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最後のページ


今日はいよいよ夏休み最後の平日だ。

三日後にはまた学校に通わなくてはならない

夏休みが始まった時にはまるで悠久の休暇のように思っていたが体感時間としては10日ほどだったように感じる


「楽しいひと時はすぐに過ぎるってのは本当なんだなー」


去年は確か深夜までゲームをして 昼まで寝るを繰り返して気付けば夏休みか終わっていたような気がする


「そうですねー、でも今年の夏は色々ありましたから短かったですが濃密だった気がします」


「そういや今日って金曜日だよな?」


「多分そうです」


今日は確か十文字が来るはずだ

俺の予想だがのんびりは出来なさそうだ


「今日は何か予定あるのですか?」


「そういやハナコに言ってなかったな 石像のおじさんが俺たちに会いたいらしい」


「あー 七不思議の?」


「そう それで今日十文字が呼びに来る」


「十文字さんですか…」


どうやらハナコは十文字が苦手らしい

俺は昔からの友人だから多分慣れているのだろうけど初対面だと変な人 になるのかな


ーピンポーン


ちょうど十文字の話をしているタイミングでインターホンが鳴った。


「おや?噂をすれば十文字さんですか?」


「みたいだな」


玄関を開けると炎天下の中走ってきたであろう汗だくの十文字がいた


「やぁすまない、少し準備に手間取っていてね」


「気にするな 取り敢えず上がったら?クーラー効いてるよ」


「ではお言葉に甘えて」


十文字を部屋にあげると


「石像のおじさんに会う前に少し言いたいことがある でもその前にお茶が飲みたい」


俺はキッチンへ向かい冷蔵庫から冷たい麦茶を持って行くとよほど喉が渇いていたのか一気に飲み干した というかそんなに急いで来なくてなくてもまだ昼なのに…


「ありがとう 石像のおじさんは君たちと話したいとしか言っていないがボクは大方予想がついている おそらく彼が語るのはハナコさんの過去についてだ」


「でも私石像のおじさんとは面識がありませんよ」


「そりゃあそうさ キミは記憶を失っているのだろう?」


あぁ、そうだったとハナコが納得したようなそぶりを見せる、と言うか記憶喪失って事を忘れていたのか…記憶喪失の記憶喪失になっていた?

自分でも収集がつかなくなりそうだ とりあえず考えるのをやめよう


「それで?ハナコの記憶の話をするって事を言いにきたのか?」


「そうだよ僕はもう一度 18時にここに来る 石像のおじさんに会いたくないなら別に来なくても構わない」


「そりゃあ…」


行くに決まってるだろ と言おうとしたが十文字がそれを遮る


「一宮には聞いてない ボクはハナコさんに聞いているんだ」


そう言ってまた来た道を引き返していった



「結局何しに来たんだろうな?十文字のやつ」


「そう…ですね」


何となく歯切れの悪い返事だった



結局これといってする事のない俺とハナコは約束の6時までマンガを読んだり 散歩に行ったりして時間をつぶした


ーピンポーン


再度インターホンがなる 言わずもがな十文字だろう 玄関には昼頃とは打って変わって汗一つかいていない十文字の姿があった


「やぁ 答えは決まったかい?ハナコさん」


とやはり俺ではなくハナコに聞いた


「お願いします ぜひ聞きたいです」


とハナコ

七時まで三人でトランプをして時間をつぶした

思い返せば今日は時間潰してばっかりだな…

時は金なりって言った人に顔向けできないや

なんて思いつつ学校へ向かう


いつも通り校門を乗り越え、グラウンドにある石像の元へ なんども見慣れたはずの初代校長の石像のはずだが…石像の前に十文字が立ち


「やぁおじさんが会いたがってたハナコさんと一宮だよ」


すると次の瞬間 石像から声が聞こえた


「おぉ、待っておったぞ二人とも よく来てくれた何しろこの身体じゃから動けんのでの わざわざすまんのう まあ立っているのもアレじゃから座りんさい」


思ったよりよく話すおじさんのようだ 話すと言っても口元は動いていないからどうやって声を発しているのかわからないが 見てくれは俺たちが普段見ている石像となんら変わらない


「どうもこんばんは 一宮 健です」


「ハナコです…」


と自己紹介をした


「これは失敬。儂としたことがつい浮かれてしまい自己紹介を失念しておった 儂は初代校長の久遠寺 寛寿郎と申す 聞いた話じゃと東高七不思議の一つとか言われておるようじゃの まぁこうやって東高の生徒を見守り続けられるなら七不思議でもナナフシでも構わんがの はっはっは!」


とマシンガンのごとく一人で話し豪快に笑った

このままでは話が終わらない気がする 早いうちに目的を聞かないと


「それで寛寿郎さんはどうして俺たちに会いたいと思われたのですか?」


「お主らは、そのハナコちゃんの記憶を探しておるのだろう?」


「まさかご存知なんですか!?」


これは全く予想外の展開だった

てっきり今の学校は何々がダメとかこうあるべきとか説教されると思っていたけど…


「勿論じゃ 儂は東高が創立して以来ずっとここにおるでの。してハナコちゃんや 話しても良いのかの?」


とおじさんが聞くと

ハナコは少し下を向き


「お願いします」


とだけ言った


「ハナコちゃんが生きている時代は丁度戦争の真っ只中じゃった ろくな食べ物もなく 日々を生き抜くだけで精一杯の時代じゃ 校舎は建て替わっておるが東高はその頃には既に建っておった 儂は昔銅像だっだんじゃが何しろあの頃金属は全て持っていかれたからの、話が逸れてしまったが 昔 東高の隣に神社があって そこに毎日毎日 雨の日も風の日も 通う健気な女子がおった。

じゃがある日突然来なくなってしまった

儂は死んでしもうたと思っておった しかしその子は数日後また姿を表した 霊体となっての。ある日儂はその子に聞いてみたんじゃ "毎日何を祈っておるのかね"と その子は"いつか空の火が消えて怒ってる皆んなが笑顔になってほしい それと少しだけ幸せに生まれたかった"と答えた 数年後またその子はまたいなくなった」


「つまりそれがハナコって事ですか?」


「あぁ、そうじゃ 気の毒に思った神様が幸せになれる2回目の人生を与えたと思うておる 幸せになれたようで本当に良かった」


と心なしかおじさんの声が震えている


「また辛い思いをせにゃならんのは本当に心苦しいがこれが最後じゃ。」


ん?どういうことだ?辛い思い?

ハナコをふと見ると何故かハナコが泣いている


「ケンさん 私は 、私はきっとケンさんに会うために座敷わらしになったんだと思います 座敷わらしのクセに幸福になるような事は何一つできてなかったですけど」


「何言ってんだよ!ハナコが来てから毎日幸福だよ どうしたんだよ急に」


混乱している俺におじさんが


「ハナコちゃんの生前の願いはもう叶っていたんじゃよ つまり もうこの世に縛るものは無くなったということじゃ」


「まだまだこれからやる事だっていっぱいあるじゃんか!どっかに出かけたり 美味しいもの食べたり…」


「私だって本当は嫌ですよ!本当はケンさんに出会った時点で成仏するはずだったんです…ずっと黙っていてごめんなさい」


頭がついていかない、ハナコが成仏?いなくなる?確かにいつかはって分かってた。けどこんなに急に?


「分かってたんなら どうして言ってくれなかったんだ?十文字もハナコも」


ハナコが下を向く きっと二人のことだ悪気があったはずがない、なのにすごく嫌な聞き方をしてしまった


「そんなことを言ったらキミは十中八九止めるだろう?そんな事をしてしまうとキミがハナコさんの足枷になるんだ 足枷をつけられた霊は成仏も出来ずいづれ悪霊と呼ばれるものになる」


「…でもこんなのってあんまりだよ」


「ケンさん 私は成仏しても側を離れるつもりはありませんよ?…そりゃ、今までみたいに、遊んだりできないかも…知れませんが また会えるじゃないですか しばらくの間さよならです」


とハナコが涙で鼻声になり声を震わせながら言った

目の前が昼かと間違うほど明るくなる


「ハナコ!俺はハナコに出会えたことに本当に感謝してる 俺はハナコが大好きだった!」


最後まで聞こえたのかわからないが光が消えた頃にはハナコは居なくなっていた

あたりは静まり返り とてつもない虚しさと悲しさだけが残る

そのは俺はどんな道のりで どれくらい時間をかけたのか全く覚えていないが 家に帰ったことだけは確かだ


土曜日は殆ど部屋から出ずに俺はまだ悲しさを拭えずにいた 寝て泣いてを繰り返していた気がする


日曜日 流石に腹も減り食べたくもないご飯を食べにキッチンへ向かう 食べ物が喉を通らないが腹はなる 少しだけラーメンを食べようと思い、初めてラーメンを見たハナコを思い出し また泣いた

部屋に帰りふと押入れを見ると ハナコが書いていた日記が置いてあった。どうやら俺と出会った日からこっそりつけていたらしい。出会った日の喜び コロッケの美味しさが綴られている。 涙が流れているのも忘れて今となっては思い出なった日々を振り返る 最後のページにこう書いてあった


"やっぱり見ましたねケンさん 想定済みですよ そして今 物凄くだらしのない生活を送っているんじゃないですか? あたりですか?私はずっとケンさんの側にいるんですからだらしないのはやめてください また会った時に素敵な話を聞かせてください 最後に、大好きでしたよ ケンさん"


まあそれから俺がちゃんと朝起きて毎日勉強して毎日笑顔で過ごした事は言うまでもない

そりゃあ悲しいし辛いけど

でも俺は次会う時 胸を張ってハナコに会うって決めたんだ


俺の人生でたった数ヶ月の出来事だったが一生忘れない日々だった

苦しい事も悲しい事も これからたくさんあるだろう けどきっと 俺達 なら乗り越えられる

私の初作品 座敷わらしのハナコさん完結です

私の思いが少しでも皆様に届けばなと思います

ブルマや評価 この作品を読んでくださった皆様

本当にありがとうございました

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