想い交差
▼ちょこっとだけあらすじ▼
ハナコが無事に目を覚まし、アンバランスも数十年の願いが叶い無事に成仏したらしい、ただ友達になった矢先の出来事だから心残りが無い訳じゃない。
ーピンポーン
▲ここまで▲
やれやれ、どうやら最近は来客が多い
わざわざ訪ねてくれているのにこんな事は言えないが 正直ちょっとめんどくさいと思ってしまう
重い体を動かし玄関に向かう
「って、何だ十文字か」
「折角ボクが訪ねてきたのに酷い言い草じゃないか」
「悪い、口癖みたいなもんだ。でも珍しいな十文字から来るなんて」
中学から仲は良かったが遊びに誘うのはいつも俺だった…あぁ 何だか嫌な予感
「ボクだって来たかった訳じゃないさ 銅像のおじさんに君達の話をしたら是非会わせてくれって頼まれたんだ」
また七不思議か、毎度毎度 散々な目に遭ってるから暫く関わるつもりがなかったのだけどでも呼ばれたのなら仕方がない
「分かった それでいつ行けば良いんだ?」
「銅像のおじさんは金曜日にしか現れないんだ だから金曜日」
ん?今日何曜日だっけ?夏休みになると曜日感覚がなくなってしまう それを察したのか十文字が
「今日は土曜日だから六日後 また呼びに来る」
と言い残し帰って行った
さて課題でもやろうかなと部屋に戻るとハナコが勉強机の上に正座して俺のマンガを読んでいた
ツッコミどころが多すぎる…
「どちらさんだったんですか?」
ハナコが何事もない様に聞いてくる
「あぁ十文字だよ この前言ってた銅像のおじさんが俺たちに会いたがってるらしい…そんな事よりハナコは何してるんだ?」
「ケンさんのマンガを読んでます」
どうもハナコの様子がおかしい もしかしたら怒ってるのか?俺がハナコのシュークリーム食べたから?いや、昨夜ちょっと心配だから押し入れ開けて寝顔見た事?うーん、結構いろいろやっちまってるしな
「ところでケンさん夏休みも折り返しを過ぎたのですが課題はやらなくて良いんですか?」
「いや、今からやろうかなーと思って…」
「早く始めないと夏休み終わっちゃいますよ」
「それはそうなんだけど…」
やっぱり怒ってる!ここで ハナコ座ってるじゃーん!とか言える訳ない
「私を動かしたいんですか?なら勝負しませんか?」
なるほど、それで俺を負かして凄まじい注文をするのだな ここは緊急回避
「いや!いい!ハナコはそこでマンガを楽しんでくれ!俺ここでやりたい気分だから」
と宿題を床に広がると
「えっ、机でやらないんですか?」
予想外の答えに焦りを見せる
「床の方が捗りそうだ」
馬鹿な事を言ってる。分かってる 分かってるけどハナコの勝負を避けるにはこれしか思いつかなかった 一体どこの誰が床で勉強した方が捗るもんか
怒りが収まるまでしばらく待とう…
「ゆ、床の方が捗るなんて初めて聞きました 私ちょっと翠さんとおしゃべりしてきます 課題頑張って下さいねー」
と言って窓から外に出ていった
はっきり言ってこれは最悪のパターンだ
ハナコと翠の最凶タッグは俺なんかじゃ到底勝ち目は無い 何てこった隙を生じない二段構え もしかしたら俺に逃げ道なんてないのかもしれない…
これはいよいよ課題どころではなくなってきた
かくなる上は 全力の謝罪 土下座だ
一通り土下座の練習が終わったがまだ帰ってこないので課題を進めることにした が、
俺一人じゃ太刀打ちできない…こうしている間にも翠とハナコが作戦を練っていると考えると居ても立っても居られない ひとまず柊…は俺よりバカだから十文字の家に向かう事にした
ーピンポーン
「何だ一宮か」
「わあデジャブ!」
さっき十文字に言った事をそっくりそのまま返されてしまった
「で何の用?」
「夏休みの課題一緒にやんない?」
十文字はやれやれ といった表情で肩をすくませ
「いいよ」
普段なら何かつっこむ所だが今日ばかりは素直に感謝だ
「相変わらず殺風景な部屋だな」
「僕は生活に必要なものだけでいいのさ大切なものが多いと色々大変だろう?」
「大切なもの…か」
ふとハナコのことが脳裏に浮かぶ
俺はハナコが大切なのだろうか
ハナコは俺が大切なのだろうか
「今ハナコさんの事考えてた?そういや今日は居ないんけどケンカでもしたの?」
ニヤリと十文字が笑う
「えっ!?いや、別に それより早く課題始めないと終わらなそうだ」
「この世に悠久なんて存在しないのさ。いつか無くなる その事から目を逸らしていると失った時に狂おしいほど後悔するよ そして手遅れになった時にどれほど大切であったか気づかされるのさ」
十文字はどこか自虐的な笑みを浮かべてそう言った
「何はともかくボク達は課題を片付けなくちゃね」
それ以上互いに言及することもなく俺と十文字は課題を続けた。
「ふぅ、ひと段落ついたしそろそろ帰ろうかな」
「ひと段落って、ボクのノートを写しただけじゃないか」
「考えても分かんないんだ だったら考えても無駄じゃない?と俺は思う」
「とんだ開き直りだな」
「潔いって言ってくれよ」
ふと窓に目を向けるとオレンジ色の夕焼けの空が見えた
時計は6時を指していた
「もうこんな時間か 良かったらボクの家でディナーでも食べていくかい?」
「いや、折角だけど今日は帰ろうかな ありがと」
ハナコに会って早く謝って仲直りしたかった
「うん、その方がいいね じゃあまた金曜日ね」
俺は十文字に別れを告げ 急ぎ足で家に向かった
家に帰ると既に帰っていたハナコが
「あの、ケンさん、」
「ごめん!ハナコ!何したか覚えてないけど怒らせる様なことしてごめん」
何かいいかけたハナコより先に謝る
「え?何でケンさん謝ってるんですか?」
「え?ハナコ怒ってるんじゃないの?」
「怒ってませんよ コレを渡そうと思って…」
とハナコが何かを手渡してきた
「いつも助けてもらってばっかりですし何かお返しをしたくて…翠さんに教えてもらって作ったんです」
それは青と黄の糸が編み込まれたミサンガだった
「俺に作ってくれたのか?」
「はい…」
「ありがとう ハナコ大切にするよ」
「こちらこそいつもありがとうございます」
結局今回は俺の勘違いに終わった。
机の上に座っていたのは勝負を持ちかけて負けた時に一緒に渡す 等々 色々とシミュレーションが行われていたらしい まあ、何はともあれハナコが怒ってなくて良かった
布団に入ると十文字の言葉が思い出される
悠久なんてない。ハナコとはいつか別れがくるし翠や柊 十文字とも別れがくるのも分かっている
俺に今できることは別れの未来を憂うより自分の気持ちを素直に伝えることだと思う。
最後まで読んで下さりありがとうございます
僕は京都に住んでいるのですが朝から雨が止みませんしついでに携帯も鳴り止みません…
むむむこんな時こそ落ち着いて行動しなくては、