魔王軍、異世界に降り立つ。Ⅰ
((俺の名前は、真野レン。どこにでもいる普通の高校3年生・・・ってまぁ、そんなことでうでもよくて。今まで生きて来た17年間で、断トツでありえない展開が目の前で起きている_________________ある日突然、義理の妹が俺に出来た。))
「レン、紹介する。こちらが、今回父さんが再婚することになったナオさんと、その娘さんのサナちゃんだ!」
いつもは外食なんてしない真野家だったが、珍しく親父が外に夕飯を食べに行こうというもんだから何事かと思えば、店でレンを待ち受けていたのは再婚相手と、その娘だった。
「よろしくね、レン君!・・・ほら、サナもちゃんと挨拶しなさい。」
「・・・・・よろしくお願いします。」
母に促されて渋々挨拶するサナと呼ばれるその少女。肩ほどまでに伸びた黒髪と、着ている制服から見える透き通るような白い肌。誰がどう見ても『美少女』と呼ぶだろう。冴えない普通以下の高校生のレンには、天地がひっくり返っても縁がないような存在。
「ちょ、親父・・・!まじで再婚すんの!?それに急に義妹って・・・息子に何の相談も無しとか、どうなんだよ・・・。」
「いやぁー、スマンスマン。ナオさんとは取引先で出会ってしまってなぁ、お父さん一目惚れしちゃったんだよぉー!ま、レンも嬉しいだろ?こんな綺麗な母親と義妹ができるんだぞ!ははははっ!」
周りの意見などには目もくれず、独断専行で自由気ままに生きるこのクソ親父。こんな性格のため、レンの母親は彼が10歳の時に家を出て行ってしまった。
「もぉー、真野さんったら上手いんだから!ほら、レン君も早く座って?ここの料理とっても美味しいのよ。」
「は、はぁ・・・。」
ナオさんに促されるまま、レンはサナの正面に座る。彼女の方に視線を向けると、『こっち見てくんな』的な目でレンを睨んでくる。
((たった今出来た義理にさっそく嫌われているらしい。まだ一言も話してないのにこの様って・・・先が思いやられるんですけど。))
そんなレンの心境を読んだのか、サナはため息をつくと急に立ち上がり口を開いた
「はぁ・・・わたし、帰る。」
「えぇ!?ちょ、サナちゃん!?」「サナっ!?何言ってるの!待ちなさいっ」
親父とナオさんの制止を振り切り、小走りで店を出るサナ
((どうやら、今回の親父とナオさんの再婚は、俺だけでなくサナも納得がいっていないようだなぁ・・・まぁ当たり前か。自分の母親が再婚するのは、こんなフラフラしたクソ親父だし、一緒に付いてきた新しい兄は見た目も中身もパッとしないしょーもない男だもん。・・・自分で言ってちょっと悲しくなってきた。こんなマイナス思考な性格になったのも親父のせいだ、たぶん。))
「ごめんなさいね・・・あの子、最近ずっとあんな感じで・・・反抗期なんですよ。」
「いえいえ!!難しいお年頃だからねぇー・・・うちのレンもそんな時期があったよ!なぁ、レン。」
親父と暮らしてたら誰だってイライラするわ、とレンは心の中で悪態をつく
((ま、何はともあれ今日の夕食会はこれでお開きだろう。気まずい空気の中でご飯食べるのも嫌だったし。))
だがここで真野家のクソ親父、あり得ない提案をする
「よし、レン!サナちゃんを追いかけろ!兄として、最初の仕事だっ!!」
「は?いやいやいや、どう考えても母親のナオさんが行ってあげた方が良いだろ?今日会ったばっかりの俺が行ってどうなるんだよ!?」
「いえ、ここはレン君、あなたが行ってあげたほうがいいかもしれないわ。年齢も近いし、若い者同士で親とは話しづらい本音とかも聞けると思うの。だからレン君、お願いできるかしら?ね?」
レンの手を握り懇願するサナの母親
((おいおい、この人正気か・・・?。まともな女性かと思っていたが、うちのクソ親父と再婚することを決めた人だ、この人もちょっとアレなのかも・・・。))
「まじで言ってます・・・?はぁ・・・、分かりました。一応追いかけますけど、連れて帰る自信俺ないっすよ?」
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寒い夜の冬空の下、レンは店を出て行ったサナを追いかける。財布を持っていないらしく、そう遠くには行ってないとナオさんが言っていた
「はぁ・・・はぁ・・・・ったく、どこ行ったんだよ。うぅぅ、しかしマジで今夜は寒い______うわ、雪まで降り出しやがった。そういや今夜は、数年だか数十年だかに一度の大寒波が来るとかニュースで言ってたっけ。」
大通りを歩く人々もどこか早足で家路を急いでいるように見える。そんな雑踏の中で、レンはひと際目立つ姿を見つける。コートも着ずに飛び出したサナの姿だ。
「お、あれか?おーいっ!サナ_______さん。」
なんだかいきなり呼び捨てで呼ぶのが怖くて、咄嗟に『さん』付けで呼ぶレン。
「なんですか?わたし、戻らないし再婚もぜったい認めないから!!急に兄面しないでくれます?」
((うわ、義妹怖ぇ・・。俺だって好きで追いかけて来たわけじゃないのに責めないでくれよ。))
普段、女子と喋り慣れていないレンであったが、何とか頑張って説得を試みる。
「ま・・・まぁまぁ、再婚どうこうは置いといてさ、一旦戻ろうぜ?そんな格好じゃ風邪ひくし。」
「嫌っ!!帰るって言ったじゃん!これ以上ついてきたら、ストーカってことで警察呼ぶから!じゃ、さようなら。」
「警察って・・・ちょ、信号赤!!!」
レンの言葉に聞く耳を持たず、またもや走り出すサナ。信号がちょうど赤に変わったことに気付いていない。
そこに見計らったようなタイミングで、大型トラックが近づいてくる。
「えっ_______________」
横断歩道の中央で立ち尽くすサナ
「サナっ!!!危ない!!!!!!!!」
気が付いたらレンの体は勝手に動いていて、サナの元へ走り出していた。
レンの腕が、勢いよくサナの背中を突き飛ばす。横を見ると、もはや回避不能な距離にまでトラックがレンの元へ迫っていた
((あぁ、俺ここで死ぬんだな。ま、人生の最後に美少女な義妹を助けるとか、滅多にあることじゃない。死に方としてはかなりカッコイイ部類にはいるんじゃないだろうか。
次生まれ変わったら、イケメンで異世界に転生して、チート使いこなしてハーレム作るんだ_______))
などとアホなことを人生の最後に考えつつ、レンは固く目をつぶった
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「_________あの・・・あの!!起きてくださいっ!!起きろーっ!!」
((誰の声だっけこれ・・・あ、そうだ。サナだ。義妹が出来たんだっけ、俺。って、あれ?確か、トラッ
クに轢かれだんじゃなかったっけ?))
運よくトラックを躱せたのか、と安堵しながらゆっくりと目を開けるレン。まず目に入ったのは、涙目になりながら必死にレンに呼びかけるサナの姿。そして、彼女の背後に広がる_________満天の星空。
「良かったぁ・・・!起きなかったらどうしようかと。」
「サナ______さん・・・。ぶ、無事でよかった・・・それより、何この星空・・・それにここは、さっきまでいた大通りじゃない・・・よな?」
ゆっくりと起き上がり周囲を見渡すレン。大通りを走っていた多くの車や人々の姿、立ち並ぶビルの景色ではなく、目に映るのはどこまでも続く夜の草原。満天の星空と巨大な月の明かりに照らされて、夜でもかなり遠くまで見える
「私にもわかりません・・・さっき同じように目が覚めたばかりなので。明らかに日本じゃないですよね、この景色に、この星空、あんなでっかい月も見たことないですもん。」
「どっかの・・・外国だろうな。寒くないし。一体ここは_________」
【グフゥッ・・・・ゴㇹォッ・・・・ゼェ・・・ゼェ・・・。ハハハ・・・・クハハハハハッ!!!ヤッタ!!!セイコウシタゾッ!!!】
突如レンとサナの背後の岩陰から聞こえる、『何者か』の声。
2人は恐る恐る岩陰を覗くと、そこには苦しそうに息をしながら横たわる人影が。月が雲に隠れてしまってよく見えないが、どうやら血を流しケガをしていることが分かる。
「だ、大丈夫ですかっ!?今、救急車呼びますね!!」
レンは急いでポケットから携帯を取り出すが、画面は暗いままで起動する気配はない
「くそっ、こんな時に故障かよ・・・!とにかく、応急処置だけでも!」
ザァァァァァ_______________
その時不意に風が吹き、月を隠していた雲が流れ草原が月明かりに照らされる。同時に、倒れていたその人影の顔がはっきりとレンとサナの目に映り、2人は絶句する。
隆々とした筋肉と、鋭く伸びた爪と牙。肌の色も青く、中でももっとも異形なのは______
「血が・・・青い・・・・?それに_________」
「目が・・・・一つ・・・・!?」
【セイコウシタ・・・!!『マオウ』サマノッ!!!!フッカツニ!!!!!】
レンとサナは同時に思った。ここは『地球』ですらないかもしれない、と。