魔王軍、異世界に降り立つ。Ⅱ
『サイクロプス』
倒れている彼を呼ぶにはこの名前が一番ふさわしいだろうとレンは真っ先に思った。神話やさまざまなファンタジーの物語に登場する一つ目の巨人。だが、一つだけ異なる点を挙げるならその身長だ。巨人にしては普通の人間とさほど変わらないか、むしろ低いくらいだ。
「だいじょうぶ・・・!?こんなに血を流して・・・!!」
((何でわたし、こんな化け物を助けようとしてるんだろう?何かこう、見捨てられないような気持が込み上げてくる・・・))
自分自身の行動に疑問を抱きつつも、怖がる素振りも見せずサナはサイクロプスに駆け寄る。
『怖くはないのか?』とサナの行動にレンも驚いたが、レン自身もまた、何故かこの化け物を前にして恐怖を抱かなかった。
((何だ・・・この感覚。こんなあり得ない化け物とか、すぐに逃げたくなると思うんだが・・・。))
【マオウサマ・・・ドウカ、ドウカフタタビ、ニクキニンゲンドモヲホロボシ、ワレラ、マゾクニハンエイヲッ・・・・!!】
口から血を流し苦しそうに悶えながらも、サイクロプスはサナの手を握りながら必死に訴えかける。
「ま、魔王?何言ってるの?わたし、人間だよ?それより、喋っちゃダメ!傷が開いちゃう!」
【ウゥ・・・ッ・・・!!】
ひと際苦しそうな声を上げると、サイクロプスは動かなくなってしまった。同時に、その肉体がゆっくりと灰となって風に流されていく。
手に残った灰を握りしめながらサナが悲しそうな声で呟く
「死んじゃった・・・の?」
「そう・・・、みたいだな。残念だ・・・。」
レンは自身の胸の中にある感情に説明が付かないでいた
((何なんだ、この感覚は?今まで会ったこともない、しかも明らかに人間じゃない化け物だぞ?なのに、なのに何なんだこの胸に込み上げてくるこの感情は・・・!?まるで、かけがえのない家族が死んだみたいな、そんな気分だ・・・。))
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謎のサイクロプスの死に、悲しみに包まれるレンとサナであったが、いつまでも立ち尽くしている訳にもいかず、ともかくこのありえない状況を整理することにした。
「今ので、俺たちがいるのは日本でも、地球でもないってことが分かった・・・テレビ番組のドッキリでもないと思う。CGとかでもあんなリアルなのは技術的にありえないだろうし。・・・サナさんはどう思う?」
「・・・『さん』付け、なんかキモいからやめて。サナって呼び捨てで呼んでいいよ。」
「あっ、はい。」
((『さん』付けるのキモかったのか・・・まぁ、呼び捨てにしていいっていうのは喜んでいいのかな?兄としての一歩を踏み出せたと思うことにしよう・・・。))
などとレンが喜んでいることも知らず、サナは話を続ける
「私も、テレビ番組とかじゃないと思う。実際にあの子に触れたし、目の前で灰になっちゃうのも見たし。私たち、二人そろって変な夢を見てるんじゃなかったら、本当に『異世界』に来ちゃったのかも。」
再婚のことであれほど取り乱していた先ほどとは打って変わって、落ち着いた様子で現状を分析するサナ。彼女の中では、異世界<再婚のようだ
「だな・・・てか、割と落ち着いてるのな。それで、気になったのがさ、さっきサイクロプスが言ってたことなんだけど。サナの事、『魔王』って言ってたよな?」
「・・・言ってた。わたし、魔王・・・なのかな?」
サイクロプスはレンではなく、明らかにサナを見ながら彼女のことを『魔王』と呼んでいた。
「分からん。あと、もう一つ今気づいたんだけど、視界の端っこにずっとひし形のマークがあるんだけど、サナはどう?」
「ひし形のマーク?なにそれ、そんなのないけど。」
レンの視界の左上には気づかないくらい小さいが、『◇』のマークが出ていた。サナにもあると思ったが、どうやらレンだけの仕様のようだ
「マジで何だこれ・・・めっちゃ気になるんだけど・・・・うぉっ!!何か出た!」
レンが◇に意識を集中させたとき、彼の視界に日本語表記の文字が無数に現れた
「なになに、どうしたの?」
「えっと・・・レベル?種族?とか書いてある・・・!」
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レン
〖レベル〗1
〖種族〗 魔神
〖ユニークスキル〗〇統率者の眼・・・自身および視界に入ったあらゆる者のステータスを認識できる
〖使用可能魔法〗なし
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「種族、魔神って・・・中二かよ。この・・・、統率者の眼ってなんだ?ステータスを認識って・・・お、サナの方見たらお前にも同じような文字が出た!どれどれ・・・。」
「私にはなにも見えないんですけど。何て書いてあるの?」
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サナ
〖レベル〗1
〖種族〗 魔王
〖ユニークスキル〗〇魔の王・・・全ての魔族を支配出来る
〇魔族召喚・・・自身のレベルに応じて、魔族の召喚・強化が出来る。
〖使用可能魔法〗なし
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「サナ、やっぱりお前、『魔王』ってなってるぞ?あと、魔族召喚?ってのが出来るらしい。」
「意味わかんない・・・。そっちも私も、魔神?と魔王なのに見た目全然普通だし。」
「うーん・・・謎が多すぎるな。まぁ、とにかくここから移動してこの異世界の住人を見つけて色々聞くしかないか。人間がいるのかどうか現時点では怪しいけど。」
「さっきの一つ目の子も日本語で喋ってたし、人間じゃなくてもたぶん大丈夫でしょ。」
こうして、レンとサナはどちらの方角に行けばよいのか分からないまま、この大草原を抜ける為に歩き出したのだった。