3章 2
最近夢に見る。君の夢だ。夢の中だと君の声は膜がかかったように不鮮明に聞こえるんだ。
そばにいるよ、って言ってくれる君の声も、遠くに聞こえる。
君の姿は近くに見えていて、手を伸ばすと届きそうなのに、届かない。
どんどん遠くに離れていく。
目が覚めると手を天井に伸ばしていた。
またあの夢だ。
夢であってほしいと願う。
本当に……夢であってほしい。
朝日が昇ると同時に飛び起きた。今日は零とのデートの日だ。お互いの気持ちがわかりあったんだから、デートと呼んでも良いだろう。
零にとって、大切な女の子になれたんだ。そう思うと幸せな気持ちになった。
あたしにとっても零は特別な男の子なんだ。それは、零と一緒にいると気付けない感情に気付ける。大切なことがなんなのかがわかる。零と一緒ならそれが見つけられる気がした。
支度をするために、リビングへ向かった。
宵月が先に起きて朝ご飯を食べていた。
「姉ちゃん珍しく早いじゃん。どしたの?」
「今日は出掛ける用事があるから。あんたこそこんな早くからどうしたの?」
「俺は友達と仮想ゲームする約束があっから。何、姉ちゃんカレシでも出来たの?」
宵月は含み笑いを込めた。
「うるさい」
あたしは悟られないように突っぱねた。
宵月と他愛のない口喧嘩をしていたら、庭で家庭菜園をしていたおじいちゃんが声を掛けてきた。
「また喧嘩しているのか?」
「俺知ーらね」
宵月は食器をそのままに部屋へと戻っていった。
「あ、ちょっとちゃんと片付けなさいよ。ったく……」
そのまま逃げてしまった。
「蓮は出かけるのか?」
「うん。ちょっと友達と出掛けるよ」
おじいちゃんは庭から部屋へと上がった。
「じゃあ、片付けはおじいちゃんがやっておくから、蓮は支度しなさい。遅刻したら大変だろう?」
「うん。ありがとう」
あたしは、部屋へと戻って支度をした。ロングティーシャツを着て、カーディガンを羽織った。下は花柄のスカートを履いた。かばんに携帯を入れて、部屋を出た。
リビングを通る時におじいちゃんと鉢合わせた。
「おお、出掛けるのか?」
「うん。行ってくるね」
おじいちゃんはにっこりと笑って見送ってくれた。
「はい、行ってらっしゃい」
宵月の部屋から小さく「行ってらっしゃい」と聞こえた。まったく。本当に素直じゃないんだから。