2章 4
今日は週に一度の音楽の授業があった。
音楽と言っても、荘厳なクラシックとかではなく、ピコピコなる電子音のバンド音だった。ギターもベースもドラムも機械音だった。ボーカルすらも機械で歌われている。元は人の声だけど、歌手がどんどん機械の歌手になっていく。
機械なら音を外すこともないから良いらしい。あたしは昔の音楽をおじいちゃんに聴かせてもらったけど、その音程の不安定感も良いと思ったのに、今ではそんなことを言う人は少数だった。
そんな音楽を聴いて、感想を書かなければならなかった。迷いも無く「どこも良い部分がないです」と一言だけ書いた。後で何か言われても知らんぷりを決める予定でいる。
お昼休みまでの時間はやっぱり遠かった。
午前の授業で音楽があったのは良かったけど、他は情報だの、科学だのでやっぱり楽しくなかった。
情報や科学に比べれば、電子音でも音楽は楽しい授業だった。
零も前に話した時、今の社会に不満を持っていた。
でも零はそういうところは全然出さない。だけど、その話をした時、なんだかいつもは出さないような感情を出していた。
零はあたしとはまた違った感情があるんだろう。憂いているというよりも、悲しんでいるというか、なんだか複雑な感情が入り混じっているように見えた。
お昼休みの鐘の音が聞こえた。
零を誘いお昼を取ろうと零の席へと向かった。けれど、零の周りには女子が溜まっていた。
「零君、一緒にお昼取らない?」
「一緒にお昼を取る人がいるんだ」
零はきっぱりと答えた。
「それってあのダサい子?あんな子のどこが良いの?」
「そうよね。今時携帯とか使ってるし」
「いっつも零君の周りにいて。迷惑じゃない?」
零は表情を変えずに応じた。
「僕も携帯を使ってるよ」
零の言葉ははっきりとした嫌味だった。それでも女子達は引き下がらなかった。
「それだって零君のそばにいるためにやってるんでしょ?」
「そうそう、零君が携帯を使ってるから、自分も携帯にしてるだけじゃん」
「零君にあんな子は不釣り合いだよ」
零はニッコリとした表情と穏やかな声で言った。
「すまないけど、彼女の悪口を言うなら、もうこの場から去ってくれないかな。目障りだ」
女子達は零の言葉にたじろぎ、零の周りから去っていった。
零の表情にも声にも、穏やかさが宿っていたけど、奥底に秘めた、怒りを表面に湿らせるかのように出した。零の感情の高ぶりがそこにあった。
やがて、零があたしの姿に気付いた。
「ああ、蓮。一緒に屋上に行こうか?」
いつもの零だ。言葉の裏に真実を隠している零ではなかった。
「うん」
でも、なんであたしなんだろう。あの子達になくて、あたしにあるものってなんだろう。答えは見つからなかった。