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おはようございます皆さん。といったってまだ午前四時ですけど、良い朝ですねエルベルトです。
アルナルド?俺の隣で寝てるぜ……
ってちょっと待った!昨日はあんまりにも眠いから添い寝オーケーにしたけど普通良く考えなくてもダメだろ!なにやってんだ僕!
フローラねえさまとか相手だったからあんな態度とっても許されたけど、人間関係的にこいつと添い寝とか濃厚すぎる死亡フラグ!
おもにジョアンナ辺りが!
出来るだけ死亡フラグは回避したいんだけどねぇ……と頭を抱えていると、小さく愛らしい雀のチュンチュンという鳴き声が聞こえてきた。
まぁ、今から至らんこと考えてたも仕方がない!
ジョアンナたんに嫌がらせして困った顔を堪能しながら孤児ライフを楽しむのもよいではないか!
という相も変わらず役に立たない頭脳が役に立たない結論を出したためアルナルド世話係案件は放置することにしたよ!
……はぁ。
「教会にでもいくかなぁ」
寂れているとはいえ、教会らしい誰も寄せ付けないような雰囲気が気に入った。直す気は余り無いが甲斐甲斐しく世話でもするか。
あれだし。僕ほら、敬虔なる神の使徒だから。
ごそりと音をさせ、起き上がろうとしたら。
「……うわ」
思わず眉をしかめた。可愛い寝顔を晒しているアルナルドのお手ては僕の服の裾をきっちり掴んでいる。
ちょっとスベスベふにふにを堪能しながらもガチ目ではなせやこらとアルナルドの手を弄ってみるが、全然駄目だった。畜生め。
これは、起こすしかないか?
……でも起こしたらこいつ着いてきそうだしなぁ。
脳裏に浮かんだ考えは、不吉すぎたので打ち消した。
大丈夫大丈夫、落ち着け僕。こんな明らかなるツンドラ君がまさかそこまでストーカーっぽいことするわけないだろ!
自惚れるな、大丈夫お前は魔力だけは豊富なただの平凡顔の三歳児だぞ!
行ける行ける絶対行けるさぁそのショタを叩き起こすんだ!
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
……何てバカなことをしてしまったんだろう。
「着いてこないで下さいよ……」
「でも世話係だし。」
あの後起こしたのは良いものの、二階からでて階段を降りて教会への扉を開けるくらいまでずっとこの押し問答が続いているよ。
駄目だ。あれは何だ。所謂寝起きテンションと言う奴か。
大体こいつもなんなんだよ。穢れの無い瞳でお仕事全うしやがって。ツンドラの癖に真面目とか僕が萌え滾って 禿げるどころか頭皮まで持っていかれるだろうがアホか。
もう離れを歩き始めたところで多少諦め、アルナルドに一応忠告しておく。
「教会に入り浸るだけですよ?」
「別に良い。」
「……さいですか」
入り浸ると言う言い方もどうかとは思うが平然と返事するアルナルドもアルナルドだなぁ。
取り敢えずもう引く気が無いみたいなので放っておこうと長い渡り廊下を歩いていく。
今日は昨日よりも暖かく、寂れた風景も味があるように見えた。
軍隊を作るといったものの、どこから取り掛かるか。
奇襲系の部隊は必要だなぁ。子供だから奇襲で攻めるしかないし。
でも道を切り開く力も大事だ。地から天から集中攻撃して、そうだな、じゃぁ二つ作ろう。地上用部隊。
信長さま方式で槍か、普通に剣を使うか。
後ひとつはそうだな。僕も所属する部隊が良い。
でも僕の近距離って錬金術なんだよなぁ。
あ、でもあの空き家で人狼に成るための手段とか
「あ、あぶない」
ごんっ!
いつの間にか着いていたらしく、大きな扉におでこをぶつけた。
くわんくわんと頭のなかで耳鳴りが響いた。が、今はそんなことに頓着していられない。
「あーーーーーっ!」
人狼に成るための手段を、きっちりはっきり思い出したのだ。
あれは何年目かの空き家への訪問二日目……
「いよっしゃ!やっと開いた!」
「やったぁ!流石だね、○○の錬金術は!」
「次は書庫かしらぁ?すごいわ、○○ちゃん」
かちゃりとなったおとに思わずガッツポーズをした僕に、同年代の男の子……ここからは甲とする。がぱちぱちと嬉しげにてを叩く。
同年代の美少女……ここからは乙とする……はにこにこと祝福した。
本好きだった僕は、書庫に迷わず入り、目を引かれた一冊の赤表紙の本を手に取った。
……その本に、人狼に成るための手段が書かれていて、実験として僕はそれを実行したのだ。
回想終わり
「あの力が残っていればもしかしたら……」
ぶつぶつと顎をさわりながら呟きながら、重い扉を力を込めて開ける。
強化できるならさっさとしたい。
教会を見回し、誰もいないのを確認した後、僕は人狼化への最後の手順をすることを決めた。
「アルナルド。……秘密って、守れるタイプですか?」
……と、扉を閉めているアルナルドに質問をした。
ガチャン
扉がしまり、朝日だけがステンドグラスから差し込んだ。淡い光が僕の背後から徐々にアルナルドを照らし出す。
アルナルドは、なんの感情も窺えない宝石のような赤い瞳で、此方をまっすぐ見詰める。
目をそらしたら、駄目な気がする。
ほぼそういう直感で、アルナルドの目をそらさずにじっと見る。
アルナルドは一つコクりとうなずき、
「良いよ。まもってあげる」
と宣言した。
「信じますからね?」
最後の問だ。アルナルドは迷わずコクりとうなずき、その場に座る。
今からやることを見学するき満々だ。
僕は眉を顰めて邪魔しないで下さいよと声を投げて、その瞬間に、
がりぃっ!
自分の腕に勢い良く噛みついた。
ギリギリと強めていく顎の力。痛みにポロポロと涙が零れ、持続する激痛が僕の右腕を襲った。
どこか冷静に、あーこりゃ暫く使えないかもなぁとのんびり構えてみるが、やはり痛い。
フーッ、フーッ!
荒い息、獣のような息が僕の口から漏れ出た。
早く、早く肌よ切れろ。終わらせてくれ!
「……っく!フーッ!」
アルナルドの方を見れば、なんの感情も見えない瞳。
冷たそうなその瞳が、熱くなった怪我に心地良い。
……ふと、待ち望んだ瞬間が来た。
肌がプツリと切れ、血があふれでた。
僕は大急ぎでその血を嘗めとる。
なめとった血に、全力の魔力を込め、ゴクリと飲み干す。
ドグン
「……っぅ!?」
心臓がとても大きく跳ねて、つい膝をつく。
体に熱が登り、破裂しそうだ。
フルフルと震えて、てが思い通りに動かない。
理性のダムが決壊しそうになる。
あーこりゃ、確かにやらない方がいいわぁ。
人狼化は禁術であり、人狼化が出来るものは総じて迫害される。
赤色のくすんだ髪も、手の届く異端として迫害される。
迫害の2コンボだなぁとか思いながらやったが、なるほど確かに。
これ耐えれた奴アタマ可笑しいわぁ。
そして、その結論に達するのならば、脂汗ももちろん浮いているし苦しいが、覚醒まで耐えられる気がする僕も狂ってんのかぁと思えば可笑しくなる。
「ふ、ふはっ……くくっ」
笑いが漏れ、それで覚醒完了とでも言うようになんの違和感もなく狼の耳とふさふさの尻尾が僕から生えてくる。
格段に良くなる聴覚と運動神経に寧ろ感心した。
「……はぁ、はぁ……やる価値は、あった、か?」
手を見れば、固く鋭い爪が生えている。
ふぅ、と息を吐き出した。
ふんわりと、暖かいものが僕の手と爪に乗っかった。
隣を見ると、アルナルドが無表情で立っていた。
「……解除は?」
小さな声で聞いたらしくいつものみんなの声量で聞こえるアルナルドの声。
コクりとうなずき、違和感もなく人間に戻る。
人間に戻ったとたん、一旦収まっていた血がだらだらと出始めたのは困ったものなのだが。
顔を顰めると、アルナルドがどこから持ってきたのか包帯を巻いてくれた。
「ありがとう」
「世話係だし。……エル」
少し照れたように、アルナルドは僕の渾名を呼んだ。
この孤児院で一番会話しているのがアルナルドだからなのか、その呼び名も受け入れられた。
「ありがとね、助かるよ。アル」
笑いかける。アルは、拒否らずにただコクりと頷いた。
よっしゃ!あだ名呼びゲットだぜ!
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
多分、エルは知らないんだろう。
アルも気が付いていないけど。
アルが渾名を許しているのは、エルだけだと言うことに。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「あれ?二人とも、いつの間にそんなに仲良くなったの?」
女の子のような可愛いショタもといエメリーに僕とアルの仲を指摘された。
「別に仲良くは」
「もうめっちゃなかいいの!大親友!良いでしょ可愛いでしょ!?」
食堂のまぁ不味くはないご飯を食べながら僕はエメリーの指摘にノリノリで答える。
キャラが定まって無い?良いんだよ!
すると、食堂の中にざわめきが広がる。
「あのアルナルドが、なか良いことを否定しない……だと!?」
「エルベルトのコミュ力どうなってるんだ」
「爆発しろ」
僕寂しいとみんなに時限爆弾装置くっつけてそのまんま巻き込んで爆発しちゃうんだ!
……と、そのざわめきに指摘され、僕はやっと気がついた。
「あれっそういえば否定されてない!?
脈アリってこと!?」
「うるさいエル。面倒臭かっただけだよ」
人狼化後の謎ハイテンションで、アルに全力で絡んでみた。
ちなみに後日死ぬほど後悔した。
だから僕、いい加減キャラ崩壊やめろし……
やったねあだ名呼びゲットだぜ!




