの時間帯になるとアルと、あともう一人、
「アル!水浴び上がったの!?ぐ、偶然ね!」
ジョアンナちゃんが来るのだ。
偶然と言いながらも毎日遭遇するのは寧ろ偶然なのか。確信犯じゃないか?
呆れたような乾いたような生温い笑顔を向けながら、ジョアンナちゃんが僕に気が付くまで待つ。
「……ってあれ!?な、何であんたが!」
「さっきから居たが?」
ジョアンナちゃんの視界に写った瞬間、表情に出ていた笑顔は自然と引っ込み、声も無機質で愛想のないものとなる。
自分の変化っぷりに自分でもビックリだよ。
「う、嘘!」
「はぁ。嘘をつく意味がどこにあるんだ?教えてほしいものだな。オネーサマ?」
ふん、となんの感情も写さない瞳でジョアンナちゃんを見る。
オネーサマとわざと呼んだのは、この程度に論破されて悔しくないか?今どんな気持ち?ねぇねぇ今どんな気持ち?と煽るためだ。
ジョアンナちゃんは真っ赤になっている。
ハァハァ可愛いよ良いよジョアンナちゃん!
ハァハァを顔に出さず、無表情で対応してみる。これだからジョアンナちゃん弄りは止められないんだ!
「何で、何であんたが今更!アルに飽きたんじゃ無いの!?」
「人間に飽きるか普通?そこまで傲慢じゃぁ無いんだがな」
「ゴウマン??むずかしい言葉使っても偉くないんだからね!」
キンキンと五月蝿いなぁ。
……しかし、傲慢は解らんかぁ。
エメリーと話してたらこんな、意味が通じないとか無かったからなぁ。
ううむ。と頭を掻いて悩んでみる。
「あー、傲慢ってのはね。あー……何て言うの?
わがままってこと」
「……うるさいっ!ちょっと賢くっても全然ちょっとしか……なんか相応しくないんだからね!」
「……もういい加減にしなよ」
冷たい声に、パッと明るくなるジョアンナちゃん、舌打ちをした僕が同時に振り向いた。
そこには、宝石のような目をした、アルの顔があった。
「なに?文句あんの?アル」
「アルっ!アルからも言ってあげてよ!」
アルは一回良いよどんで、
「……行こう。ジョアンナ」
ジョアンナの腕を引いていった。
僕は頭をボリボリ掻いて、はあ、と何十回目かの溜め息をついた。
「結構傷付くな、これ」




