夏の夜の悪夢
今日の寝覚めは最悪だった。
8月 動いていなくとも日陰にいても汗をかくこの季節 言うまでもなく寝ていても汗をかくこれだけでも十分に不愉快だが更にこの暑さとやらは俺の貴重な睡眠すらも邪魔をしてくれるのだ。
目が覚めた時にはギラギラとした日差しが部屋に差し込み日光直撃の机がアツアツになっていた。
ついでに部屋もアツアツになりシャワーでも浴びようと一階へ降りる…前にある事に気がつく
今日はハナコに起こされていない
「あれ?もしかしてハナコまだ寝てる?」
押入れを開けて見るとなんといつもは早起きのハナコがまだ寝ている
今まで一度たりとも 俺より寝ているなんて無かったのに
「おーい ハナコーもうすぐ昼だぞー」
と揺すってみても全く反応がない
どうもおかしい 大声を出しても揺すってもまるで起きない。
何となく胸騒ぎがする…
俺には解決策が思いつかない ならば友人に相談するしかない。
「翠今すぐ来れるか?ハナコが起きないんだ」
と用件だけ伝え
「今すぐ行くわ部屋にクーラー18度で効かしておいて頂戴」
と言いすぐに切れた。そういや今年はクーラーを一度も付けていなかった事に今更ながら気がつく。熱中症になりやすくなると聞いて以来なるだけ付けないようにしていた まぁ今はそれどころではない
「今年初クーラーオン!っと」
18度ね…え!18度!?寒くない?
と思ったが翠が言うのだから何かしら効果が期待できるのかも知れない
15分ほど経ち流石に寒いから温度を下げるか考えていると
ーピンポーン
予想していたよりかなり早かった早足で歩いても40分ほどかかるはずなのだが…
ドアを開けるとおそらく走って来たのだろう汗だくの翠と優がいた
「待たせたわね」
部屋を18度ってのはそういう事かと思いつつ二人を部屋にあげる
部屋に入るやいなや翠が
「ハナコさんは今朝からこの調子?」
と聞いて来た
「あぁ、昨日の夜は元気だったし夜から朝にかけてだと思う」
ふと脳裏に悪夢の事がよぎる
「もしかしたらこの前言っていた悪夢の話が関係あるのかも」
「基本的に僕達は寝なくてもいいから目が覚めないってのはどういう事なんだろう」
優がボソリと呟いた
「起きないと言うより眠らされていると言ったほうが正しいわね」
眠らされている…って事は
「じゃあ第三者が絡んでるって事?」
と聞くと
「おそらくね」
ハナコが誰かに眠らされていると聞き少し苛立ちを覚える
「誰にやられてるんだ?」
「ごめんなさい、そこまで私には分からない」
「じゃあどうすれば…」
「お婆ちゃんなら何とかなるかも」
俺たちは未だ眠っているハナコをおぶって翠のお婆さんの家へ向かう
道中で翠や優が話しかけてくれたが 頼むから無事でいてくれ と "第三者"への怒りでいっぱいだった俺は"あぁ"とか"うん"しか言ってなかった様な気がする
翠のお婆さんはやはり俺たちが来ることが分かっていた様で
「暑い中よく頑張ったね 準備は出来てるからお入り」
と優しく俺たちの労をねぎらってくれた
部屋には布団が敷いてあり
お婆さんは魔法使いが着る様なローブをまとっていた いつもは優しい顔のお婆さんが真剣な顔で
「最初に忠告しておくが何が起こるか分からないから絶対に気を抜かないでおくれ 」
一同は黙ってうなずく
お婆さんは力強くこう言った
「さて 始めようか」
お婆さんが目を瞑り ハナコの額に手を当てる
緊張感が空間を支配する 息をすることさえ忘れそうになる
一体どれくらいの間 お婆さんは手を当てていたのかわからないが スッと手を離し
「血のように赤い夕焼け 黒い窓 それから学校が見えたね心当たりはあるかい?」
余りにも分かりやすいヒントだ
忘れたくても忘れるはずが無い アンバランスの時と同じだ
「東高七不思議のアンバランスでほぼ間違い無いと思います」
「おそらくそのアンバランスとやらの仕業でその空間に閉じ込められているはずさ」
あんな恐ろしいところにハナコ一人で…
と思うと居ても立っても居られず
「ありがとうございます!ちょっと行ってきます」
そう言って立ち去ろうとした
「待って健!あなた一人じゃ帰れないじゃない 私も行くわ」
「僕はここでハナコさんが目を覚ますの待ってるよ」
翠と優が言ってくれた。俺は頼もしいのか安心したのか自分でもよく分からないが目の奥が熱くなり
「ありがとう」
しか言えなかった
俺と翠はまでお婆さんの家で結界やら御守りやら完全な準備をしてあの時と同じ7時まで待った
7時ジャスト。例のごとくラジオを通したような不気味なチャイムが鳴る。おそらくアンバランスが出現した合図だ。
古びた黒い窓の校舎を見て ハナコが待ってる と気を奮い立たせる
昇降口から下駄箱へ…
「うっ…うう」
と聞き覚えのある声が
「ハナコ!もう大丈夫だ!」
「うわぁぁん!ケンさーーーん!」
とよほど怖かったのか泣きながら飛びついてきた
声に気がついたのかアンバランスもこちらへやって来る
「カエセカエセカエセ」
気味が悪い
翠が何やらブツブツと呟くとアンバランスは苦しそうに身をよじる それでも
「アッアッカエセ」
と諦める様子もない
だんだん恐怖より苛立ちが募る
「おいアンバランス!お前は何がしたいんだ?」
と思わず声に出してしまった
「トモダチ…」
会話は何とか成立する
ここで諦めさせなければ これから先何されるか分かったもんじゃない
「お前は友達の作り方をまるで分かっちゃいないハナコが怖がってたの分からないのか?友達に絶対に欠けちゃいけない物は優しさなんだよ お前が本当に望むなら俺たちが友達になってやる」
だから と続けようとしたが言い終えない内にまた校門の前で目が覚めた
「あれ?戻ってきた」
「そうみたいね まさか祝詞よりも強力な言葉があるなんて驚いたわ」
ん?俺ナイス?
「ともかく帰るわよ」
二人とも疲れてくたくたになっていた為道中はほとんど会話をせずに帰った
玄関を開けるとお婆さんと優と ハナコが待っていた。ハナコはまだ泣き止まず
「本当に…ありがとうございました」
と何度もお礼を言っていた
俺とハナコでもう一度 お婆さん 優そして翠にお礼を言い ゆっくりと暗い道を帰る ようやく泣き止んだハナコと一緒にシュークリームを食べて家に帰った。
後日、アンバランスはどうなったのか気になり翠に聞くとどうやら何十年もの間友達を欲しがって 構って欲しくて靴を隠ていたらしい 友達が出来た事で成仏したらしい
ーピンポーン
また玄関のチャイムがなった。
最後まで読んで下さりありがとうございます
こんばとらー左 阿千です(`・ω・´)ノ
最近暑さマシマシでマシマシしますね
熱中症にならぬ様 水分補給(`・ω・´)ダイジ