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ゼロ ~心の在り処、涙を流す意味~  作者: 芦屋奏多
第2章
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2章 8

 田川主任はロビーでブラックコーヒーを飲んでいた。

 先日からのデスクワークで腰を少し痛めていた。腰をさすりながら、電子パネルに浮かぶ子どもの写真を眺めていた。田川主任の息子の写真だ。

「やはり、子どもに会いたいだろう」

 本部長が後ろから声を掛けた。田川主任は身体を跳ねさせた。

「そうですね。でも、この子がいるから、この仕事も頑張れている気がします」

 本部長は自販機でコーヒーを買った。ガコンと音が鳴る。糖分の入ったコーヒーだ。

「本部長はブラックじゃないんですね」

「ああ、糖分が入っていないと疲れが取れないんだ」

「この仕事はハードですもんね」

 本部長は腰をさする田川主任に訊いた。

「腰が痛いのか?」

 田川主任は遠慮がちに答えた。心配を掛けまいという、心遣いを感じさせた。

「いえ、大丈夫です」

「悪いな。そんなになるまで、仕事をさせて」

 本部長は、自分を責めた。恐縮した田川主任は両手を胸の前で振った。

「いえ、本部長のせいでは…。上から早くと言われている状況では仕方ありません」

 本部長は肩に溜まった息を吐き、コーヒーを見つめた。コーヒーはみるみる温度を失っていく。体温と変わらないまで温度が下がってしまった。

「俺も年を取ったもんだな」

「え?」

「上からの指示に従ってばかりで…。昔の俺はもっと正義感に燃えていた気がする。だが、もうそれも思い出せないくらいになってしまった」

 田川主任は言葉が出て来なかった。何を言っても余計な言葉になってしまう気がしたからだ。田川主任が黙っていると、本部長は話し始めた。

「俺もそろそろ、子どもに会いたいよ。こんな仕事さっさと終わらせたいな」

「僕も精一杯頑張ります」

 田川主任は上司に敬礼をする警察官のように、ピシッと背筋を伸ばして答えた。本部長はフッと笑った。

「無理のないようにな」

「はい」

 主任と本部長は室内に戻っていった。

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