表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/20

プールへ行こう

▼▼▼

例えるなら其処は地獄だった。

私が地獄という言葉以上にあの状況の悲惨さを表す言葉を知っていたのならその言葉が相応しいのだろう


いや、もしかしたらあれを地獄と呼ぶのかもしれない


空は赤黒く燃えて 火山が噴火するような爆音と共に聞こえるのは人間なのかすら分からない“何か”の悲鳴 何が起こっているのか理解が追いつかないまま 恐ろしい“何か”から逃げ惑う人々に流される

どうやら地下へ逃げるようだ 確かに空が燃えているから地下に逃げるしか無いのだろう


地下には 思ったよりも沢山の人がいた。皆ブツブツと“何か”を呟いているようで怖い

暑くて暗い地下に一体いつまでいるのだろう 空の炎が消えるまで待つつもりだろうか?周りの人間に問うても一瞥すらされず、矢張り彼らは“何か”を呟き続ける


瞬間 視界が真っ白になる

黒から白へ 白から黒へ

▲▲▲


目を覚ますと ベニヤ板が見える

いつもの光景 ただの悪い夢だったと気付き ほっと胸を撫で下ろす


今日も一日楽しく過ごそうと思い 声を上げて いつものセリフ


「ケンさーん!あっさですよー!起きて下さーい!」


「ん…あぁ、おはようハナコ」



蝉は風流を感じる余地も無いほど 大きな声で鳴き

つい 暑い が口癖になる程の暑さ


「あっぢぃ〜 何にもやる気起きねー」


「暑さのせいにしちゃダメです ケンさんがやる気起きないのはいつものことじゃ無いですか」


「そういやそうだった」


「気晴らしにプールとか行ってみてはどうですか?」


「行くまでが暑い」


「行けば涼しいじゃないですか」


「うーん、まぁ暇だし 行くかプール」


俺は下心があったわけじゃ無い、別に翠の水着が見たいとか柊の水着が見たかったわけじゃ無い

ハナコが提案し、俺はそれに乗っただけ

せっかく行くなら多い方が楽しいと思っただけだ


翠は携帯を持っていない為、家まで呼びにいかなくてはならない クーラーの効いた部屋から一歩外へ足を踏み出すと サウナのような蒸し暑さ

それ程遠いわけでは無いのだが 翠の家に着く頃には水浴びでもしたのかと言うくらい汗びっしょりだ


ーピンポーン


「嫌よ」


インターホン越しに まだ何も言ってないのに断られた


「まだ何も言ってないじゃ無いか」


「健がこの暑さの中わざわざ家に来るなんて絶対まともな話じゃ無いわ」


翠の慧眼には恐れ入った だがここでそうですかと引く俺じゃ無い せっかくここまで来たんだ


「まぁちょっと出て来てくれよ そうすれば気持ちが変わるかもしれないからさ」


「今は訳あって家から出たく無いのよ 早く言って頂戴」


「どうせ暑いとかだろ」


「今ゴキブリと戦ってるのよ」


「戦闘中断して悪かった 開戦してくれ」


「冗談よ」


「ともかく待ってるぞ」


それから10分後 ようやく翠が家から出てきた

開口一言


「まさかまだ待ってるとは思ってなかったわ」


「鬼か!暑すぎて溶けそうになった」


「そう、ならプールでも行く?」


翠の手にはちゃっかりプールセットらしきものが握られていた


「健さん お久しぶり」


と 翠の後ろから男の子が顔を出す


「おー!優じゃないか!久しぶり!」


「僕もご一緒していいかな?」


「勿論」


柊の携帯に電話をすると 今は家族で北海道に避暑しているとかどうとかで来れないと言った


「柊のやつ、この暑さから逃げるとは許せん」


「同感ね、帰って来て地獄を見るといいわ」


「そんなに暑いですかね、、」


とまさかのセリフ ハナコを見ると汗ひとつかいていない

気温は30度は上回っているはずだ


「ハナコ、あとでシュークリーム買ってやるから俺におんぶされない?」


「ケンさん汗だくなので遠慮しときます あ、でもシュークリームは買ってもらいます」


ん?どういう事?


陽炎でゆらゆらと揺れる長い坂道を登り 砂漠のオアシス、否、市民プールに辿り着く


翠が意外とスタイルがいい事に驚いた だがそれを翠に悟られてはいけない 何されるか分かったもんじゃない 生きて帰れないことだけは確かだ


「あら、健は浮き輪要らないのかしら」


「俺はこう見えて泳ぐの得意なんだ」


「競争でもする?負けた方がアイス奢り」


「その勝負、乗った」



そして負ける俺。再戦を申し込み 更に負ける

小学校時代はスイミングを習っていて エースだったはずなのに それでも完全に負けた

俺は翠に何一つ勝てないとようやく知る


「健二回負けたから アイス2つね それとも再々戦申し込むのかしら」


「もうやらない、勝てる気がしない」


「あら 潔いのね 所でわらしコンビは?」


いつのまにかあの二人にコンビ名が付いていたようだ、わらしコンビ…


「あれ?ホントだ居ないな」


「まぁ帰って来るわよ 私は折角だしもう少し泳ぐわ」


それもそうだな


プールという場所は時間が早く流れる場所で 体感時間およそ1時間で その実3時間なんてザラにある

今日も例外なく 少し泳いで帰るつもりがいつのまにか夕方になってしまっていた


「ケンさーん、翠さーん そろそろ閉まりますよー」


とわらしコンビが呼びに来た


「あら、もうそんな時間なのね」


「ホントだ 早く帰って宿題やらないと」


「健が宿題の話するなんて珍しいわね」


「少しだけだか昨日やったんだ」


「それは感心ね」


つい 私は半分終わってる とか どうせ終わらない と言われると思っていただけに素直に感心されると少し照れ臭い



行きに登った坂は当然だが帰りは下りだ

だから帰りは楽に家に着く

運動した後の少しの疲労感とひぐらしの鳴き声は少年時代に戻った気がして 少し切なく懐かしい気持ちになる


夏休み初日の出来事だった。

最後まで読んで下さりありがとうございます

最近少し暑い日が増えて来ましたね 夏っぽい空になった気がします 私自身夏は好きなのですが何故だかどことなく切ない気持ちになります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ