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ゼロ ~心の在り処、涙を流す意味~  作者: 芦屋奏多
第2章
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2章 3

 教室までの廊下を那智と並んで歩いた。学校では仮想ゲームの世界やネットへの接続は禁止され接続出来ないようになっているため、友達と話して過ごす。

 メールや電話くらいなら出来るが、ネット世界にはアクセス出来ない。そして学校を一歩外に出れば、そういった世界に浸かる生徒がほとんどだ。あたしと零はその中では異常な方なのかもしれない。

 那智は仮想ゲーム世界やネットに多少は通じているが、あたしや零の前では見せない。あたし達が嫌っているのを知っているからだ。

 その上で一緒にいてくれる。零以外では、あたしにとって唯一の友達だ。

「蓮のお父さんとお母さんって科学者なんだよね」

 那智にあたしの家の詳しい事情を話したことはなかった。今聞かれた質問も零以外には話していなかった。

「うん。なんか凄い会社の結構なポジションにいるみたい」

 それは事実だった。だけど、あたし自身もお父さんとお母さんの職業の詳しい内容まではわかってなかった。

「そっかー。でも科学者だと今の時代大変じゃない?」

「そうみたい。なかなか帰ってこないし」

 那智は少し考えているみたいだ。

「私の家は自営業だから全然だよ。毎日家にいるし。それどころか私にも手伝わせるし。高校で忙しいっていうのにね」

 笑って答えた。

「でもバイト代とか貰えるんでしょ?」

「それが、一回やるとお小遣い三百円アップとかだよ。コンビニの方が時給高いよー」

 切々と語った言葉に嘘偽りはないように見えた。

「それは、大変そう」

 苦笑いをしながら言った。那智は全然気にしてないようだ。

「蓮は毎日絵で忙しそうだよね」

「学校でしか描けないから、毎日それだけが楽しみなんだ」

「それだけって…。私はー?」

 あたしは慌てて付け足した。

「あ、那智と一緒にいるのも楽しいよ」

 那智はイジワルそうに笑っていた。

「ふふっ、ありがと。またイジワルしちゃった」

「ホントだよ。もう」

 那智はこそこそと小声で話し掛けてきた。

「でも、本当は絵じゃなくて、零君といるのが楽しいんでしょ?」

 あたしは、顔が赤くなっていくのを感じた。

「なっ、そんなわけないでしょ」

「照れない照れない。顔赤くなってるよ」

 那智はさっさと教室に入っていってしまった。あたし…、そんなにわかりやすいんだろうか。

 教室の中に入ると零は先に着いていた。周りには数人の女子が群がっていた。

「蓮。おはよう」

 零は女子の輪から外れてこちらに向かってきた。

「あの子達と話してなくて良いの?」

 あたしは思わず口に出してしまった。

「ああ、なんか話し掛けられて。それより、今日も美術室行く?」

「どうしようかなー」

 ああ、あたしにも那智のイジワルが移っているようだ。那智のイジワルは伝染する。なんだか零にイジワルをしたくなってしまった。

「どうしたの?今日様様子が変だよ?」

「なんでもない」

 言い切ると自分の席へと向かった。零は何も悪くないのに。つい、さっきの女子達の声が気になってしまった。

 前からあったけど、最近更に増してきている。それを聞く度、憂鬱な気分になってしまう。

 零と付き合っているならまだしも、あたしと零は友達なんだ。どうにもその差は埋められない。

 周りに言われても否定も出来ない。零といるなら、そんなもどかしい気持ちをずっと抱えていかなくちゃいけないんだ。零の隣って大変だな。

 校内に始業の鐘が鳴り響いた。一時間目は情報だった。それもまた憂鬱にさせた。

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