新しい日常
場の勢いで 手伝う と言ったものの実際のところ何から始めればいいか皆目見当もつかない…
今出来る事はハナコ が持っている情報整理だな
「そういや ハナコ さっき30期生がどうとか言ってたよな?それ以前の記憶は無いの?」
「ええ 確か初めて見たのが30期生の入学式です 」
「そんな昔からずっとこの教室に縛られてたわけ?」
「いえ、違いますよ アレはあなたのクラスメイトにやられたんです」
「えぇ!?そうなの?顔とか覚えてる?」
「二度と忘れるもんですか あのおかっぱ頭めぇ…」
とハナコが悔しげな表情を浮かべる
「おかっぱ頭、あー 篠原か」
最近おかっぱ頭なんていないから 篠原は悪い意味で目立っている
顔立ちは綺麗だから男子の間では残念美人と呼ばれている そのまま 残念な美人だ
ともかく明日学校で聞いてみるか
校舎を出るとどっと疲れが押し寄せてくる
今日はなんだか"つかれた"
さっさと風呂に入って寝よう
「そういや ハナコは風呂にもついてくんの?」
軽い冗談のつもりで聞いたのだがハナコは顔を真っ赤にして手を振りながら全力で否定する
「そ、そんなの行くわけないじゃないですか! ある程度距離を保っていたら大丈夫なんです!」
やっぱりこの座敷わらしオモシロい
「なあんだ 少し残念」
とわざと声に出していうと さらに顔を赤くして黙り込んでしまった
依然として真っ赤なままハナコをつれて家に帰ると いつも通り テーブルの上に晩御飯のコロッケと "あっためて食べてね"の置き手紙があった
「おや?御両親はお出掛けですか?」
「いや、共働きで基本家にいない」
「へぇー 最近はそうなんですねー」
「そうなんだよ "昔"と違って"最近"は共働きの家も珍しく無い」
昔 と 最近 という言葉を強調して言うと
「むぅ…」
と言ってふくれてしまった しばらくこのままにしておこう
コロッケをレンジで温めながら ふと思った
「そういや 幽霊ってご飯食べるの?」
「……」
「ハナコー?」
「食べようと思えば食べれますよ!」
少しからかい過ぎたようだ
どうやらまだ怒ってるらしい
「じゃあ 半分こだな 仲直りの半分こ」
そう言ってコロッケを半分に切る
受け取らないのも申し訳ないと思ったのか それとももう忘れてしまったのか 分からないが目を逸らしながら
「じ、じゃあ 頂きます」
と頬を赤らめてコロッケを受け取った
相変わらず からかい甲斐のあるヤツだ
「ハナコって何か能力持ってないの?」
「能力…ですか?」
「そう 例えば 火を出したり 呪い殺したり」
「ケンさんは 座敷わらしを何だと思っているのですか… あ!でも 座敷わらしがいる家は幸福になれるそうですよ」
と得意顔で言った
「幸運ねぇ…ちょっと微妙だなー 他にもっと派手なの無いの?」
「幸運良いじゃないですか あとは霊なので触ると冷たいです」
「地味!でも 夏とか涼しくて良さそうだな」
「おさわり厳禁です」
「辛辣!」
そんな事をしてるうちにもうすっかり夜は更けて 窓からうっすらと明るくなってきている空が見える
さっきまでぐっすり寝ていたわけだから全く眠く無いのだが 取り敢えず風呂に入って ベッドに入る
「ハナコはどこで寝るの?」
「そうですねー 押入れとか空いていればありがたいのですが」
「押入れってドラえもんかよ…まぁそこの押入れ空いてるよ じゃあおやすみー」
「おやすみなさい」
とは言ったものの やはり眠れないものだから どうやってハナコの記憶を取り戻すか考えていたがいつのまにか眠りについたようだ
「ケンさーん ケンさーん!」
俺の名前を呼ぶ声がする
眠い目をこすりながら時計を見ると
8時6分
「やっべぇ!遅刻する!」
そういや昨日疲れて目覚まし時計セットするの忘れてた!
急いで着替えて パンをくわえて家を飛び出す
「初日からハナコに借り作っちまったな」
「別にこれくらい構いませんが」
息も切らさずふわふわと付いてくる
「帰ったら好きな物奢ってやるよ」
「わーい!やったー!」
ハナコのおかげで何とか遅刻せずに学校に着いた
篠原にハナコの事を聞こうと思ったが来ていないようだ
「なぁ 今日篠原は休み?」
とクラスメイトに聞いてみた
「いや、朝来たんだけどすぐに帰ったよ どうかしたのか?」
ニヤニヤしながら聞いてくる
しまった、
「い、いや 別にあいつが休むの珍しいから」
と適当に理由をつけて話をそらした
朝来て帰ったと言うのがどうも引っかかる 昨日の裏のお札を剥がした事に気がついたのだろうか それともハナコが教室から居なくなったからだろうか
ともかく今は考えても仕方がない
「バレちゃいましたねー」
とハナコが言う
「そうみたいだな 薄々気づいていたけどハナコ他の奴には見えないんだな」
「そうみたいですね 何でケンさんだけ見えるんですか?」
「それはこっちが聞きたい」
学校でハナコと話すと周りの視線が気になるなー
それを察したのかハナコは学校で話しかけるのを控えた(気がする)
授業が始まるとハナコは ここぞとばかりに俺に仕返しをしてきた 教卓の前に立ったり 机の下から顔を出したり
思わず声を出して笑ってしまい 先生に怒られたことは言うまでもない
学校が終わり どんな仕返しをしようか考えているとハナコがぼそっと
「みてくれる人がいるってこんなに嬉しい事なんですね」
と言った ハナコがこれまでどれほどの孤独を味わったか俺は知らない けど 今が幸せならきっとそれで良いのだろう
ハナコの頭を軽く叩いて
「これでチャラだ さぁ約束。好きなもん奢ってやるよ」
と言うと ハナコは嬉しいような恥ずかしいような曖昧な表情で
「シュークリーム」
と言った
シュークリームを買って帰路につく
家に帰るとハナコは
「半分こです」
と言ってシュークリームを半分くれた 別に好きでもない筈のシュークリームがその日に限っていつもより何倍も美味しく感じた。
大寒波が来ているそうですね
暑いのも苦手ですが 寒いのも苦手です 春が恋しい今日この頃 人間も変温動物なら冬眠で長期休暇が有ったのでしょうけれど、、