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ゼロ ~心の在り処、涙を流す意味~  作者: 芦屋奏多
第6章
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6章 4

「お父……さん。なんで……?」

 あたしは、ふり絞った声で訊ねた。

「零君の身に、危険信号が入ったからだ」

「危険信号……?」

 お父さんは感情を失くしたように話した。

「零君には、危険が及ぶと自分自身でゼロ号研究所に連絡を入れるように言ってあった。また、突発的な事故の場合、一時間以上、連絡が取れなければ研究所の者が零君の元へと向かうようになっていた」

「お父さん……、零は……一体……?」

 お父さんは観念したかのように答えた。

「零君は…、俺の研究所で作られた」

「作ったって…?」

「零君は人工知能を内蔵したロボット。通称ゼロ号だ」

 あたしは言葉が出て来なかった。言葉にした瞬間全てが現実に戻されてしまう気がして。これが現実じゃなきゃ良いのに。そうなら、この出来事も全部夢で、起きたら零が微笑みながらあたしの手を取ってくれる。だけど、いくら覚めようと努力しても、雨の冷たさが、現実を感じさせる。

 零は男の人達によって、何か点検をされているようだった。

「ゼロ号開発は人の道を外れた研究だ。だけど、俺は人の道を踏み外してしまったようだな」

「…じゃあ、零のお父さんは? お父さんがいるって言ってたよ」

 お父さんはあたしの質問に答えた。答えを拒む気はないようだ。

「それは、俺のことだ。零君は外では俺のことを『お父さん』と呼んでいる。まあ、俺が作ったのだから、あながち外れてはいないが」

 零の苦しみ。悩み。それが作られたものだったなんて。あたしは、お父さんやその研究所の目的がわからなかった。いや、わかっていたけど、それを認めたくなかった。認めてしまえば零の存在が、それを目的にした存在になってしまうからだ。

「零は、どうして作られたの?」

「……」

 お父さんは押し黙った。

「お父さん。教えて」

「それは……」

「さっき男の人が言ってたの。「これなら、軍事にも使える」って。そういう目的で零を作ったの?」

 お父さんは覚悟を決めたように言った。

「そうだ。ゼロ号研究の最終目的は軍事だ。だけど、その過程で医療や日常の生活に役立てる、そういう計画でもあった」

 零が戦争の道具に使われる?あたしは地面がぐらついた。めまいを起こしたようにふらついた。やっぱり考えは当たっていた。

「零は……、そのことを知ってたの?」

 お父さんは頷いた。

「零君は何もかもを理解していたよ。その上で協力してくれていた」

 零は知っていたんだ。だからあんなに難しいことを考えていたのかもしれない。普通の高校生男子では考えの及ばない遠くに考えを持っていっていた。

「じゃあ、零が家に来た時は?零はお父さんのことを知ってたんでしょ?お母さんも事情を知ってたの?」

「あれも俺の仕事の内だ。零君の言動を見守っていた。零君の家に行ったのも、モニターで見ていた。あのマンションの五階から十四階が研究所だからな。それと、お母さんは何も知らない。このことを知っているのはごく一部の人間だけだったからな」

 零とあたしは最初から見張られていたんだ。ずっと、零はそのことを抱えて暮らしていた。あたしはお父さんに軽蔑の目を向けた。

「最低……」

「ああ、わかっている。だけど、これだけは覚えていてほしい。蓮も零も俺の子どもだ、ということだ」

「……」

 あたしは行き場のない怒りを発散したくてその場で地団駄を踏んだ。泥が跳ねた。雨に濡れた零が運ばれていく。「零を連れていかないで」、そう言ったけど、作業を止める気配はない。

 あたしは、零のそばに駆け寄ろうとした。お父さんに引き戻された。

「蓮。零君は必ず助けるから。今日はもう帰って待ってなさい」

「嫌よ。零のそばにいる」

「田川君。頼む」

「はい」

 田川と呼ばれた人があたしを制止した。お父さんは男の人達と一緒に零を連れて離れていった。

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