2章 6
午後も午前と同じく、情報と科学の授業だった。馬耳東風だ。むしろ苦痛とも言えるかもしれない。
苦痛な時間は長く続く。お昼休みはあんなに速く流れていったのに。なんだか、イジワルされているみたいだ。誰が、とかはわからないけど。
放課後になると、那智が話しかけてきた。
「今日も美術室行くの?」
「うん。その予定」
那智は残念そうに、言った。
「そっかぁ。零君も一緒にやるんでしょ?」
あたしは零という単語に反応してしまった。
「多分ね」
思わず濁してしまった。
「そっか。零君もいるなら、あたしは邪魔しちゃ悪いね。あたしはやることないから帰ろうかな」
あたしはなんだか申し訳ない気持ちになった。
「ごめんね。また今度一緒に遊ぼうね」
「うん。わかった。じゃあ、また明日」
那智は教室から出ていった。あたしは零に話し掛けようと零の席を見た。お昼休みに見た女子達がまたも零を囲んでいた。
「ねえ、零君。今日は一緒に仮想ゲームで遊ばない?」
零はひょうひょうと答えた。
「僕、電子コンタクトもワイヤレス・イヤホンも持ってないから」
取り巻きの女子はそれでも引き下がらなかった。
「じゃあ、この機会に揃えてみたら良いんじゃない?」
「それ、良いわよ」
零は、表情が少しずつ作り物のようになっていった。
「ごめん、今日はちょっと寄りたいところがあるから」
「毎日そう言ってるじゃない? 一日くらいサボっても大丈夫でしょ?」
零はむっとした表情をおくびにも出さなかった。
「僕がやりたいことをしてるんだから、指図しないでもらいたい」
「こんなに零君を好きな人が集まってるのに、なんでそんなこと言うの?」
女子の一人がふっと漏らした。
「そんなにあの子が大事なの?」
零はお昼休みの時に見せた表情をした。にこやかな、穏やかな顔と声だった。
「三度目はないよ?」
その言葉と表情からは想像つかないくらいの怖さが宿っていた。零の中の激しさが溢れている。あたしが見ていても怖かった。あんな零は見たことがない。
零がこちらに向かって歩いてきた。
「蓮。一緒に美術室に行こう」
零は穏やかな笑顔と声をしていた。さっきまでの激しさはすっかり消え去ってしまっていた。